なぜ、石森太二は獣神サンダー・ライガーを挑戦者に指名したのか
5570人札止め。新日本プロレスが変わる日「、多くのファンが詰め掛けていた。
ジェイ・ホワイト選手の手によってNEW ERAが実現された2019年の『THE NEW BEGINNING in OSAKA』は大きな盛り上がりを見せたのだ。
飯伏幸太選手の復帰宣言、ロッポンギ3Kの挑戦表明など数々のサプライズがあった中で、新日本プロレスジュニアにも更なる新展開が待っていた。
田口隆祐選手とのリボーンをカケた闘いを制した石森太二選手が、解説席に試合を分析していた新日本プロレスジュニアのレジェンドである獣神サンダー・ライガー選手にベルトを掲げ、挑戦表明を行なったのだ。
獣神サンダー・ライガー選手は、新日本プロレスのレジェンドであり、生きる伝説だ。
なぜ、石森太二は獣神サンダー・ライガーを挑戦者に指名したのか。
僕は大きく3つの理由があると考えた。KUSHIDA選手か海の向こうに旅立った今、再び始まる戦国時代を前に、リボーンした王者・石森太二選手の「挑戦」が始まろうとしている。
世界を目指す上で最も美味しい
現在の“Good But Guy”タマ・トンガ選手にコンタクトを取り、『バレットクラブ』に加入した石森太二選手。
プロレスリング・ノアを退団時の記者会見では、内田雅之さんより「ノアを再生するうえでの貢献は感謝しかない。彼の存在がNOAH the REBORNに拍車をかけたのは間違いない」というコメントを受けている。
まさに石森太二選手は再生・新生の請負人である。
そして、その記者会見ではこうも語っているのだ。
「“世界規模"で石森太二をアピールできるように今後は頑張っていきたい」
世界規模この言葉を見ると、新日本プロレス8年間牽引したKUSHIDA選手が真っ先に浮かぶ。
世界中のリングに上がりつつ、『IWGPジュニアヘビー級ベルト』を6度戴冠。まさに石森太二選手が目指すステージで活躍した同年代のレスラーだ。
世界規模になるための1stステップとして、『バレットクラブ』に加入し、『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』では準優勝という功績を残した。
そして、2019年のイッテンヨン『レッスルキングダム13』では『IWGPジュニアヘビー級選手権試合』のリングに上がり、見事初挑戦・初戴冠を成し遂げた。
勲章は手に入れた。ただ、非常に誇らしいことなのだが、勲章を手にしただけでは、レジェンドと記録的に並んだだけである。
今のレジェンドと肌を合わして、今の自分の凄みを発信する。
そのためにはレジェンドである獣神サンダー・ライガー選手と戦うのが一番美味しいのだ。
日本国内のみならず、海外の試合でライガー選手に浴びせられる歓声はとんでもないものである。
現WWEの中邑真輔選手は、海外興行で一際大きな声援を浴びた時、「ライガーさん超えたんじゃない?」と思ったという。
新日本プロレスが生んだレジェンドは世界規模になるための「ジャンプ台」として最適だと言える。
ただ、「お前、後悔するぞ?坊主」と言いきれる獣神サンダー・ライガー選手は、今もなお錆びることない実力を持っているのだ。
VS田口隆祐
田口隆祐選手との防衛戦は非常に見応えのある試合となった。
序盤はキープオンジャーニーを巡る探り合いの攻防。
中盤の前半は石森太二選手のペースで進むが、田口隆祐選手のドロップキックにより流れが一気に変わる。
三角飛びプランチャー、スワンダイブ式のミサイルキック。
そして、Apollo55時代のアクションを見せてのノータッチ・トペ・コン・ヒーロ。
自身の歴史も見せることで、これがただの試合ではないことを証明しているかのようだ。
「石森、足首いただくぜ」
アンクルを極めるため「詰将棋」のような展開を魅せる田口隆祐選手。
髙橋ヒロム選手戦以来の“厳しい田口隆祐”の片鱗も飛び出すも、新チャンピオンには一歩及ばなかった。
アンクルを極められ、ロープへと逃げる様は今か今かと復帰の時を待つ彼の姿が少しだけ重なって見えた。
ライガー最終章という言葉
2014年に飛び出した「ライガー最終章」というワードから5年が経った。
「プロレスは腹一杯になるまでやった方がいい」という天龍源一郎さんの言葉通り、NXTのリングにも上がった。まだまだ、活躍のステージを広げられるのが世界の獣神なのだ。
だが、2017年には『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』を勇退している。
ここでは「リーグ戦がなくなった分、一発勝負のコンディションが整えられる」と明言。KUSHIDA選手以来のと『IWGPジュニアヘビー級選手権試合』への準備は既に出来ているのだ。
ヒール2.0の亜種とも言えるキャラクター
石森太二選手は特異な選手である。ヒールユニットである『バレットクラブ』に加入したものの、いわゆる“ヒール”のようなアクションを起こすことは少ない。
僕は石森太二選手の立ち位置こそが、現代的で面白い図式を生んでいるように思う。
それは、ベビーフェイスVSヒールという構造が逆転している点にある。
KUSHIDA選手、田口隆祐選手、獣神サンダーのライガー選手。
新日本プロレスを代表するベビーフェイスたちはヒールの扱いにも長けている。
KUSHIDA選手は「全然変わっていない」と断言し、彼の決意を試した。
田口隆祐選手はセーラーボーイズの「キープオンジャーニー」を歌い、踊った。
この一件から石森太二選手の過去が露わになり、なんだか親しみやすいような雰囲気が生まれた。
タイトルマッチ中に満を辞して自ら踊った時には、「俺のキープオンジャーニーだ!」と監督が乱心し、会場からは怒号のような歓声が巻き起こった。
リング内、リング外、SNS。前哨戦でストーリーを丁寧に紡いた結果、石森太二選手はリングの上で踊るだけで大歓声を得ただけでなく、キャラクターが確立されつつあるのだ。
イジられる(愛される)ヒール。
こういった逆転現象が起こるケースの大半はどちらかが滑稽に映るケースが多い。にも関わらず、石森太二選手は逆転した側で「受ける」ことが非常に上手い。
これは常に刺激的で魅力的な試合ができるからこそ成立する個性である。
「カワウソくん」
「動物好きの俺と動物の神」
など、ウィットに富んだコメントも残せる。
ヒール2.0(ダークヒーロー)の派生として、非常に面白い立ち位置に石森太二選手は来ていると僕は思う。
ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア全勝優勝
石森太二選手が『IWGPジュニアヘビー級王者』として目指す頂は、『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』全勝優勝だ。
過去、獣神サンダー・ライガー選手とプリンス・デヴィッド選手しか成し遂げていない歴史的な快挙だ。
だが、このタッグリーグにレジェンドの姿はない。
新日本プロレスジュニアをリボーンするためには、避けて通れない道。
キープオンジャーニーという過去を受け止めてのリボーン。
NEW ERAはジュニア戦線でも止まらない。
最後に、田口隆祐選手が緑のつなぎで登場していることに気付かず、石森太二選手がマスクを取り、指先の銃口を向けた瞬間の表情。
この顔を見るためだけに『新日本プロレスワールド』に加入する価値があると僕は思う。
マスクを被り、一度も対戦相手を見ることなく、リングまで向かう。そして、決めポーズを構えた瞬間にその真相を知り、マスクを被り直す。その後もしばらく表情は柔らかいままだった。
ベビーフェイスのようなヒール。第83代チャンピオンのリボーンは始まったばかりだ。