なぜ、新日本プロレスは興行会社からIP会社に変化しなければならないのか。

日経BP社が展開する日経ビジネスオンラインで新日本プロレスCEO・ハロルド・ジョージ・メイさんのインタビュー記事が公開された。同記事は「日経トップリーダー」10月号の記事を再編集したものである。

46年の歴史と伝統を持つ企業の復活劇。売上高・利益共に黄金期と呼ばれる1998年の水準を大きくクリアし、49億円の売上を達成した。

ビジネスという文脈でも、新日本プロレスからは学ぶことが多いことを改めて証明した記事になっていたと思う。

ここではメイ社長が語っていた新日本プロレスの未来について考えてみたい。

なぜ、新日本プロレスは興行会社からIP会社に変化しなければならないのか。

メイ社長ひいては新日本プロレスの中にあるビジネス論について考察してみたい。

 

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IP企業としての可能性

まずは、インタビューの中で僕が最も興味を持った一文を記載したい。

僕は新日本プロレスを興行会社からIP(知的財産)会社に変換したいと考えています。興行会社はチケットやグッズを販売する。それにも今まで通り取り組みますが、IP会社としてこの会社が生み出すブランドという資産をさらに有効活用したいと思っています。

出典:日経ビジネスオンライン

新日本プロレスが保有している資産を最大化し、売上につなげる。そのための打ち手として必要なのは“会場での試合”以外でどれだけの利益を追求できるか、という点にある。

興行での限界値

興行会社としてメインの売上となるのはチケットとグッズだ。現在、チケットに関して言えば、多くの会場をほぼ満員にすることに成功している。もちろん、会場を多くのファンで埋めることはたやすいことはない。多くのプロレス団体が会場を埋めるために、営業や選手がプロモーション活動に精を出している。

試合後には選手がグッズを手売りするのがインディー団体ではスタンダードであり、新日本プロレスもサイン会を開催し、会場でのグッズの売上を伸ばしている。

満員→札止めにするためリソース。グッズを販売するための企画。この2つの領域は営業努力で着実に伸ばすことができる。

ただし、チケットは会場のキャパという限界値があり、グッズは企画〜生産〜販売までに一定の時間が掛かり、売れ行きの製品も人気に左右される点がある。また、売れるサイズ、売れないサイズを分析しつつも在庫が残るケースも少ない。グッズの原価や管理するための倉庫の費用も掛かる。

メイ社長は新日本プロレスを世界に通用する企業にするために、CEOへ就任した。そこでのPL(損益計算書)やBS(Balance Sheet)を分析した結果、興行会社としての限界が近いと感じたのではないだろうか。

今と同じ戦略を続けていれば安定的な収益は見込むことができる。ただし、停滞は企業にとっての衰退を意味する。

メイ社長がこれから行うのは、新日本プロレスの資産価値を向上させるための投資なのだ。

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IP企業としての可能性

IP(Intellectual Property 知的資産)ビジネスは多くのビジネスチャンスを秘めてる。小説や漫画、アニメ、ゲーム。様々なメディアで誕生したIPは特定のメディアだけではなく、多くのメディアに最適化されたコンテンツとして提供されている。

更にそれぞれのメディアに最適化されたコンテンツは自動的に新しいファンを獲得し、新しいファンを獲得する。IPの価値が向上することにより、大きな利益を挙げることに成功する。

現在のスマホゲームを見ても『Fate/Grand Order』や『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』、『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』、『Pokémon GO』など人気IPが売上の上位を占拠している。

また、『モンスターストライク』や『パズル&ドラゴンズ』 は定期的に人気IPとのコラボイベントを実施し、双方のIPの価値を高める施策を投じている。

新日本プロレスはこの領域に踏み込むのだ。

内藤哲也選手と木谷高明オーナー

2018年2月に行われたこの発表を覚えているだろうか。

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この日、2020年のイッテンヨンにリリースを予定し、世界中で遊べるゲームをブシモが開発するという発表が行われた。 このアプリを開発するパートナー(パレハ)を募集すると木谷オーナーは明言した。

“パレハ”となるパブリッシャー、ディベロッパーを世界中から集め、新日本プロレス愛が込められたゲームを作り上げる。これがまさに、メイ社長が今回提言した「IP企業への変換」への大きな一歩となるだろう。

新日本プロレスとアプリゲームの相性

新日本プロレスとコラボしたアプリゲーム。ファンであれば一度は遊ぶことになると思う。更に人気ユニットや選手をフィーチャーしたイベントを企画すれば、グッズにお金を払う感覚で課金することも想像しやすい。

また、選手それぞれがPR動画に出演し、ゲームで遊ぶことでプロモーションについても最大化を考えられる。元々インフルエンサーとしての力も持っているのが、新日本プロレスのプロレスラーたちだ。

例えば、内藤哲也選手と髙橋ヒロム選手が本アプリで遊んでいる動画が定期的に配信されたらどうだろう。また、ゲームを通じて選手と一緒に遊べるような仕掛けが会った場合、ユーザーは継続的に遊ぶことになるのではないだろうか。

また、惜しまれつつもサービスが終了したオンライントレーディングカードゲーム『キングオブプロレスリング』とは異なり、カードを印刷、販売するというコストも掛からない。現在のスマホゲーム市場を考えると、開発費に数億円は必要となるが、ペイできるチャンスは十分にある。

現在、ゲームデザインも全く発表されていない状況だが、内容をしっかりと作り込むことで、ファンから愛されるゲームになると思う。そして、このアプリゲームが売上ランキング上位に食い込んできた時に、IPの価値が大きく向上する。

「新日本プロレスのプロレスラーと絡めば美味しい」と、世の中の企業に多く示す材料となるのだ。

また、この波は新日本プロレスだけに留まらない。日本では全日本プロレスやDDT、ドラゴン・ゲート、プロレスリング・ノアなど各団体とのコラボも可能になる。世界基準で考えればCMLLやROH、RPWもコラボ対象となる。最終的にはレジェンドレスラーとのコラボも可能となるのだ。

現在も新日本プロレスに対して、多くの企業がスポンサー契約を結び、自社のブランド認知を高める施策を講じている。このスポンサー契約はプロレスラーの商売道具である身体を痛めずに利益を生むことが可能だ。

勿論、好勝負が生み出す熱狂こそが、新日本プロレスのストロング・ポイントであり、企業価値の源泉である。

その価値をぶらすことなく、新しい事業戦略を打ち出すことで、新日本プロレスは世界的な企業に名乗りを挙げることができるはずだ。

他にも考えられるIP展開

棚橋弘至選手の主演映画『パパはわるものチャンピオン』もIP展開のキッカケだろう。プロレスラーのストーリーに注目しているメイ社長の脳内には、まだまだIPビジネスに横展開する発想が眠っていそうだ。

例えば、オカダ・カズチカ選手の半生をドキュメンタリー映像化。これを『Netflix』や『Amazon PRIME』と共同で撮影し、配信する。

中学を卒業して日本最高のレスラーとして輝く半生。一人の人生として非常に魅力的な作品になるに違いない。

また、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の裏側を撮影した動画を配信しても面白い。メイ社長はこう語っている。

例えば、上映時間2時間の映画があったとして、最後の10分がクライマックス、決闘シーンだとしましょう。プロレスの試合はいわばその最後の10分なんですよ。

もちろん、そこだけを観ても十分楽しんでもらえる。しかし、ケガからの復活や選手同士の因縁など決闘シーンに至る1時間50分のストーリーを知っていたら、感情移入と自己投影で何倍も試合が面白くなる。

出典:日経ビジネスオンライン

この感情移入に時間が掛かる点を逆手に取り、動画として全世界に配信する。その作品がヒットすればより試合に興味を持つファンが増える。

5G時代が到来すれば完全に動画の時代になる。サイバーエージェントが現在、『Abema TV』へ大きな投資をしているのもこの理由がある。5G時代に新日本プロレスはさらに人気を加速させる可能性を秘めている。

ファンが増えた後に起こるのはチケットの争奪戦だ。争奪戦から漏れたファンは『新日本プロレスワールド』で観戦するというエコシステムが完成する。

また、ファン(ユーザー)の数が一定数を超えれば、チケットの二次流通事業に取り組んでも面白い。定価以下での販売を前提とし、利益はアドネットワークやアフィリエイトで生み出す。

従来の興行会社を超える発想を次々と打ち出してくるのはこれからだ。

また、最近新日本プロレスの公式サイトを見てみてもアドネットワークの張り方が変わっていることに気づく。中の人が変わったかコンサルタントが入ったかは不明だが、明らかに新しい収益源へと着手しているのだ。

世界の新日本プロレスへ

メイ社長が明言している通り、新日本プロレスは新しいファン層の開拓へと資源を投じている。いわゆる“プ女子”や若年層、そして海外ユーザーを中心にマーケティング活動を行っていくと思う。

現在、棚橋弘至選手がケニー・オメガ選手にイデオロギー闘争を仕掛けているが、この仕掛事態も新日本プロレスの変化について鐘を鳴らしているとも考えられる。

棚橋弘至選手は新日本プロレスの中身を変えずに器を鮮やかに変えた。これがこれまでの新日本プロレスだ。では、これからの新日本プロレスはどうなっていくのだろうか。

僕たちは新日本プロレスが生まれ変わる瞬間に対峙しているのだ。

 

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