新日本プロレスで巻き起こった筋肉の祭典。人気も華も超越する圧倒的な力

新日本プロレスが2018年11月18日に開催した後楽園ホール大会は、非常に興味深い試合が連発される満足度の高い興行となった。

つい、先日のことだ。『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の内藤哲也選手がバックステージで例年通りの苦言を呈した。

「(ドームに出場が決まっていない)あまりものの試合でしょ?」と。

この声に不満を抱かない選手はいないだろう。2年連続でプロレス大賞受賞、Numberプロレス総選挙1位。それがどうした?と。

事実、内藤哲也選手は今回イッテンヨン・レッスルキングダムで「IWGPインターコンチネンタル王者」クリス・ジェリコ選手に挑戦するが、元々は自身が敗北を喫したことで海外に流出したベルトを取り戻すリベンジマッチという意味合いがある。
今、新日本プロレスで物議を醸している“リマッチ問題”の最前線にいるという意味では、“制御不能のカリスマ”も同罪である。

そんな彼の口から風物詩的に飛び出した言霊に最も、喚起したのはこの2人だったのかもしれない。2017年の『ワールドタッグリーグ』覇者であるEVIL選手とSANADA選手だ。

当日、後楽園ホール大会では公式戦が3試合組まれていた。鈴木みのる選手&飯塚高史選手VSランス・アーチャー選手&デイビーボーイ・スミスJr.選手。石井智宏選手&矢野通選手VSタイチ選手&ザック・セイバーJr.選手。そして、“キング・オブ・ダークネス”EVIL選手&SANADA選手VSマイケル・エルガン選手&ジェフ・コブ選手だ。

実力派が揃い踏みした『ワールドタッグリーグ2018』の2日目。メインイベントは新日本プロレスで巻き起こった筋肉番付。人気も華も超越した圧倒的な力(パワー)が飾った。今回はこの3試合の所感をまとめていきたい。

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ボスVSモンスター

先日の藤沢大会で実現した鈴木軍VS鈴木軍の同門対決。その煽り文句はボスVSモンスターだ。だが、ボスと同じコーナーにもモンスターがいたことを忘れてはならない。この日、飯塚高史選手は躍動した。
両者が揃い踏みした瞬間、鈴木みのる選手が奇襲を仕掛けた。これは、前日の前哨戦のお返しと言ったところだろう。虚を突かれ分断されるKESの2人。序盤は場外乱闘が続いた。

鈴木軍の洗礼であるイス攻撃を見舞う鈴木みのる選手。さすがのモンスター2人も凶器攻撃の前には分が悪いと判断したのか、中盤以降はリング上での闘いとなった。
構図としては鈴木軍のボス・鈴木みのる選手にモンスターの2人が挑むという図式だ。
鈴木みのる選手は決して体躯が恵まれたタイプのプロレスラーではない。上背180センチ未満の身体で多くの功績を残してこれたのは、磨き抜いたプロレス技術と圧倒的な気持ちの強さにある。チョップや張り手、エルボーの我慢比べでは絶対に負けない。

“プロレス王”たる所以は、ハートの強さにあるのだ。

そして、今回KESの2人はボスのハートに挑んでいった。我慢比べで引かない。スリーパーで意識を失わない。何が何でも尊敬している相手から一本取る。
そんな気概がKESから伝わってきた。

そして、後半最も試合を盛り上げたのはもう一人のモンスター・飯塚高史選手だ。
怨念坊主と化す以前は、サブミッションで名を馳せたベテランレスラー。そんな彼の眼の前で鈴木みのる選手が何度もスリーパーを仕掛けている。
僕は一瞬期待してしまった。この好勝負で「魔性のスリーパー」が復活するのではないか、と。

だが、そんな希望は一瞬の内にかき消された。今の飯塚高史選手には「噛みつき」があったのだ。身長2メートルの大男2人を目の前にして交互に噛み付く。一体何なんだこの光景はと目を疑ってしまう。

しかも同門の頭に噛み付くとは、やはり理性がないとしか言いようがない。それほどまでに飯塚高史選手は飯塚高史だった。
結果的にキラーボムの餌食となってしまったが、後半のリングを盛り上げたのは間違いなくもう1人のモンスターだった。

試合後、鈴木みのる選手、ランス・アーチャー選手、デイビーボーイ・スミスJr.選手は拳を合わせた。その評定には笑みが溢れていた。試合には勝ったが勝負としてはまだまだ。そんな気持ちが垣間見えた。バックステージでも改めて尊敬の念を発した。
そして、鈴木軍のボス・鈴木みのる選手はある思惑があったことが分かった。

アーチャー「スズキサン! あなたこそが俺たちのボスだ。しかし、この鈴木軍にいるモンスターたちは全てが対等であり、この俺たちと対する時には何者にも恐れないK.E.Sというものを見せないといけないんだ。今日は俺たちはK.E.Sとしてしっかりと見せられた。み・な・ご・ろ・し・だ!」

スミス「アーチャーの言う通りだ。今日は俺たちの少し爆発するところを見せることができたかもしれないな。鈴木軍としてだけではなく、K.E.Sとして俺たちは相手が誰であろうとハードバトルを繰り広げてみせる。今日は鈴木軍という守りがなくても、俺たちがどれだけのことができるかをタッグとして見せることができたと思う。K.E.Sがこれからも皆殺しをし続ける」
  

鈴木「(※ニヤリと笑ってカメラを見回しながら)オイ、公式戦もそうだけどなぁ、これは、K.E.S、テメェらをなぁ、俺が査定したんだよ。使えるのかどうか、査定したんだよ。……合格だ! やっぱり、K.E.S、次、行くぞ! (※取材陣に)どけ! どけぇ!(※と、進行方向の記者を小突いてどかしながら控室へ)」

出典:新日本プロレス公式

査定が終わったKESの未来は明るい方に向かっている。

 


激しさと上手さを超えた剛と柔のパーフェクトタッグ

『ワールドタッグリーグ2018』の注目カードが早速行われた。石井智宏選手&矢野通選手VSタイチ選手&ザック・セイバーJr.選手の2組は非常に見応えのある好勝負となった。

石井智宏選手&矢野通選手は『IWGPタッグベルト』を戴冠した実力派タッグチーム。一方で、ヘビー級に転向し現在最も勢いのある選手の1人と言っても過言ではないタイチ選手と『ニュージャパン・カップ2018』の覇者であり、『G1クライマックス28』でも好成績を残したザック・セイバーJr.選手のタッグチームは“剛と柔”のタイプが揃った理想的なタッグだと言える。

両チームの実力から鑑みるに、この一戦を制したチームがリーグ戦を優位に進めることが予想された。早速の大一番はゴングの前から注目を集める結果となった。

マイクパフォーマンスへの対応問題

先日、Takaみちのく選手にまつわる報道が行われ、様々な物議を醸し出した。SNS以上に後楽園ホールに集まったファンは素直だ。

徐々に支持を集めていた彼のマイクパフォーマンスに対して、反応が薄い。歓声、ブーイング、野次。どう反応すればいいのか分からない。これが本音だろう。
日本人は周囲に合わせることが上手い人種である。周りで観戦している方々が乗ってこないということは、自身も声を上げることができないのだ。

だが、こんな時こそ僕は心からのブーイングを届けるべきだと思う。鈴木軍はヒールだからだ。Takaみちのく選手はしっかりと謝罪を行った。また、彼はリングでは不誠実なことは行っていない。であれば、プロレスラー・Takaみちのくの仕事に対して、僕たちは本音をぶつけていくべきだと思う。

ただし、当日の後楽園ホールは水を打ったかのような静けさに包まれた。その空気を変えられるのは1人しかいなかった。

矢野通選手の偉大さ。場の空気を読み取る力に感服

Takaみちのく選手の呼び込みにより登場した『CHAOS』の2人。先発を矢野通選手が名乗り出た。

そして、その空気を一気に変えた。鈴木軍の先発はタイチ選手だ。前述した通り、今最も勢いのある選手の1人であるタイチ選手。多くの試合で歓声とブーイングの両方を浴びている。

だが、“聖地”後楽園ホールでは矢野通選手に歓声で勝てる選手はいない。相手が誰であろうともファンの声を盗み取るスタイルはまさにプロフェッショナルだ。

双方のルーツであるアマレススタイルから試合の幕は開けた。だが、組み合わないタイチ選手へ苛立ちの声を上げ、レッドシューズ海野レフリーに注意を諭す。この1連の動作だけで、会場の空気は“矢野通ワールド”と化した。数分前に静まり返った会場が、だ。
視線を、意識をセルリアンブルーのリングに集中させる。これには、鈴木軍VS鈴木軍好勝負すらかき消してしまうほどのインパクトがあった。

誰にだって真似できる芸当じゃない。矢野通選手だからこそできた仕事だったように思う。

そして、空気を一変させた後は、自身が隠し持っている刀を抜く素振りだけして、石井智宏選手にタッチ。頭から落とすだけではない。言葉で民衆の支持を掴むだけでもない。「唯一無二の輝きを放つことがプロレスなのだ」と言わんばかりの仕事を成し遂げた。

試合中盤では、タイチ選手のロングタイツを剥ぎ取るという大暴挙に出る。普段、タイチ選手が早脱ぎをする時はなんとも思わないのに、何故か見てはいけないものを見てしまったになったのは何故だろうか。

2019年はタッグでの活躍にも期待

石井智宏選手と矢野通選手の実力派タッグにどう立ち向かうのか。一体どんな試合になるのだろうか。僕は“ストロング・ゼロ”を飲みながらじっくりと観戦していた。

事実、序盤から中盤に掛けてザック・セイバーJr.選手の長所が消されていたように思う。全日本王者に幾度となく輝いたアマレスの猛者には、関節技に入る前段階で切り替えされる。百戦錬磨の石井智宏選手には、ロープエスケープを繰り返される。

そんな試合の流れを変えたのはタイチ選手の活躍だった。

ザック・セイバーJr.選手が石井智宏選手を捉えたが、技の入りは不十分といった状況で、師匠仕込みのステップキックを連発。完璧なサポートを行った。

振り返れば勝負の分かれ目はここだったように思う。じわりじわりと“名勝負製造機”を追い込んでいく。

だが、そう簡単には流れを渡さないのが実力派タッグたる所以だ。G1クライマックス28からムーブに加えた飛行機投げやベリー・トゥ・ベリーという自身のルーツとなるアマレス技で、鈴木軍タッグを自由にさせない。

だが、右腕が限界に近い石井智宏選手に照準を定めた2人の勢いは止まらなかった。最後は、レフリーストップで試合は終了。完全に落ちた石井智宏選手の姿に、タイチ選手&ザック・セイバーJr.選手の恐ろしさを感じた。

のらりくらりとしつつも、石井智宏選手の土俵で我慢比べを行い、頑丈過ぎる身体に致命的なダメージを与えられるキックを持つ“愛を捨てた聖帝”。冷静に見えつつ、実は好戦的なファイトスタイルと比類ない観閲技を持つ“英国の匠”。

“聖帝”と“匠”のタッグはただものではない。これから巻き起こる鈴木軍との同門対決やEVIL選手、SANADA選手、『IWGPタッグ王者』であるタマ・トンガ選手、タンガ・ロア選手との闘いが楽しみで仕方ない。

メインイベントの序盤は緊迫した空気に包まれた。

鈴木軍3つのタッグチームが作り上げた熱狂に後楽園ホールの観客が包まれる中、メインイベントがはじまった。

昨年行われた『ワールドタッグリーグ2017』の覇者であるEVIL選手&SANADA選手の登場である。対するは、マイケル・エルガン選手&ジェフ・コブ選手。多くのファンの関心はどうEVIL選手&SANADA選手が勝つか?と言ったところだろうか。だが、そんな期待は躍動する“筋肉”に裏切られた。

新日本プロレス。筋肉の祭典

EVIL選手の体重は公称100キロである。成人男性約2人分と言っても過言ではない重量をブレンバスターの体制でキープ。しかもその体制のままマイケル・エルガン選手からジェフ・コブ選手にバトンが引き継がれた。

時間にして約1分。だが、こんな一分間を見ることが日常生活であるだろうか。いや、絶対にない。そんな非日常を魅せることができるのもプロレスの魅力だと思う。
ここから始まったのは新日本プロレス・筋肉の祭典だ。

圧倒的なパワーの前に人は魅了される。華や人気も当然大切だ。だが、その瞬間目の当たりした超人的な力の前に人はただただ、呆然と見守る以外の選択肢はないのだ。

 

SANADA選手の勇気

パワーが試合を支配し始める前に、SANADA選手はジェフ・コブ選手にレスリングでの勝負を挑んだ。

ジェフ・コブ選手はグアム・アマチュアレスリング・フェデレーション出身。2004年のアテネオリンピックには、レスリングの男子フリースタイル84kg級にグアム代表として出場するほどの猛者である。新日本プロレスに登場した当初は矢野通選手に顔が似ていることから、レスリングの猛者は似た顔になるのか?という物議を醸し出した。
話を元に戻そう。

SANADA選手は以前から相手の土俵に乗るという試合を続けてきた。直近で分かりやすい試合を挙げればザック・セイバーJr.選手との『G1クライマックス28』だろうか。
グラウンドレスリングに終始する一戦。内藤哲也選手から「完封」という言葉を引き出した“英国の匠”に対し、真っ向勝負を挑み勝利した一戦である。

誰に贈ったメッセージなのか真意は不明だが、「頭から落とすだけがプロレスじゃねえんだよ」という言葉が生まれた印象的な日でもある。

“天才”はフィールドを選ばない。その器用さからどんな試合展開も行うことができ、一歩上をいくことができる。これがSANADA選手の魅力だろう。

内藤哲也選手、EVIL選手が完敗したザック・セイバーJr.選手に対し白星を飾った男は、多くを語らずに“試合”で魅せる。だからこそ、ジェフ・コブ選手にもレスリングの勝負を挑んだのかもしれない。例えそれが分の悪い勝負だったとしても。

圧倒的な筋肉を上回ったのは“意地”。それだけだ

鈴木軍対決や好タッグパートナー同士の一戦ではなく、メインイベントとなったEVIL選手&SANADA選手VSマイケル・エルガン選手&ジェフ・コブ選手。

解説席の「筋肉」連呼だけではなく、大きく盛り上がる試合となった。最終的にはEVIL選手が試合を決め、EVIL選手が大会を締めた。

「日本で一番、後楽園が好き」

そんな告白も飛び出した『ワールドタッグリーグ2018』の2戦目は大きく盛り上がる興行となった。

改めてNJPW FUN的優勝候補を考えてみたい。

僕の予想はEVIL選手&SANADA選手VSタイチ選手&ザック・セイバーJr.選手だ。だが、『ワールドタッグリーグ2018』は始まったばかり。あくまでも上から目線を貫く内藤哲也選手が「自分も出場したかった」と思わせるほどの“プロフェッショナルの流儀”に期待したい。

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