矢野通の本は、読んだらためになる人生哲学書だ

矢野通選手の本は、読んだらあなたのためになる人生哲学書である。

先日、友人から「絶対、読んでもためにならない本 矢野通自伝」を返却してもらったので、久しぶりに読み返してみた。

同書の大まかな流れとしては矢野通選手が新日本プロレスに入団する以前からはじまる。幼少期から学生時代、彼はどのようにアマレスと出会い、日本選手権を制するほどの猛者になったのか?この点も十分に語られている。

だが、ただのプロレスラーの自伝本だと侮るなかれ。

新日本プロレスきっての曲者が生み出した本は、いわゆるプロレス本を通りこして、哲学書の側面を秘めているのだ。

まず、「絶対、読んでもためにならない本 矢野通自伝」というタイトルについて。逆説的なタイトル付けに矢野通選手らしさを感じる。目を通してみると分かるが、この本はタイトルとは真逆の本となっている。

アマチュアレスリング界、プロレスの世界で実績を残し続けている矢野通選手が誰にも何にも役に立たない本など出版するわけがないのだ。

プロレスラーが出版した書籍を読み説く『レスラー夜話』第2弾は『CHAOS』が誇る“敏腕プロデューサー”矢野通選手の書籍を紹介する。

真壁刀義選手や中邑真輔選手、オカダ・カズチカ選手が常に敬愛を示す矢野通選手のプロレス観や人生哲学がたっぷりと詰まった同書。

イッテンヨン『レッスルキングダム13』が迫る2018年の年の瀬。上質な日本酒の様にすいすい飲める、いや読める良書を、今年積んだ書籍よりも先に読んでみるのもありだと僕は思っている。

きっと、カッコつかないカッコよさを知るじかんになるだろう。

 

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自伝ではなく、自己啓発の意味合いが強い

2016年10月にベースボールマガジン社から出版された「絶対、読んでもためにならない本 矢野通自伝」。

アマチュアレスリングのトップアスリートによる人生訓や子育て、処世術などビジネス万から育児中の方々が刻む価値のある情報が詰まっている。

ただし、表現や文体、エピソードがバラエティに富んでいるため、あっという間に読み切ってしまう。また、一つのテーマに対して2〜4Pで語りかり、最後に矢野通選手による感想が入るスタイルはどこから読んでも楽しい設計になっている。

実際、僕も読み返した時は3時間弱で読み終わってしまった。

サクセスストーリーの裏側と“役に立つ”メッセージ

「絶対、読んでもためにならない本 矢野通自伝」で矢野通選手が伝えたかったことを読み解いてみると、「人はいかにして、自分の居場所を作っていき、それぞれの価値(個性)を見つけ、発揮していくのか?」という点にたどり着いた。

矢野通選手は書籍の中で「居場所はたまたま行たどり着くケースもある」と説いている。

家族であり、会社であり、友人。僕たちは社会に接することでしか生きていくことができない。

血縁関係のある家族以外の居場所は、自分自身で生み出していくことができる。その中で個人はどんな価値を発揮すべきなのか?こうした難題に対し、彼独自の哲学を語っている。

ここからはネタバレをしない程度に、書籍を読んでいて特に目が止まったエピソードを3つ紹介する。

 

YTRがオリンピック選手の本音を代弁

幼少期からアマチュアレスリングのキャリアをスタートし、オリンピックを目指した矢野通選手。

家族やコーチの期待を一身に背負う環境に身を置いていたことで、アマチュアスポーツのトップ選手が語る言葉の本音を知っている。

オリンピック候補選手たちが語る言葉は、確かに耳障りがよく、紳士淑女の雰囲気を醸し出す。

だが、その言葉の裏には共通したメッセージがあるという。矢野通選手なりの翻訳が同書籍には記されている。

開眼した瞬間のこと

今でこそヤングライオンは海外武者修行を経て、ヤングライオンを正式に卒業し、自身の個性を最大限に表現するプロレスラーへと変貌するのが形式となった。

だが、矢野通世代(矢野通選手、棚橋弘至選手、中邑真輔選手、後藤洋央紀選手、田口隆祐選手)などの世代は海外遠征なしに変身するシーンが珍しくなかったという。特に棚橋弘至選手は長期海外遠征の経験がない。矢野通選手も短期の海外遠征に留まっている。

つまりある日突然、ビジュアルやファイトスタイルが変貌するということだ。矢野通選手はなぜ、金髪、番傘、田吾作タイツスタイルを選んだのか。その裏側にあった心の機微はどんなものだったのか。そういった裏側が語られている。

GBHの崩壊とCHAOS結成秘話

「居場所」が大きく変わったこの2つのユニットについて、矢野通選手らしい表現で、結成理由や真壁刀義選手への思い、中邑真輔選手と共闘した理由について振り返っている。

真壁刀義選手を裏切った(我慢の限界)理由は2つ。CHAOSがなぜ反ベビーフェイスや反則攻撃を連発する一般的なヒールにならなかったのか。

そして、中邑真輔選手が新日本プロレスを退団したあの日。「これまでで一番さみしかった」と語る矢野通選手の胸中に浮かんだある思いとは何か。衝撃の結末を目に焼き付けて欲しい。

 

2つの個性がベストマッチした姿

最後に、矢野通選手の魅力について考えてみたい。僕は矢野通選手について、ギャップと期待感を常に併せ持つ、新日本プロレスが生んだ真のジョーカーだと思っている。

ここで少しだけ脱線しよう。

最近、仮面ライダービルドという特撮作品を一気見する機会があった。

主役の仮面ライダービルドは2本のボトルをベルトに装着し、変身するわけだがこのボトルに相性がある。

“ベストマッチ”した2本のボトルでなければ変身することはできないのだ。例えば、ラビット(兎)とタンク(戦車)のように。なぜこの組み合わせがベストマッチなのか気になった方は『』を読んだ後に仮面ライダービルドも見ていただきたい。

閑話休題。

矢野通選手に話を戻そう。

彼は“元アマレスの日本王者”という圧倒的なバックボーンを持っている。おそらくレスリングルールで試合をすればほとんどの選手が一網打尽にされる可能性がある。

ただし、矢野通選手はこの個性に加えて“独自性”を磨き続けた。むしろ“独自性”を全面出すことで、プロレスラーとしてのブランドを築き上げてきたのだ。

矢野通選手の試合は、この“独自性”と“元アマレスの日本王者”がベストマッチしたものになっている。

金色の夜叉、崇高なる大泥棒、敏腕プロデューサー。それぞれの個性が元アマレス王者と組み合わさることで、ベストマッチが生まれている。

2018年には日大出身という新しい個性を発揮し、悪質タックルを繰り出した。

敏腕プロデューサー×日大レスリング部出身という新しい一面はクリーンファイトにつながり、反則をしないだけで大歓声が巻き起こるほどファンを魅了した。

世界広しと言えど、誰に勝っても違和感がなく、誰と対峙しても歓声を盗み取るとは矢野通選手だけだろう。

この本を読んで、会いにいこう

「実は強いし、怒らすと本当に怖い」

このイメージと技、らしい技をほぼ使わないファイトスタイルに油断してしまうが、矢野通選手は技名がないプロレスの基本技が非常に上手い。

例えば「受け身」。『鈴木軍』の鈴木みのる選手はほぼ分かりやすい受け身を取らないことで有名だ。これは鈴木みのる選手の書籍をお目通しいただきたい。

一方で矢野通選手は綺麗で見事な受け身を取る。リングの上では髪を引っ張る、コーナーマットを剥がすなど、ある意味で傍若無人なスタイルにも関わらず、基本に忠実でダイナミックな「受け身」を取るのだ。

丸め込みの速度やタックルのキレを見ても分かるように、こういった所作の一つ一つに矢野通選手のバックボーンが見え隠れする。だからこそ、プロレスラーとして全く色褪せていない。

年輪を刻む度に新しい魅力が溢れてくるのだ。

リング以外の場所で矢野通選手は何を考えているのか。プロレスIQの高さでも日本、世界を代表するプロレスラー矢野通選手の脳内をこの本で覗いてみるのはどうだろうか。

そして、矢野通選手は水道橋に自身のスポーツバー「EBRIETAS」を経営している。オープンから6周年を迎えるなど、競争が激化する飲食業階でも手腕を披露している。

「絶対、読んでもためにならない本 矢野通自伝」を読み終わった暁には是非、感想を伝えに足を運んでいただきたいと思う次第だ。

絶対、読んでもためにならない本―矢野通自伝

絶対、読んでもためにならない本―矢野通自伝

 

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