獣神サンダー・ライガーが引退を発表。プロレスをエンジョイするということ
獣神サンダー・ライガーに学ぶ、プロレスをエンジョイするということ。今日はここについて考えてみたい。
追記
2019年3月7日。獣神サンダー・ライガー選手が引退を発表した。
新日本プロレスの旗揚げ記念日に獣神サンダー・ライガーが石森太二選手との「IWGPジュニアヘビー級選手権試合を戦い、惜しくも敗れた。
僕はこの敗北、ひいては負けっぷりにベテランのカッコよさを見た。
2019年で新日本プロレスを退団したKUSHIDA選手は「ライガーさんくらいプロレスをエンジョイしたい」と語った。
言わんとしていることは分かる。ただ、プロレスをエンジョイするとは具体的に何なのだろうか。
プロレスという言葉にはあまりにも色々な捉え方と価値観があるように思う。
鈴木みのる選手は以前、インタビュー動画にて、プロレスリングではなくプロモーションレスリングが原点であると語っていた。
文字列だけでも諸説がある。
また、柴田勝頼選手のドキュメンタリー動画で「プロレスを教えていることがプロレス」と言われ、顔をほころばせ喜んでいた。
「リングに上がっていないだけでプロレスをしている」
プロレスラーでもなければ、業界の人間でもない。そんな僕がプロレスという言葉を学ぶためには獣神サンダー・ライガー選手をじっくりと観察してみるしかないと思った。
解説席では「新日本プロレスのファン。特等席で試合が観れてラッキー」と語り「スゲーーー!!!」を連呼する。
一度リングに上がれば、その一挙手一投足で見るものの目を奪う。
そんな生きる伝説が新日本プロレスジュニアの頂に再び挑戦する。
対するチャンピオンは闘龍門出身でプロレスリング・ノアで頭角を現した石森太二選手。
「世界で名を売るために新日本プロレスを選んだ」
「新日本プロレスジュニアをRebornする」
歴史と伝統を新生させることはそう簡単なことではない。
そこで、石森太二選手は自分の価値を爆発的に高める道を選んだのだ。
バーンソルジャーの進化
入場時から圧倒的に空気を作り上げ、自分のペースで試合を運ぶ。これが、ベテランの強さでもある。
この日の大田区記念体育は「大ライガーコール」。ここまで来ると相手が誰か?という軸ではない。世界の獣神がこれからシングルベルトを懸けて戦うという時間への期待値が伝わってくるようだ。
一方で、石森太二選手は獣神サンダー・ライガー選手に声援が集まることを予見していたようにも思う。
おそらくこの日限りとなる「ボーンソルジャー×獣神サンダー・ライガー」のマスクで姿を現したのだ。
正直これには一本取られた。というのも、この試合が行われる日まで、石森太二選手は獣神サンダー・ライガー選手のことを知るために、さまざまなことに取り組んできたためだ。
食虫植物や釣り。はたまたスープレックス山田くんなど、リビングレジェンドの趣味嗜好、歴史に触れてきた石森太二選手。
そこで見つけた境地こそが自分のマスクに怒りの獣神を宿すことであったのだ。
グラウンドで攻める英雄
試合序盤、獣神サンダー・ライガー選手は徹底的に関節技で石森太二選手を攻め続けた。
ロックアップはなし。相手の力量については、今更測る必要はないということだろう。
定番のロメロスペシャルから変型カベルナリア。
チャンピオンの腰をデビュー30周年を迎えるベテランは攻め続ける。
骨法からジャベなどの複合関節技。
「どの角度からでも主導権は握れるんだぞ、坊主」
そう言わんばかりに試合の序盤は獣神サンダー・ライガー選手のペースだった。
ナイスミドルに惚れた
ペースは握られつつも、勝ちきる展開に運ぶ強さが石森太二選手にはある。
要所要所で的確なダメージを与え、終盤は必殺のイエスロック(Yes Lock)で試合を決めた。
ただし、世界の獣神もライガーボムや雪崩式フランケンシュタイナーなどの技で現在王者に迫り続けた。
また、指をくるくると回す仕草や飛行機ポーズなど、往年のパフォーマンスも連発。
これが世界の獣神だと言わんばかりに。
ベテランになっても自分が挑戦者であることを自覚し、常に自分から仕掛ける。まずはその姿勢に改めて感銘を受けた。
そして、最も凄いと思ったのは敗北を喫した後である。
帰りの花道を引き上げる際、獣神サンダー・ライガー選手はファンの人々に関して謝罪する仕草をみせた。
負けた試合の後で、悔しがるよりも先に会場へ集まったファンに対して、謝罪する。
こんなレスラーがこれまでにいただろうか。勿論、マイクを持っているわけでもない。
「せっかく応援してもらったのに、負けてしまって申し訳ない」
あぁ、これがリビングレジェンドと呼ばれ、「プロレスをエンジョイしている男」の発想なのだ。
そして、バックステージでのコメントがさらに潔く、そして意味深だった。
伝説の進退
獣神サンダー・ライガー選手は石森太二選手に敗れたバックステージでこう語った。
「石森が強くて俺が弱かった」
アントニオ猪木さんが昨年、プロレスラーの強さについて語って以降、「強さ」について言及したのは、KUSHIDA選手に続いて2人目となる。
勝った負けた。そんな小さいことでプロレスをしていないとしても、勝者と敗者は生まれる。
だからそこ負けたら応援してくれたファンにきちんと気持ちを伝えて、バックステージでは反省する。
試合の悔しさを見せるのは裏側でいい。そんな男の生き様に改めて惚れた。
そして、獣神サンダー・ライガー選手は後ほど話すというこ言葉を貫いた。
彼の口からどんな言葉が飛び出すのか。その瞬間を楽しみに待ちたいと思う。