時代は常にヒールが動かしてきたという話
2019年、新日本プロレスにNEW ERAのビッグウエーブが訪れている。
プロレスデビューから6年の26歳、『BULLET CLUB』のジェイ・ホワイト選手が新日本プロレスのエース棚橋弘至選手を破り、『IWGP』ヘビー級ベルトを戴冠したのだ。
ジェイ・ホワイト選手は2014年12月に新日本プロレスの入門テストを受け、2015年1月に入門を果たした。
デビッド・フィンレー選手とは半年違いの同期にあたる。
2017年にアメリカから凱旋帰国を果たすと、2018年1月6日に『CHAOS』に加入。
ベビーフェイスの要素が色濃くなった『CHAOS』で異端とも言えるヒールとしての立ち位置を貫き、そして裏切った。
彼が光のような速さで新日本プロレスの頂きに立ち、戸惑うファンも多い中、僕は“パレハ”と「ヒールという役割」についてチャットしていた。
そこでの話を書き留めておきたい。
ジェイ・ホワイト選手の『IWGPヘビー級ベルト』戴冠劇は新日本プロレスの第三次黄金期の到来を予期するものだった。
そう、時代は常にヒールが動かしてきたという話である。
悪役が動かすのは民衆の心と時代である
まずはヒールという存在について振り返ってみたい。
1920年代のアメリカで、プロレスにおける正義VS悪という構造が生まれた。
光があるところに影がある。ベビーフェイスが生まれた瞬間にヒールも誕生したわけだ。
従来のプロレスにおいて、自国のレスラーがベビーフェイス、他国出身のレスラーがヒールというのがスタンダードであった。
だが、プロレスの多様化から現在はこの図式は通用しない。
日本国内でも外国人で人気を博したベビーフェイスもいれば、日本人のヒールも多数出現した。
ヒールという役割すら凌駕した声援を浴びるヒール2.0(ダークヒーロー)も誕生している。
ただ単純なヒールというよりも、一歩進んだヒール2.0が天下を取ることは決して珍しいものではなくなった新日本プロレス。
実際に、『IWGPヘビー級ベルト』の戴冠歴を見てみると、2008年の第48代王者・中邑真輔選手以降はヒールの戴冠が目立つようになってきた。
ヒールとは時代を動かし、転換させる役割である。
そして、動かした時代を納め、反映に導くのがベビーフェイスなのだ。
ドラゴンボールにおけるベビーフェイスとヒール
「ヒールとは役割ですから」
軽く送信した内容に興味を持ったパレハはその多くの引き出しからこれまで多くの物語に存在したベビーフェイスとヒールの関係性を紐解いた。
僕が最も印象に残った例えがドラゴンボールである。
悟空:禅的思想をもったベビー(メインイベンター)
ヤムチャ:モテたい系ヒール → ベビーターン → 前座
桃白白:ビジネスマン的ヒール → 遺恨の感情に芽生えたヒール2.0
天津飯:表面的ヒール(精神的ベビー) → ベビーターン → 前座
ピッコロ:極悪ヒール(死)
マジュニア:DNA的ヒール → (環境依存で変化) → ベビーターン → 中堅
ベジータ:承認欲求の高い極悪ヒール → 承認欲求の高いベビー(メインイベンター)
フリーザー:精神問題をも含んだ極悪ヒール(ヒールの最大風車&メインイベンター)
ブロリー:体質的問題によるヒール
かなりユニークな紐解き方である。
そう、ヒールは仕掛ける側なので、メインイベンターになりやすい。
ただ、ベビーターンすると勢いが鈍化し、その輝きが保てなくなってしまうという見方もあるのだ。
長州力、天龍源一郎、大仁田厚、アントニオ猪木
プロレスは本当に面白い。団体の単位で見てみると、ベビーフフェイスなのだが、プロレス産業という見方をすると、ヒールに映る場合がある。
長州力さんは藤波辰爾さんに対しての「かませ犬発言」でスターダムへと駆け上がった。
天龍源一郎さんは「ジャンボ(ジャンボ鶴田さん)は風呂に入ったヘチマ」と言い放ち、天龍革命をスタートさせた。
大仁田厚さんは全日本プロレスではジュニアのホープ。FMWでは思想家として、ベビーフェイスという役割だったが、「大仁劇場」で見せたプロレス界への挑戦ではヒールだった。
そして、アントニオ猪木さん。
ジャイアント馬場さんが生み出した「王道」全日本プロレスに対するアンチテーゼとして、格闘技要素や日本人対決などにいち早く着手した。
ヒールとは時代を動かす役割。
悪が既存概念を壊すことで、新時代の幕が開け、新しい光が登場するのである。
それでもベビーに憧れる
時代を作り、動かすヒール。その役割は魅力的であり、常に刺激を提供する存在だ。
ただ、それでもみんなベビーフェイスに憧れる。
棚橋弘至のようになりたいのだ。
何故ならば、最後の最後には正義が勝つためだ。
いや、少し違う。勝ち続けたものが新時代の正義になるのである。
歴史は全て勝者が語り継いできた物語である。敗将に語る言葉がないように、時代が動いた瞬間から徐々に価値観すら変わっていくのである。
今回、ジェイ・ホワイト選手が『IWGPヘビー級ベルト』を戴冠した時には、久しぶりに様々な意見が飛び出していた。
その理由は簡単でヒール2.0が時代を動かしたのではく、ヒールが時代を動かしたためだ。
ベビーでもヒールでもない“制御不能”の内藤哲也選手はヒール2.0の体現者だろう。
ケニー・オメガ選手も“ザ・クリーナー”後期はヒール2.0だった。
AJスタイルズ選手は世界のスーパースター。ヒールユニット『バレットクラブ』に加入こそしたもことで、ヒール2.0となった。
オカダ・カズチカ選手の凱旋帰国当初は、外道選手を従え、自分は「特にありません」と語る太々しいヒール。そして、リングの上で見せる圧倒的な試合内容でヒール2.0へと進化したのだ。
ここまでで気付いた方もいるだろう。 これが2012年以降、新日本プロレスで『IWGPヘビー級ベルト』の頂きに届いた棚橋弘至選手以外のレスラーである。
純潔の極悪ヒールが『IWGPヘビー級』ベルトを巻いたのは、ブシロード体制となって以降、ほぼ初である。
オカダ・カズチカ選手と近いと言われるのは、これからヒール2.0になるべく存在だという点に尽きる。
だが、ジェイ・ホワイト選手にはまだまだ大きな可能性を秘めている可能性があるのだ。
ベビー・フェイス、ヒール2.0ではない第3の可能性だ。
ヒールのまま新日本プロレスのトップに君臨する。
声援を浴びない王者。新しい価値観がそこにはあるのだ。
新時代の変化
ジェイ・ホワイト選手が新日本プロレスのトップに立った瞬間、ルールすら変化した。
毎年春に行われている『ニュージャパンカップ』。従来はそれぞれのシングルベルトに挑戦する権利が生まれていたが、今回は『IWGPヘビー級ベルト』のみとなった。
つまり、他のシングルベルトホルダーも参戦するということである。
そして、何よりも凄いのが、マディソン・スクエア・ガーデンのメインイベンターをジェイ・ホワイト選手が務めるということが確定したということ。
新日本プロレスの歴史にも残る大会でメインイベントに立つ。
ジェイ・ホワイト選手は明らかに持っている。
そして、絶対ヒールの前では誰しもがベビー・フェイスになる。
その中から新しい棚橋弘至選手が生まれるのかもしれない。
勿論、「もう無理」なわけがない棚橋弘至選手が立ち上がる可能性も十分にある。
ジェイ・ホワイト選手が生み出す新時代から目を離すことができない。