新日本プロレスの「Hopes and Dreams」に涙が止まらなかった話
新日本プロレスが魅せた「Hopes and Dreams」を目の当たりにした直後、このブログを書いている。未だ僕の涙は止まらないままだ。
2019年のイッテンヨン『レッスルキングダム13』がたった今幕を閉じた。新日本プロレスのエース・棚橋弘至選手が締めた東京ドームの来場者数は38162人。惜しくも4万人には届かなかったが、昨年から約4000人の増員を実現した。
うん。興奮のせいか、明らかに筆の進みが悪い。これも棚橋弘至選手がマイクで僕の涙腺を崩壊させたのが原因だろう。
だが、今しかないみずみずしい感情を書き留めなくてはならない。
この記事をいつか新しくプロレスファンになった方が読んだ時に、東京ドームへ足を運ぶキッカケになって欲しいと思うためである。
この日の東京ドームは全選手がMVP級とも言える活躍を魅せた。全試合がベストバウト級。全てのベルトが動くというサプライズあり、掟破りあり、絶対領域の復活ありとそれぞれのレスラーたちが多くの見せ場を作ったあっという間の4時間だった。
一点心残りなのは第1試合でウィル・オスプレイ選手と『NEVER無差別級選手権試合』を戦った飯伏幸太選手の安否である。
ただ、公式から脳震盪だと発表があり、大事には至っていないそうだ。
では、今日のイッテンヨンを振り返っていこう。これからの更新でそれぞれの試合を振り返って行くがまず最初に書きたいのは、ケニー・オメガ選手が入場曲を変え、Undertaleの神曲「Hopes and Dreams」で花道を歩いたシーンだ。
Undertaleの神曲で入場
棚橋弘至選手とイデオロギーを懸けた運命のイッテンヨンを迎えた『IWGPヘビー級王者』ケニー・オメガ選手。
昨年末にUndertaleをオマージュした動画を投稿していたが、この花道で伏線を回収してきた。
突如DEVIL'S SKYがストップし、Hopes and Dreamsがヒットする。
僕は頭が真っ白になり、ゴールデン☆ラヴァーズとも違う新曲を持ってきたと勘違いした。だが、すぐに間違えに気づいた。こんな神曲一度聴いたら忘れる訳がない。
インディーレスラー
カナダのインディー団体からキャリアをスタートさせたケニー・オメガ選手は、ある日飯伏幸太選手の動画を見つけ、日本を新天地に定めた。
「俺はカナダの路上王だ」
「俺は世界一の才能を持っている」
来日後、彼は早速注目を集めた。だが、自分自身を証明するため、彼の隣に立つプロレスラーとして相応しい自分になるために、“恋人”飯伏幸太選手やDDTと別れ新日本プロレスの『バレットクラブ』へと加入した。
誰からも愛される陽気なキャラクターから『ザ・クリーナー』と姿を変え、2016年からはヘビー級へと転向。そこからは破竹の勢いでスターダムへと上り詰めた。
“ガイジン”初の『G1クライマックス』優勝。
新設された『IWGP USヘビー級ベルト』の初王者。東京スポーツが選ぶプロレス大賞で2年連続ベストバウトを受賞するなど、新日本プロレスで圧倒的な地位を築き上げた。
そして、世界のスーパースター クリス・ジェリコ選手との一戦でさらに注目を集めることに成功し、2018年には新日本プロレスの至宝『IWGPヘビー級ベルト』を戴冠したのだ。
『バレットクラブ 』の内紛や分裂。“恋人”飯伏幸太選手とのゴールデン☆ラヴァーズ復活。
2008年に「夢と希望」だけをバッグに詰め込んで日本にやってきたカナダ出身のインディーレスラーは、誰にも真似できない道を歩み続けてきた。この数年間、常にケニー・オメガ選手は新日本プロレスの中心に立ち続けてきたのだ。
だが、超えるべき壁が一枚だけ残っていた。暗黒と呼ばれた時代に「愛」を語り、どんな逆境にも屈することなく走り続けてきたエースが。
交わらなかった2人の英雄
新日本プロレスのエース・棚橋弘至選手。これまでケニー・オメガ選手とはタイミングが悪く、シーソーのように交わらなかった。
エースの失墜とザ・クリーナーの躍進が同時に起こっていたためだ。
ケニー・オメガ選手がオカダ・カズチカ選手や内藤哲也選手とベストバウトを繰り広げる一方で、棚橋弘至選手は長年のダメージが表面化し、精彩を欠いていった。
だが、2018年の『ニュージャパンカップ』準優勝を皮切りに、『G1クライマックス28』を制することで、新日本プロレスのど真ん中へ帰還した。
そんな2人が交わる運命の日。日本語を覚えるためにゲームにハマったという逸話もあるほどのゲーマーであるケニー・オメガ選手は、インディーゲームの至宝『Undertale』のHopes and Dreamsをエントランスミュージックに起用したのだ。
インディー出身である誇りとここまで上り詰めたという達成感、そして飯伏幸太選手への想いを胸に。
イデオロギー抗争の先にあったもの
ケニー・オメガ選手と棚橋弘至選手の試合はそれぞれのプロレス観がぶつかり合う心の死闘となった。
だが、試合を見ていて僕はあることに気付いた。
棚橋弘至選手は「ケニー、俺は怒っているよ」と度々口にしていたが、憎んではいないんだなと。
憎しみがなく、怒りだけがある。
新日本プロレスの象徴とも言えるストロング・スタイルとは“怒り”の感情をコントロールした先にあるものである。
プロレスには希望と夢がある
これは、中邑真輔選手に対して、「ストロング・スタイルの呪いにかけられている」と言い放つほどに、アントニオ猪木氏を否定した棚橋弘至選手が、ストロング・スタイルの本質にたどり着いた瞬間だったのだ。
「お前は何に怒っている!?」
「全日に行った武藤です!」
「お前はそれでいいや」
というように、怒りは人を動かす原動力でもある。ただし、あくまでも原動力なのだ。
その先にあるのはHopes and Dreams。“夢と希望”でなくてはならない。
イデオロギー抗争は2018年の時点で決着していた。最高の試合を見せること。これが、全プロレスラーが目指し続ける頂きだ。
そして、その想いは全レスラー共通なものである。だからこそ、会場や映像を通じて試合を見るファンの心を揺さぶるのだ。
プロレスを通じでファンに伝えたいのは“Hopes and Dreams”。
ただし、表現の仕方が違う。
実はイデオロギー闘争とは、それだけのことだったのだ。
ひょっとすると些細な兄弟喧嘩のようなものだったのかもしれない。棚橋弘至選手が「悲劇的なことはダメだ」と事前に言いながらも、場外へ向かって「ハイフライフロー」を見舞った。これが悲劇なんだと自然に伝わる会場の中、ケニー・オメガ選手の表情が少しずつ変わり、張り手の応酬もいつものスカす感じがなくなり、“ケツイ”の一撃へと変化していく。
棚橋弘至選手の凄いところはこういうところなのだ。
そして、どんなレスラーともスイングしてベストバウトを生み出すことができるのが、ケニー・オメガ選手の素晴らしさなのである。
地声で愛を叫んだ棚橋弘至
棚橋弘至選手は新日本プロレスの暗黒期を支え、新しいチャンピオン像やプロレスファン層の開拓に尽力してきた。
当然、これは中邑真輔選手や後藤洋央紀選手、矢野通選手、田口隆祐選手、真壁刀義選手などの同年代や天山広吉選手や小島聡選手、永田裕志選手、中西学選手など第三世代、獣神サンダー・ライガー選手など全レスラーが作り上げた獅子たちの歴史である。
そうした全員の想いを背負い、約38000人が詰め掛けた東京ドームのメインを締めるとなった時、思わず地声で叫びたくなったのだろう。
「もう、戻ってこれないと思った」でも、柴田勝頼選手、本間朋晃選手などの努力が彼をもう一度、もう一度と立ち上がらせた。
今にも泣き出しそうな棚橋弘至選手を見て、泣いたのはこっちの方だった。
そして、名レスラーから解説者へ転身した棚橋弘至選手と同級生であるミラノコレクションA.T.さんが叫んだ「地声!」は最高の解説だったように思う。
2019年、闘い始めの東京ドーム。全チャンピオンがベルトを失墜するという大サプライズが巻き起こった会場で最後に棚橋弘至選手はこう叫んだ。
「愛してます」と。
パパはIWGPチャンピオン。思う存分、自慢して欲しい。そして、次のチャレンジャーとも今日のような最高の試合を繰り広げて欲しい。
ケニー・オメガ選手の夢と希望。棚橋弘至選手の愛。
“Hopes and Dreams and Loves”は、きっと世界を変えるはずだ。
そして、「Hopes and Dreams」には対となる楽曲が存在する。ゲームの核心に迫る部分なので、ネタバレはせずに楽曲名だけ書く「SAVE the World(世界を救う)」である。
「CHANGE the World」を歌い続けてきたケニー・オメガ選手は世界を変えるだけではなく、新日本プロレスのレスラー全員で世界を救うことを考えていたのかもしれない。
新日本プロレスは世界を変えるのではく、世界を救うのだ。それほどの可能性があることを今回の『レッスルキングダム13』は感じさせた。
2020年。きっと、もっと埋まった札止めの東京ドームになる。
うん。やっぱり僕のブログの文末はこの言葉で締めたい。
やっぱり今日もプロレスは最高だったなぁ。
関連:ケニー・オメガがUndertaleをオマージュした本当のワケ