「“天気雨”は幸せと驚きをくれる」2018年10月の棚橋弘至とオカダ・カズチカ

 

2018年10月26日、“聖地”後楽園ホールで新日本プロレスにとって歴史的な瞬間が訪れた。

棚橋弘至選手とオカダ・カズチカ選手の握手だ。

元々、棚橋弘至選手は「握手をしない」と公言していた人物である。これまでも求められても応じないケースの方が多かった。

「仲間はいても友達はいない」

そうした発言の裏には強くあり続けるための覚悟があったのだと思う。そんな棚橋弘至選手が自身から握手を求めたのだ。

2018年10月の棚橋弘至選手とオカダ・カズチカ選手。ここからはじまる物語のためにも、これまでの歴史を振り返る必要があると感じた。

 

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レイン・メーカーの歴史と父である“聖帝”

2012年のイッテンヨンでオカダ・カズチカ選手は、レイン・メーカーとして凱旋帰国を果たした。

中学を卒業しウルティモ・ドラゴン氏が創設した「闘龍門」に入門。メキシコでプロレスラーとしてのキャリアをスタートさせたオカダ・カズチカ選手。将来性を感じたウルティモ・ドラゴン氏から新日本プロレスへ連絡が入り、移籍が決定した。通常であれば、外敵としてのデビューになるがオカダ・カズチカ選手はヤングライオンとしての道を歩んだ。今思えば、龍の血が流れている若き才能に対して、獅子の血を入れることを目的としたのかもしれない。

オカダ・カズチカ選手には「龍と獅子」のDNAがある。

メキシコではネグロ・ナバーロ選手。日本ではプレデビュー戦を内藤哲也選手。そして、タイチ選手がデビュー戦の相手を務めた。

ルチャの世界にはデビュー戦の相手を父親とする風潮があるらしい。きっと、この3選手もオカダ・カズチカ選手にとって重要な存在であるに違いない。だからこそ、棚橋弘至選手との握手シーンの解説席にタイチ選手が“運命”的に導かれたのかもしれない。

 

新日本プロレスを担うための激闘

棚橋弘至選手が入門した当時の新日本プロレスは暗黒期に差し掛かっていた。好勝負を行っても観客動員は乏しい。スターになると思ってはじまったプロレスキャリアはスターを作る土壌に力を注がれることになる。

過去のファンだけではなく、新しいファンを開拓しなければならない。そのために棚橋弘至選手はキャラクターを一変した。猪木問答の際、アントニオ猪木氏に各選手が闘魂ビンタを見舞われる中、唯一頭を下げる前に向かっていた男は、ファンから嫌われることで、相手を輝かせる道を歩みだした。

ストロング・スタイルという言葉が中軸にある時代に、チャラさを全面に押し出す。また、新規のファンに分かりやすい技をフィニッシュムーブに据えた。

棚橋弘至選手は1995年のジュッテンキュウ 新日本プロレス VS UWF全面対抗戦に“密航”するほどのプロレスファンだ。。プロレスラーを目指し、立命館大学のプロレス同好会に入会し、新日本プロレスを目指した。

そんな棚橋弘至選手であれば理解できたはずだ。「ハイフライフロー」が如何に選手生命に危険を強いられる技なのかということを。

だが、自身の商売道具である肉体を傷つけることで、観客にプロレスの分かりやすさ、楽しさを届けた。

そして、自分と同じ覚悟ができる新しい才能を待ち続けていたのだのだろう。本当の友達になれる相手を。

 

棚橋弘至とオカダ・カズチカ

2012年のイッテンヨンから始まった2人の関係。実はオカダ・カズチカ選手の壮行試合の相手を棚橋弘至選手が務めているなど、既にエピソードは存在していた。

そこから2人は4年に及ぶ抗争に入る。『IWGPヘビー級ベルト』をオカダ・カズチカ選手、棚橋弘至選手、AJスタイルズ選手以外戴冠していない時代だ。

2015年のイッテンヨンで棚橋弘至選手に敗戦したオカダ・カズチカ選手は、2016年のイッテンヨンで棚橋弘至選手から勝利を掴み取り、事実上の棚橋超えを果たした。

2016年は中邑真輔選手がWWEに移籍し、新日本プロレスが揺れていた時期である。

「インターコンチ!オレしかいねぇだろ!」

中邑真輔選手の壮行試合で棚橋弘至選手が叫んだ言葉は、「太陽」と「月」として活躍してきた2人の関係が明確に伝わるものだった。

だが、棚橋弘至選手は神秘的に輝く「月」にはなれない。太陽のまま大地を照らし続けたのだ。

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V12の相手として

2017年以降、棚橋弘至選手は歴戦のダメージから以前ほどの輝きを保てなくなってきてた。だが、満身創痍だからこその強さを発揮し始めたのが、2018年の『ニュージャパン・カップ』以降である。

棚橋弘至選手はオカダ・カズチカ選手の『IWGPヘビー級』防衛新記録が掛かった試合に名乗り出た。

下馬評だけで考えれば棚橋弘至選手が勝利する可能性は低い。それでも立ち上がった。ひょっとすると勝利を掴む以外の目的もあったのかもしれない。自身の記録を破るのであれば、自分を超えた上で実現して欲しい、と。

だが、ここから棚橋弘至選手とオカダ・カズチカ選手は3度のシングルマッチを行うこととなる。

満身創痍のエースは、身体よりも心で技を繰り出した。2018年の戦績は1勝、1敗、1引き分けの結果を残した。

この状況になったからこそ、今回の握手が生まれたのだと思う。棚橋弘至選手はオカダ・カズチカ選手に勝利した時、大きく喜びを表現していた。

追い抜かれた後輩に追いつき、並んだ。

だからこそ、友達になれる。そう確信したのではないだろうか。

ケニー・オメガ選手が今回の一件に対して苦言を呈していたが、僕の見解は異なる。あの握手には、将来的にエースの系譜を渡すという意味が込められていると思う。棚橋弘至選手は長年、本当の意味で新日本プロレスを任せられるエースを探していたのだ。

新・闘魂三銃士。太陽と月と北極星

太陽と月、そして北極星(Polaris)について話したい。

それぞれの個性が強すぎる新・闘魂三銃士は結成後、大きな活動を見せずに解散してしまった。確かに一括りにするのは時期早々な決断だったのかもしれない。

だが、その時選ばれた3人は新日本プロレスの歴史において重要な役割を担った。この3人から“祝福”を受けたのがオカダ・カズチカ選手だと思っている。

太陽・棚橋弘至選手は“ライバル”として長きに渡り、新日本プロレスを背負う覚悟を伝授し続けた。棚橋弘至選手が伝えたのは今、この試合を見てくれているファンたちを“愛”する気持ちである。

月・中邑真輔選手は“兄貴”として、巨大過ぎるライバルとの戦いを側で見守り続けた。時には自身も身体をぶつけ、棚橋弘至選手では伝えきれない新日本プロレスを伝えた。中邑真輔選手が伝えたのは、己を変える“勇気”である。

そして、北極星(Polaris)柴田勝頼選手は“教師”として、一度だけの授業を行った。

オカダ・カズチカ選手が知らない昭和プロレス。ストロング・スタイルを身体に教え込むことは容易なことではないだろう。

ただでさえ危険なプロレスを、更に追求したような試合となるのは明白だ。

だが、満身創痍の身体にも関わらず、柴田勝頼選手はオカダ・カズチカ選手に新日本プロレスを叩き込んだ。

柴田勝頼選手が叩き込んだのは“根性”だ。どんな強敵が目の前に来ても全ての技を受ける。男の根性にファンは魅了されるのだ、と。北極星は常に同じ位置にある。何か迷ったことがあれば、柴田勝頼選手の背中を参考にすればいい。

「生まれた時から新日本プロレス」

彼と共に新日本プロレスはあるのだから。

愛、勇気、根性。この3つが揃ったのが、今のオカダ・カズチカ選手だ。凱旋時のレインメーカーのような冷徹さはすっかり消え失せた。素の魅力あれば24時間オカダ・カズチカ選手でいることもできるだろう。

2018年のイッテンヨンで宣言した“幸せの雨”が降るのはこれからなのだ。

名乗り出た“Bad Boy”

棚橋弘至選手とオカダ・カズチカ選手のツープラトンを見舞われた相手にも僕は感動を覚えた。

自身を“Bad Boy”と称し、現在の新生『BULLET CLUB』を作り上げたタマ・トンガ選手だからだ。

彼はインタビューでこう語っていた。

「オカダ・カズチカ選手はトップレスラー。棚橋弘至選手は新日本プロレスの象徴」と。

jp.thelionmarks.com

心からのリスペクトが2人にはある。だからこそタマ・トンガ選手は立ち向かっていったのではないだろうか。

内藤哲也が後楽園ホールに現れなかった理由

「ここまで上がってこい」。棚橋弘至選手は以前、内藤哲也選手との試合後に激励の言葉を掛けた。

可能性のある後輩、仲間。ここから同じ目線で新日本プロレスを牽引できる友達になって欲しい。そのためには「もっと成長してくれ」という思いがあったのではないか。

ただしその数年後、内藤哲也選手はエースの系譜から外れた。武藤敬司選手に憧れ、棚橋弘至選手を目指した男は、別の道を歩むことに決めたのだ。

そこまでしなければ今の内藤哲也選手はなかった。あの決断がなければ、今の飛躍はなかった。

だが、今回の予感は感じていたのではないだろうか。棚橋弘至選手が自分ではなくオカダ・カズチカ選手を認める瞬間が近い、と。

いくら三行半を返したとはいえ、エースを目指していた気持ちに嘘はない。握手する光景を直視し、コメントを求められることが耐えられなかったのではないか。

オカダ・カズチカ選手に苦言を呈しているが、棚橋弘至選手に否定的な言葉を投げかけなかったことからも、本人も理解していないレベルでの「ジェラシー」があるのかもしれない。

プロレス王は知っていた

先日、“プロレス王”鈴木みのる選手はインタビューにて、オカダ・カズチカ選手について語っていた。

この発言がなぜ今頃フォーカスされるのか。僕には正直疑問だった。何故ならば数年前に発売した著者『プロレスで〈自由〉になる方法』で同じ内容を語っていたためだ。

インタビューを受けているのかすら疑問に感じていたが合点がいった。

鈴木みのる選手は直近の棚橋弘至選手の行動を見て、オカダ・カズチカ選手と“友達”になることを知っていたのだろう。

「プロレス王」は何でもお見通し。「何でも知っている」。これは2017年に鈴木軍が新日本プロレスへと帰還した時の動画で繰り返し飛び出していた言葉である。

近い未来。棚橋弘至選手はオカダ・カズチカ選手と組むことになる。

真壁刀義選手の言葉を借りるのであれば、「これから新日本プロレスの逆襲」ははじまるのだ。

プロレスで〈自由〉になる方法

プロレスで〈自由〉になる方法

 

 

太陽と月が照らした大地に降る幸せの雨

新日本プロレスの「太陽」として棚橋弘至選手は、暗黒とまで呼ばれた大地を照らした。

太陽の輝きを受けた「月」中邑真輔選手は、唯一無二の輝きを見つけ、ファンを虜にした。そして、世界中に新しい可能性を提示した。

「太陽」と「月」が照らした大地には、多くの「若い獅子」が誕生し、切磋琢磨できる土地となった。

そこには未だに衰えを知らない「獣神」、「虎」、「青義」、「猛牛」、「豪腕」、「野人」もいる。

「みんなのこけし」を従えた「暴走キングコング」や「闘犬」、「荒武者」、「3Kの輝きを持つ獅子」、「最高の親友」だっている。

空を見上げれば「空王」が。「時間の侵略者」がいる。

街を見渡せば「敏腕プロデューサー」と「監督」が豊かな時間を提供している。

かって「星屑」だった「制御不能」な男が、一歩踏み出す勇気を持ったことで集った“パレハ”には「闇の王」、「漆黒のデスマスク」、「Cold Skull」、「時限爆弾」、「龍」がいる。

「プロレス王」が束ねる軍団には「聖帝」や「ならず者」たちの姿がある。

「悪夢」、「用心棒」、「悪者」、「執行人」、「ポン引き」など世界レベルの“ガイジン”ユニットもまた新しな輝きを放ち始めた。

世界に飛び出した「未来の開拓者」と「支配者」も更なる力を手に入れている。

暗黒から抜け出すことが「己の道」だと見据えた「ザ・レスラー」は、先輩たちが守り抜いてきた歴史と伝統を8,884km離れたアメリカの地で伝えている。その座標は変わることがない。

これが今の新日本プロレスの姿だ。

そして、「金の雨」を降らす男と太陽が“友達”になった今、真の意味での「恵の雨」が降り注ぐ。

“天気雨”は幸せと驚きをくれる。

「ナイフを持った可愛い後輩」も「ベストバウト・マシン」も「黄金の星」も更に輝く。

今すぐじゃなくたっていい。これはハジマリで構わない。だって、プロレスは「裏切り」だけではないのだから。

2018年1月の棚橋弘至とオカダ・カズチカがこれから紡ぐ物語は、まだまだはじまったばかりだ。

新日本プロレスに現れる「虹」を楽しみに待ちたい。

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