高橋ヒロムだって、髙橋広夢じゃない。ならず者だって....

高橋ヒロムだって、髙橋広夢じゃない。ならず者だって....あの頃の彼じゃない。

2020年のベストバウトは高橋ヒロムVSエル・デスペラードだった。

「中止ではなく延期」高橋ヒロム選手はずっとこの主張を貫いてきた。願えば叶う。祈りは届く。

『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア27』は見事2020年のうちに開催された。誰よりも強くこの日を願っていた男は見事優勝決定戦の舞台へとたどり着いた。

しかも、リーグ戦での借りを大舞台で返すという特典つきだ。

やっぱり大嫌い。

好きでも嫌いでもない。そんなアンニュイな気持ちではない。嫌いなんだ、アイツのことがやっぱり憎い。ライバルなんだ。

高橋ヒロムは高橋ヒロムを貫き、普段の姿で登場。そして本日の相手、エル・デスペラード選手が姿を現す。

リーグ戦を1位で突破したエル・デスペラード選手は日本のベルトを肩に掛け、白のコスチュームで入場を果たす。

ここぞ!という時は白。“鈴木軍”のボスこと“プロレス王”鈴木みのる選手が作ってきた伝統を引き継ぐ。普段真っ黒に染まっている分だけ、大切な日の白が際立つ。

「大嫌いなお前とのプロレスが楽しくて。大好きなお前にだけは負けたくない」

矛盾した感情。言葉にできない想い。2人にしか分からない世界。2人しか知らなくていい物語がある。

大嫌いなライバルの入場をどこか恍惚の表情を浮かべて、リングで見つめる高橋ヒロム選手。

高橋ヒロム選手は俺とお前の歴史を見せてやろうと語った。新日本プロレス生え抜き、新時代ジュニアのカリスマと身長体重不明のならず者。

そんな2人にどんな歴史があると言うのだろうか。

リングの中心。高橋ヒロム選手の目の前でコールを受けたエル・デスペラード選手。

二度と無い。今しか見ることのできない試合がはじまった。

 

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高橋ヒロムに勝つために

解説席には獣神サンダー・ライガーさんとミラノ・コレクションA.T.さん。『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』の優勝経験を持つ2人が試合の行方を見つめる。

試合序盤はグラウンドでの攻防から。ジュニアと言えば?華やかでハイスピードな展開がウリではあるが、敢えてじっくりじっくりとした展開から試合の幕が開けた。

高橋ヒロムが「この痛みを待っていた」とばかりに張り合いに誘い込むと合計20発の打ち合いが続く。

ここで高橋ヒロム選手はウラカンラナを狙う。ウィル・オスプレイ選手らであれば着地するという回避方法だが、エル・デスペラード選手は違う。いきなりヌメロ・ドスの体制へ。VS高橋ヒロムを意識し徹底的に研究していたことがこれだけでも分かる。

エル・デスペラード選手は高橋ヒロム選手の膝を徹底攻撃。タイムボムやタイムボム2など相手を担ぎ上げる技をフィニッシャーに持つ高橋ヒロム選手に勝つためには、踏ん張らせないことが重要なのだという作戦だ。

ロープブレイクをした後での追撃はもはや芸術級。蹴躓いたフリをして、膝にダメージを与える、それもしれっと2回もだ。

パートナーである金丸義信選手は一点攻撃を信条としている。効率的に相手を攻撃し、的確にダメージを与え勝つ。ヒールマスターの職人芸を隣で見てきたからこそ、エル・デスペラード選手は大きく成長できたことは間違いない。

ただ、ここで終わるジュニアのカリスマじゃない。

「ふざけんなよコラ!!」と言わんばかりに高橋ヒロム選手も普段見せないような攻撃を連発。場外でのフェイスバスターなんて初めて見た気がする。

 

圧倒するならず者

正直に僕の印象を書く。エル・デスペラード選手がはじめて高橋ヒロム選手と「IWGPジュニア」のベルトを懸けたタイトルマッチをした時、少し微妙な印象があった。

微妙というのは大舞台慣れしていない、タイトルマッチに慣れていないといった印象だ。正直言って、リーグ戦の方が10倍くらい面白い試合だったとすら思った。

プロレスラーも人の子(人を超えた存在だとしても)。緊張や当日のコンディションというものがあるのは致し方のないことだろう。

それが今日はどうだ。エル・デスペラード選手が高橋ヒロム選手を圧倒している。ヒールだから攻めているのであない。エル・デスペラード選手が試合を作っている。

高橋ヒロム選手は「IWGPジュニア」を三度戴冠。さらに『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』の優勝経験だってある。

一方でエル・デスペラード選手はシングルベルト自体の戴冠記録がない。

過去じゃない。今なんだ。今どっちが強いのか。そんなことを全身で表現するならず者。そんな彼を見ていると、なぜだか胸が熱くなってくる。

そして、衝撃のシーンが訪れる。

 

「俺の同期、最強だろう」

試合が25分経過する直前。髙橋ヒロム選手がエル・デスペラード選手のマスクを破り捨てた。

反則負けになってもおかしくないシーンである。

ただ、ここで事件が起こった。マスクマンにとってマスクとは命も同然。

そのマスクをエル・デスペラード選手は自ら取り素顔のままで試合をはじめたのである。

この瞬間、僕は涙が止まらなかった。

エル・デスペラード選手がマスクマンを超えたのだ。

素顔を隠すためにマスクを被っている。ファッションで被っているのではない。俺はこんなものがなくてもエル・デスペラードなんだ。そんなメッセージを高橋ヒロム選手へぶつけるかのように平手を見舞い合う。

野暮なことや本当の名前なんてどうでもいい。

見た目なんて関係ない。今、どう生きるか。自分はどう生きたいのか。そんな想いが試合を通じて痛いほどに伝わってくるから涙が止まらないのだろう。

技じゃない。原始的な殴り合い。心と心がつながり、裸の魂が触れ合っている。そして、愛し合っていながらも反発しあっている。

まるで人間関係そのものではないだろうか。

そして、彼の素顔が顕になったとしても世界の獣神もミラノさんも昔の名前を一切言わない。ずっと前から知ってた。一度目はメイクが濃くて分かりにくかったが、今日は違う。正体不明、身長体重不明な男は確かに見覚えのある顔をしていた。ただ、一切触れない。

その心意気にも感動した。

金具へのデスバレーボムが炸裂!最後のトドメはタイムボム(レインボードリーム)!試合が決まった。いや、決まらなかった。

まだ終わらない。まだ終わりたくない。そんな想いを断ち切ったのはタイムボム2だった。

3カウントが入った瞬間。2人が顔を横並びにして倒れ込んでいる。その画が本当に美しくて涙が止まらなかった。

多分、二度とこんな景色は見れない。最高すぎる30分の結末は“2人の歴史が詰まった”ツーショットだった。

試合後、高橋ヒロム選手はこの試合について、エル・デスペラード選手についてこう振り返っている。

相手がデスペラードで良かった。俺も感情の浮き沈みが激しいから、嫌いだって言ったり、好きかもしれない、別にって言ったり、忙しいかもしんない。でも、今の感情は限りなく好きに近いぞ、デスペラード。俺はお前と一生やり合い続けたい。本気でそう思った。でも、この関係は本当に脆いもので、凄い薄いガラス細工をポンと投げたら割れてしまうような、そんな関係なんだ。いや、卵かな? ガラス細工は少し言い過ぎたかもしれない。卵、卵でいいか。いや、ここはガラス細工でいいな。そんな関係なんだ。でも、そんな関係だからこそ、本当におもしろい。本当にずっとやっていたい。ずっとやり合っていたい。そういうふうに思えるのかもしれない。

出典:新日本プロレス公式

続いてはこうだ。

もちろん。相手がデスペラードじゃなかったからとかっていう想像はできないから、ハッキリしたことは言えないけど、俺は本当にデスペラードで良かったと思う。興奮して、ムカついて、マスク破いたら、あいつの素顔が見えたよ。あいつの全てがわかった。あいつが何者なのか、ここで言ってやるよ。あいつはエル・デスペラードだ。それ以外の誰でもない。エル・デスペラード、俺が引退するまできっと戦い続けるであろう、現時点で最高の相手かもしれない

出典:新日本プロレス公式

一方、“エル・デスペラード”の言葉は「俺の同期、最強だろう」だった。

高橋ヒロムだって、髙橋広夢じゃない。エル・デスペラードだって過去の自分ではないのだ。

獣神サンダー・ライガーさんがマスクを脱いだとしても獣神サンダー・ライガーさんであるように。マスクマンはマスクを脱いだとしても、その存在、意味が変わることはないのだ。

最高相手、最大のライバル。一生続く物語にまた一つエピソードが生まれた日となった。

手元にある質問を読むな

一個だけ。一個だけ言わせて欲しい。

僕はもう既に記者が本業ではない。ただ、あの場で高橋ヒロム選手に質問するのではあればこの質問だったと思う。

「あなたにとってプロレスとは何か。そして、まだプロレスを知らない人々へメッセージをお願いします」だ。

ゾーンに入りまくっている高橋ヒロム選手だから出る言葉があったはずだ(盛りさんではなく)。

乱暴な言葉は使いたくないので、『鋼の錬金術師』エドワード・エルリックの名言が頭に浮かんだとだけ書いておく。

 

夢見ていよう

「紅白」色は昔から縁起のいい色として行事で使われている。また、相対する色の組み合わせから紅白戦などの対抗戦に使われている。 その由来は源平合戦の使用した旗印が赤と白で分かれて戦ったことからきている事が有力とされているそう。

この日、ジュニアがヘビーを食った日に高橋ヒロム選手が紅。エル・デスペラード選手が白を貴重としていた。2人がたまたま歩んできた道の中で生まれたものであり、絶対に計算して生まれたものではない。

ただ、この日の2人は赤と白だった。

まるで、2021年の新日本プロレスに幸があることを願うように。2人の“生え抜き選手”が魅せた試合は記憶にも記録にも残る大切な一戦だったことは間違いない。

「おい!デスペラード!またやろうぜ!」

引退まで何度でも何度でも。そして、2人の次の曲がはじまるのです。

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