KENTAと棚橋弘至は東京ドームで何を見せたのか。

KENTAと棚橋弘至は東京ドームで何を見せたのか。

鷹木信悟、ウィル・オスプレイ、KENTA。

個性派揃いの「ビッグマッチの敗者たち」は全員どこかスッキリとした顔で勝者を讃えた。

勝者とは何か。敗者とは何か。何よりもプロレスとは何か。

「WRESTLE KINGDOM 16」から約1週間が過ぎた。

次シリーズである「LECクリンぱっ!Presents 新春黄金シリーズ」の対戦カードも発表されたこのタイミングで改めて2022年のハジマリについて振り返っていきたい。

柴田勝頼と成田蓮が誰もが憧れるような最高の試合をした翌日、棚橋弘至は文字通りどん底まで突き落とされた。

いや、「一生分の反則をする」と自ら堕ちることを選んだ。

蓋を開けてみると、2人が合わせもつ魅力とは一

海外受けを狙ったにせよ、アメプロの領域を逸脱するほどのハードコアマッチだった。

竹刀、パイプ椅子、ゴミ箱、ラダー...「IWGP USヘビーの挑戦権利証を保管していたブリーフケース」。

凶器に狂気を乗せてお互いにぶつけ合う2人。

ある種、普段の自分では居られない状況なのには違いないが、棚橋弘至はずっと様子がおかしかった。

冷たすぎる目。氷のような眼差しで対戦相手を見る。その視線の先にいたのがKENTAなのか。それとも別の何かなのか。

その答えすら全く読み取れない。

リングの上で客の感情を掌の上に乗せることを何年も続けてきたはずの“逸材”は全く自信の感情を読み取らせようとしなかった。

息が止まるような激闘を経て、棚橋弘至はチャンピオンベルトを手中に収めた。

だが、そこに勝者はいなかった。

 

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問題のバックステージ

試合後、なぜ棚橋弘至はあそこまで落ち込まなければならなかったのか。

激しい試合だった。空っぽにならなければあそこまではできない。そんな試合だった。

今思えば、“KENTA破壊指令”出ていたのではないかと勘繰ってしまうほど冷たい表情と後悔の念。

棚橋弘至はチャンピオンになった直後のバックステージでこう語っている。

棚橋「(コメントブースの席について、しばらく頭を抱え)嬉しいとか、悲しいとか、悔しいとか、何の感情も残ってないです。ただ…ただあるのは虚無感……。虚しいだけ…。なんでオレ、プロレスラーになったのかな………。プロレスラーである自分を誇りに思いたくて……。ああ…はあ…ベルトは返ってきたけど、どっからスタートすればいいのか分からないです。

ああ、藤波さんが好きだったなあ……。ああ、武藤さんに憧れたな。で、今、これか…(苦笑)。ああ……レスリングやりたいね。誰だ、SANADAとか? こってこての60分フルタイムドローのレスリングやりたいよ(と涙声で語りながら立ち上がり、天を仰ぎながら鼻をすすりつつ)ふー(と一息つきながら控室へ)

出典:新日本プロレス

この試合を受けて、KENTAは鼻骨骨折、左股関節後方脱臼骨折、背部裂傷、左環指腱性槌指に。

どう見ても只事ではなかったが、やはり新日本プロレスとプロレスリング・ノアの“対抗戦”は欠場せざるおえない結果となった。

あの日、もしもKENTAがプロレスリング・ノアへ帰還していたらどうなっていたのだろう。

 

何を見せたかったのか。

新日本プロレスはKENTAと棚橋弘至のノーDQマッチを通じて何を見せたかったのだろうか。

プロレスの試合にはテーマが存在する。

試合を通じでレスラーは“何か”を表現している。

悲惨な現実、何が起きるか分からない状況。その中ですら立ち上がり、前を向く勇気。様々なことが頭をよぎった。

棚橋弘至の冷たい目。白に身を包んだKENTA。

これまで“ガイジン”レスラーが挑んできたノーDQの世界に敢えて棚橋弘至とKENTAの2人が挑んだ。その理由とは何なのか。

僕はその一つの答えが「覚悟」だと思う。

プロレスの試合は競技としてダメージを与えているのであって、傷付けているわけではない。

そのルールを取っ払い、反則裁定を無くした時、相手をただ傷付ければよいという状況になる。

相手を傷付けて、屈服させればいい。人としての心があるのであれば、相手を必要以上に傷付けるなんてできない。良心が痛むからだ。

ただ、全く心を痛めず、無意識的に人は人を傷付ける時がある。

SNSで、だ。

指先だけで人を貶める。自分の意見だけを主張する。

そこにルールも秩序もない。

一方的に人を傷付け続けた末路が棚橋弘至のバックステージコメントだ。

虚無、虚しいだけだ、と棚橋弘至は語った。

そんなSNSの現状と棚橋弘至、KENTAのタイトルマッチはつながって見えた。

 

タイトルを超えた2人

試合後、負けたはずのチャンピオンが項垂れる勝者に声をかける。胸を張ってほしい、と。

自分が信じた道と真逆のリングに上がった棚橋弘至をKENTAが優しく包んだ。

試合前はあれほど敵意を剥き出しにしていたにも関わらず、だ。

修羅場をくぐり抜けた2人にだけが分かる景色がある。

これまでKENTAと棚橋弘至に特別な因縁や物語は存在しなかった。

実力者同士の噛み合いそうで噛み合わないジレンマを超えて、非日常的に過ぎるプロレスが2人を結びつけたのだ。

肉体的なピーク時でぶつかって欲しかったというファンの想いすら隠し味に2人は最高で一度しかない試合を魅せることに成功した。

代償は安くなかったが、これからの2人、これからの新日本プロレスに必要な試合になったのは間違いない。

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