『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』をスタートアップ企業に例えてみる【#2 “制御不能”の進化と停滞】
2016年1月、中邑真輔選手、AJスタイルズ選手が去った新日本プロレスで台頭し、圧倒的な市民権を得たのが内藤哲也選手、 EVIL選手選手、 BUSHI選手、SANADA選手、髙橋ヒロム選手の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』だ。
同ユニットをスタートアップ企業と照らし合わしつつ、これまでの軌跡・今後の展望を思考するのが本連載の趣旨となっている。【#1 内藤哲也 カリスマの条件】に続く、第2回となる今回は【“制御不能”の進化と停滞】をテーマに語りたい。
早すぎた成長
2016年2月、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は木谷オーナーの「2億円プロジェクト発言」に内藤哲也選手が反論して以降、一気に新日本プロレスの潮流を変えた。
オカダ・カズチカ選手、棚橋弘至選手と対等に渡り合える新しいスターをファンたちは待っていたという見方もあるが、それが内藤哲也選手になると予想していた人はそう多くなかったと思う。
ここからはその歴史をマーティングという目線から紐解いていきたい。
キャズム
マーケティング用語に溝を意味する「キャズム」という言葉がある。
これは「革新的で新しい存在」は、ある一定の時期に変化を遂げなければ市場で大きく普及しない。そのターニングポイントがキャズムであり、ここを超えられなければ、淘汰されてしまうという現実がある。
『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』とキャズムの関係性を書く前に、まずはイノベーター理論の説明をしたい。
イノベーター待望のユニット
イノベーター理論とは、アメリカのコミュニケーション学者であるエヴェリット・ロジャースによって提唱された理論だ。
消費者(新日本プロレスのお客様)が新製品(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン)に対する行動を観察すると、5種類に分類ができるというものである。この5種類は以下のように定義される。
- イノベーター
- アーリーアダプター
- アーリーマジョリティ
- レイトマジョリティ
- ラガード
上から順に新しく革新的なものに飛びつくスピードが早いと思ってほしい。
『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』人気について内藤哲也選手は「手のひら返し」とも語ったが、ここでは時期とファン層について考えたみたい。
イノベーター層の興味を惹く
メキシコから帰国した内藤哲也選手が「1人ロスインゴ」を始めた時期に飛びついたのがイノベーター層である。つまり、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の結成前。キャップやTシャツも『ロス・インゴベルナブレス』の時代。G1クライマックス25で内藤哲也選手が棚橋弘至選手を相手にデスティーノを繰り出すも大合唱が起こらなかった時代だ。
そして、2015年の10月には EVIL選手、11月にはBUSHI選手が加入し、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』がユニットとしてスタートする。
この時点から徐々に内藤哲也選手や『BULLET CLUB』以来に誕生した新しいユニットに興味を示すファンが増えてくる。
“制御不能”な軍団はこれから何をするのだろう、と。
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アーリーアダプター、アーリーマジョリティ期
前述した「2億円プロジェクト」が2016年2月。そして、2016年4月内藤哲也選手がオカダ・カズチカ選手が保有するIWGPヘビー級ベルトに挑戦すタイミングに、アーリーアダプター層が『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』を完璧に支持しはじめた。
中邑真輔選手、AJスタイルズ選手の離脱により、新しいスターを求めていた新日本プロレスファンは内藤哲也選手が魅せる“制御不能な新世界”に一気に惹きつけられたとも言えるだろう。
この試合を見てみると既に会場全体が『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』グッズで溢れていることが分かる。
「内藤、今の新日本プロレスを変えてくれ」と。
お客様の期待を受け「主役になると言わなくなった」内藤哲也選手は、IWGPヘビー級ベルトを初戴冠。さらにここで4人目の男 SANADA選手も加入を果たした。
髙橋ヒロムというPRのプロが加入
本来であれば、内藤哲也選手のIWGPヘビー級ベルト戴冠で、ムーブメントが過ぎ去ってもおかしくはなかった。
夢を叶えることができてよかったね、と。ベルトの価値を超えたと言ってもある種のゴールだったようにも思える。
本来であれば、ここで1度目のキャズム(失速の可能性がある溝)が訪れるはずだった。
だが、その危機を光の速さで、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は駆け抜けてしまった。人気が陰ることはなく、さらに新日本プロレスマットを席巻していく。
内藤哲也選手はそれほどの輝きを放っていた。そして、重要人物が新日本プロレスに戻ってきた。そう、髙橋ヒロム選手だ。もともと1人目のパレハとも予想されていた選手である。
過去最長の海外遠征を経て、2016年11月の凱旋帰国。その後、圧倒的な存在感で新日本ジュニアだけでなく、新日本プロレスの会場を大いに盛り上げるキャラクターとして認知されていった。
- ベルトさん
- ドラゴン・リー選手との因縁
- 田口隆祐選手との因縁
- ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア攻略本
- タイチ選手との因縁
- ダリル
- ダリルの重症事件
- バットラック・ファレとの因縁
- イニシャルK
- BUSHI選手とのIWGPJr.ベビータッグ挑戦
- ダリルJr.
- IWGPJr.ヘビー級4wayマッチ
- エル・デスペラード選手との因縁
- 絵日記風のスマホ会員限定ブログ
- ツイッター動画
- IWGPJr.ヘビー級選手権前のムービー
- ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア優勝
他にも上がればキリがない。ここまでの話題を約1年半で振り撒いてきたのだ。
内藤哲也選手が作った『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の人気が弾け続けた背景には、髙橋ヒロム選手の発信力が存在したのだ。
停滞は失速を意味した
ユニットの5人が揃っての入場はまさに圧巻だ。アメリカ大会や広島大会など、多くの会場で全員が揃い横に並ぶ絵が映し出された。
そして、会場や動画で見ているファンはその姿に熱狂した。それほどまでに『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は新日本プロレスで普及した。
ここからキャズムの話へ。
2018年は『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』にとって勝負の年だった。
飯伏幸太選手は内藤哲也選手が「失速する」と予言していたが、失速ではなく停滞が正しい表現だったと僕は思っている。ただし、言い得て妙でもある。野生の感が何かを感じさせたのだろうか。
『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は、ここまで“早すぎる”スピードで勢力を強め、観客の支持を得てきた。
ただ、お客様は目が肥えたプロレスファンでもある。ユニット結成当初ほど刺激が少ないことは自然に感じていた。
2016年、2017年では「ベルト破壊」以外であり得なかった内藤哲也選手について賛否両論の意見が出たのも、2018年からである。
“早すぎる”ブームは過ぎ去るのもまた早い。
ただ、この課題については、髙橋ヒロム選手のPR力やメンバーそれぞれの個性により表面化されるに至らなかった。
また、裏側の変化も自然と成し遂げていた。
イノベーターからアーリーアダプターは「新しく、革新的な存在」を求める。一方で、アーリーマジョリティ以降は新しさよりも、「安心できる存在」を求める。
“制御不能”に暴れ回る5人もいいけど、絆を感じさせてオフに楽しそうな時間を過ごす5人が見たい。
この2つを両立させていたのが、髙橋ヒロム選手なのだ。
激しさと楽しさのハイブリッドと言えば伝わりやすいかもしれない。
そのため、 EVIL選手が欠場した際にはなかった動きを取る必要があったとも思える。
敢えて書くが EVIL選手は『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』にとって必要不可欠な存在である。その理由については【#3 2人目の変化と成長】でじっくりと語りたい。
補足
- イノベーター
- アーリーアダプター
- アーリーマジョリティ
- レイトマジョリティ
- ラガード
イノベーター理論を説明する上で、お客様の層を5パターンに区分けした。これは、どちらが正しい、正しくない、ファンとしてどちらが偉いという話題ではない。また、ファン歴の長さを問うている訳でもない。1人ひとりのファンの求めるものが違うのだ。いずれの見方をするファンの存在が大切なのである。
“制御不能”に暴れ回る5人は魅力的だ。ただ、暴れ回るだけで今ほどの人気を得ることができたのか。この点を考えれば、どちらのファンも非常に重要なことが分かるはずだ。
レイトマジョリティ。“制御不能”の市民権
新日本プロレスの大会に行けば『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』のグッズを身に付けた観客の姿が目立つ。メンバーに届けられる歓声も非常に大きい。
これだけの声援を獲得し続けるには、会場全体のファンを継続して魅了する必要がある。『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は、より多くのお客様から支持されるユニットとしてシフトする必要もあったのだ。
ヒールでもベビーでもないユニットからは、ヒール色が消え去りつつあった。外見が変わらないだけに分かりにくいが、ラフファイトの数は激減している。
2018年2月、新日本プロレス旗揚げ記念大会のセミファイナルで、内藤哲也選手がタイチ選手の頭をマイクでぶっ叩いたシーン。大多数のファンが驚いたと思う。だが、2015年、2016年の内藤哲也選手ならば違和感のない行為だったはずだ。
2018年4月の熊本大会で語った「一歩踏み出す勇気」。これは、ヒールの発言ではない。ベビーでもヒールでもないユニットのトップがベビー寄りになっていることを自らが証明した結果である。
2018年下半期の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』
2018年6月、内藤哲也選手はクリス・ジェリコ選手にベルトを奪われて以降、ノーテーマの試合が続いている。SANADA選手も標的不在。BUSHI選手はKUSHIDA選手に5連敗を喫した。
EVIL選手に至っては、ザック・セイバーJr選手の前に“闇の王”らしからぬ敗北と絶望的な表情を2度も見せている。
ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア覇者 髙橋ヒロム選手が抜けた穴は余りにも大きかった。
結成以降や髙橋ヒロム選手の欠場前と比較して、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』が提供する話題の数が激減している。
このままの『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』では、2018年下半期一気に失速してしまいかねない。
だが、肝心の髙橋ヒロム選手がいない。髙橋ヒロム選手は1000%回復しなければ、リングに戻ることができないのだ。
新しい“パレハ”への期待
PRのプロであり、リードオフマンの髙橋ヒロム選手が負傷欠場に入り、停滞期に突入した『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』。
このアクシデントをキッカケに、本来描いていた未来とは異なる道を歩み始めることになったのかもしれない。
ここで鍵を握るのは新しいパレハの存在だ。
そのために新日本プロレスは動画まで用意した。EVIL選手以来となるお披露目予告への準備は万端である。
ただ、これまでの4人とは異なりユニットとしてある種完成された『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』に加入しなければならない。
円熟した感のあるユニットを変化させ、新しい景色を見せる必要があるのだ。
つまり、今回の新パレハ登場は、これまでとは全く異なる状況なのである。
登場がピークになることは以ての外。これからのシリーズで『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』を牽引することすら必要になる。
レイトマジョリティ層までが支持派に入った現在の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』に加入するということは、多かれ少なかれ必ずこの声が出る。
「あの5人がよかった」
これは今までに存在しなかった声だ。これまでのパレハは「誰?」だった。ユニットの一員となるに相応しい人物なのかという視点はなかった。
Instagramで例えるならば、ストーリー機能の追加だ。日本では、Snapchatが若者にしか普及しなかったが、Instagramのストーリーは老若男女に使用されている。
サービスの場合、新しい機能が失敗すれば取り下げればいい。損益分岐点に乗らないと判断すれば、ピボットまたは早期の撤退が有効な手段である。
ただし、プロレスラーはそうではない。
新パレハはプレッシャーに耐え、さらに新しい景色を魅せられる人物にならなければいけない。
この人物とは誰なのだろう。
僕は新パレハがユニットに変化をもたらすことを切に願う。
進化を経て、停滞期に入る。これは市場の理論として必ず起こり得ることだ。
これまで多く登場したサービスもイノベーションのジレンマを乗り越えて、世の中に広く普及した。
この停滞期を最短で駆け抜けようとする『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の姿に、僕は改めて声援を送りたい。
今の内藤哲也選手にはパレハがいる。相棒たちの存在は変化する勇気をくれる。1人じゃないから何かを成し遂げることができるのだ。
スタートアップとは、君が世界を変えられると、君自身が説得できた人たちの集まりだ by ピーター・ティール
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