イッテンヨンの対戦カードにモヤモヤを抱えているあなたへ
新日本プロレスが2018年12月10日、『ワールドタッグリーグ2018』一夜明け会見を行った。
優勝者であるEVIL選手&SANADA選手の会見だけなく、ここでイッテンヨン『レッスルキングダム13』の対戦カードが発表されたわけだが、Twitterでは賛否両論の声が散見される結果となってしまった。
年間を通して新日本マットを盛り上げた後藤洋央紀選手やタイチ選手、矢野通選手の名前はなく、鈴木みのる選手やKESについても未発表のままである。
明らかに“ガイジン”レスラーひいては『ジ・エリート』が優遇されているという見方もある。
これまで新日本プロレスを支えてきたレスラーがないがしろにされ、特定の選手が贔屓されている。
そんな時に僕は、オカダ・カズチカ選手の言葉を思い出した。
この文をイッテンヨンの対戦カードにもやもやを抱えているあなたへ捧げたい。
新日本プロレスの試合
最近、Twitterのタイムラインを見ていると、2極化が目立つようになっているなぁと感じていた。
ヤング・バックスの『IWGPタッグ』挑戦や乱発される3WAYマッチ。
その中、最も意見が割れているのは現『IWGPヘビー級王者』であるケニー・オメガ選手である。
新日本プロレスの至宝に手が届いた瞬間以降、多くの巡業には参加せず、『IWGPヘビー級選手権試合3WAYマッチ』では、多くの物議を醸し出した。
試合は面白いが、『IWGP』でやってくれるな。これが多くのファンの総意だったように思う。
イッテンヨン『レッスルキングダム』の記者会見にて棚橋弘至選手とのイデオロギー闘争が話題になったがそれ以降、ビッグマッチにのみ出場しただけに留まったため、前哨戦はほぼ無し。
ここからの2週間どこまで盛り上げられるかが勝負である。と、思っていた。だが、考え方が変わった。おそらくこのままイッテンヨンに突入するだろう。
ライオンの遺伝子とは何か
プロレスラーは超人ではあるが遺伝子的には人である。まぁ、当たり前な話だが。
一方で、人を構成するいわゆるDNA(デオキシリボ核酸)という意味での遺伝子の他に、2つの遺伝子が存在していることをご存知だろうか。
ここらから小島秀夫監督の『メタルギアソリッドシリーズ』を知っている方には分かりやすいのかもしれない。
ミーム(文化的遺伝子)とシーン(時代)である。
それぞれについて、新日本プロレスと照らし合わせながら説明しよう。
野毛道場に存在する文化的遺伝子
ミームとは会話“など”を通じて人から人へと伝わっていく情報であり、文化の形成するための伝統や慣習、知識、振る舞いに類する脳内の情報だ。
細かい内容についてはここをチェックいただきたい。
新日本プロレスにおいて、練習生→ヤングライオン→海外遠征→レスラーとして1人立ちというフローは伝統的な文化である。
海外遠征前には寮でトレーニングし、ちゃんこを作り、仲間と切磋琢磨し、先輩から技を盗む。
守破離でいう、「守」をここで学ぶわけだ。
そして、海外遠征で基礎はそのままに教えを「破」り、その後自分だけの個性を見つけ師匠(先輩レスラー)から「離」れる。
ここには一連の文化がある。
田口隆祐選手が月刊シックスドットナインで語り、後藤洋央紀選手が試合で魅せたプロレスの起承転結は新日本プロレスの文化である。
ヤングライオン出身者は遺伝子レベルで新日本プロレスが染み付いている。この起承転結を表現できるか否か。この点が棚橋弘至選手が大切にしている点なのである。
遺伝子を持たないのレスラーが王座に着いた今
『ストロング・スタイル』とストーリーは背中合わせにある。何の対立構造がない相手への怒りの感情は希薄になるものだ。
イッテンヨンに対してのモヤモヤについて考えてみると、ある答えにたどり着いた。対戦カードの大半の因縁が薄いということ。ほぼ前哨戦はなし。ファンとしてはどうしても盛り上がりに欠けてしまう。
だが、ある意味でしょうがないとも言える。新日本プロレスで最も盛り上がるカードをここまでに使い過ぎてしまった。
歴史と物語を感じさせる体験の大半を、ここ数年で繰り広げ過ぎてしまった。
オカダ・カズチカ選手は『IWGPヘビー級』V12を記録し、内藤哲也選手は棚橋弘至選手、鈴木みのる選手と激闘を繰り返してきた。
新日本プロレスに定期参戦しているレスラーがヘビー級のベルトを巻いていないという状況が生まれてしまったのも、新しい景色を作るために切磋琢磨した“ガイジン”レスラーたちの努力の結晶なのだ。
だが、新日本プロレスとは異なるミーム(文化的遺伝子)を持ったレスラーが主軸になってしまったことにより、これまでの新日本プロレスを応援してきたファンにとってはアレルギー反応が出る結果となってしまった。
リマッチ批判という現実
タイチ選手が後藤洋央紀選手から『NEVER無差別級ベルト』を奪取した後のことだ。ウィル・オスプレイ選手が負傷欠場し、次の挑戦者が白紙になってしまった。
記憶に新しいエピソードなので、覚えている方が大半だと思う。そう、後藤洋央紀選手が名乗り出た際、痛烈なリマッチ批判が起こったのだ。
荒武者に吹き荒れた誹謗中傷の嵐。後藤洋央紀選手のファンから見たら気分を害する以外の何者でもない事象だった。
ここでイッテンヨンのカードを改めて見てみよう。
- 第0試合 NEVER無差別級6人タッグ王座 ナンバーワン・コンデンター・ガントレットマッチ
- 第1試合 NEVER無差別級選手権試合
飯伏幸太VSウィル・オスプレイ - 第2試合 IWGPジュニアタッグ選手権試合 3WAYマッチ
金丸義信&エル・デスペラードVSSHO&YOHVS鷹木信悟&BUSHI - 第3試合 ブリティッシュヘビー級選手権試合
石井智宏VSザック・セイバーJr. - 第4試合 IWGPタッグ選手権試合 3WAYマッチ
タマ・トンガ&タンガ・ロアVSEVIL&SANADAVSマット・ジャクソン&ニック・ジャクソン - 第5試合 IWGP USヘビー級選手権試合
CodyVSジュース・ロビンソン - 第6試合 IWGPジュニアヘビー級選手権試合
KUSHIDAVS石森太二 - 第7試合 スペシャルシングルマッチ
オカダ・カズチカVSジェイ・ホワイト - 第8試合 ダブルメインイベントⅠ IWGPインターコンチネンタル選手権試合
クリス・ジェリコVS内藤哲也 - 第9試合 ダブルメインイベントⅡ IWGPヘビー級選手権試合
ケニー・オメガVS棚橋弘至
『スーパージュニア・タッグリーグ』、『ワールドタッグリーグ』で優勝を納めたチーム、や『IWGPインターコンチネンタル選手権試合』、『IWGP USヘビー級選手権試合』を除けば大半が目新しい試合になっている。
フレッシュな顔ぶれの対戦カードを発表してみれば、今度はまた海外志向すぎると批判が巻き起こった。
では、新日本プロレスが一体どんなカードを組めばファンは納得するのだろうか。
思い出そう、オカダ・カズチカの言葉
2017年の『サクラジェネシス』で柴田勝頼選手を破ったオカダ・カズチカ選手は、『レスリングどんたく』でバットラック・ファレ選手からベルト防衛を果たした後のマイクでこう語った。
プロレスラーは超人です!どんな技を食らっても立ち上がります! 最後まで諦めないのが! プロレスラーです。これからも! 全力で闘って! 皆さんに! 素晴らしい闘いを見せてくからな!! また!! このプロレス界に!! カネの雨が降るぞ!!!!
そう、最後まで諦めないのがプロレスラーなのだ。僕も正直ショックを受けた。ただ、改めてこの言葉を思い出して考えを改めた。
自分の好きなレスラーやカードが組まれないからといって、そのレスラーが終わったわけではない。プロレスラーは必ず立ち上がる。だからこそ、ドンと構えて東京ドームの試合を見ようじゃないか。
「僕、オレ、私の推しレスラーよりもいい試合を魅せてみてよ」と。世界一盛り上がる第ゼロ試合をファンの力で作り上げようと。
そして、2020年のイッテンヨン『レッスルキングダム』に向けて、自分の推し選手を徹底的に応援すると。
団体批判や団体に対しての諦めを発信するのは、2019年のイッテンヨンを見てからでもいいだろう。
つまらなければ、つまらないと言うのが本当のファン。
史上最低と言われた『ワールドタッグリーグ』をEVIL選手、SANADA選手を筆頭にヘビー級の各選手は大いに盛り上げた。前評判と実際の展開は必ずしも一致しないのだ。
新日本プロレスが贈る年に一度の祭典。焦らずじっくりと構えて楽しみにしたいと思う。
ドラスティックに変わる新日本プロレスを応援する。これもプロレスファンならではの醍醐味ではないだろうか。