新日本プロレスの天才がグラウンドを制した日
新日本プロレスの「ニュージャパンカップ2019」二回戦でSANADA選手と「鈴木軍」のボス・鈴木みのる選手の一戦が行われた。
SANADA選手にとっては「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」のメンバーである内藤哲也選手、EVIL選手が一回戦で敗退したことからも、ユニットの尊厳を懸けた戦いという側面があった。
その意気込みは東京スポーツにインタビューを依頼するほどのものであり、珍しく冗舌に自身のことを語ってた。
SANADA選手が春を制しているイメージが持てるのか。それとも持てないのか。
たかが、脳内の妄想。されど、成功への道標だとも言える。
では、対峙した“プロレス王”鈴木みのる選手はどうだろう。
タイチ選手とランス・アーチャー選手、デイビーボーイ・スミスジュニア選手は敗退するも、前日にはザック・セイバーJr.選手が優勝候補の一人として期待を集めていた飯伏幸太選手からタップアウト勝ちを掴み取った。
お互いがもう一試合ずつ勝つことで、同ユニットでありタッグチームのパートナーと争う一戦となる。
以前から定評のある「鈴木軍」同門対決に向けて、プロレス王が勝利を引き寄せるか。
それとも、新日本プロレスの天才がグラウンドで真価を発揮するのか。
ニューヨークのメインイベントだけではなく、春を制したという栄冠だけでもない、男と男が奏でる意地と言う名のメロディは、試合を見た観客全員を魅力したように見えた。
では、ここからじっくりとメインイベントについて振り返ってみたい。
スタートはじっくりと
SANADA選手と鈴木みのる選手の一戦は、グラウンドでの攻防からスタートした。
ネチネチとした細かいテクニックの応酬を見ていると、僕はある試合を思い出していた。
「ニュージャパンカップ2018」を制し、多くの選手が攻略に苦戦していたザック・セイバーJr.選手に対して、圧勝という形で勝利を掴んだのが「G1クライマックス」のSANADA選手だった。
グラウンドでの攻防を制し、最後は押さえ込みでフィニッシュ。
「頭から落とすだけがプロレスじゃないんだよ」
珍しく飛び立したメッセージはいい勝負ができたことの満足感と、当日自分を目指す道とは異なる道へと進む可能性のあった新日本プロレスに対して鳴らした警鐘だったのでないだろうか。
あれから半年以上前が経った。SANADA選手にとって3度目の春。目の前にいるのは鈴木みのる選手だ。
全日本プロレス時代からの因縁もあるだけに燃えない筈がないのだ。
小手調べのグラウンド戦が終わった時、鈴木みのる選手は「やるじゃねーか」という表情を浮かべていた。
ギリギリのグラウンド戦
打撃や関節技を駆使し、徐々に自分のペースで試合を進めていく鈴木みのる選手。
ただし、SANADA選手もそう簡単に負けるような選手ではないだろう。TKOやバックドロップで試合のテンポを変えていく。
そして、ラウンディング・ボディプレスという決め技をフェイクにしたスカルエンドが炸裂した。ように見えたが、鈴木みのる選手が関節技でスカルエンドを強制的に回避する。
「グラウンドを制するものは試合を制す」
どっちが勝利への執念が強いかという我慢比べが始まったのは試合開始から25分ごとのことだった。
スカルエンド
SANADAコールと鈴木みのるコールが鳴り響く、後楽園ホール。
普段であればスカルエンドでギリギリまで追い詰めたタイミングでラウンディング・ボディプレスへと向かうSANADA選手が一度フォールを選択した。
「確実な一手を選ぶ余力すらない。決まるならここで決まってくれ」
悲鳴を上げている身体は既に限界まできていた。だが、このフォールはカウント2.9で返されたのだから、トップロープの上に立つ必要がある。
そして、ラウンディング・ボディプレスを飛び、勝利を手繰り寄せた。
全身ボロボロ。満身創痍。お互いがギリギリのところまで削りあった試合だったのだ。
伊達男の告白
「ニューヨーク・マディソンスクエアガーデンが好きです。でも一番好きなのは、後楽園ホールです」
形を変えた優勝宣言であり、堂々とした浮気宣言である。
だが、次の相手はほぼノーダメージでベスト16をパスしたコルト・カバナ選手だ。
一回戦では後藤洋央紀選手、二回戦で鈴木みのる選手というギリギリの戦いを制してきたSANADA選手と比較すると、コンディションでは優っている相手との対決になる。
飯伏幸太選手ですら内藤哲也選手との一戦で受けたダメージが抜けきれず二回戦で敗退してしまったという見方もあるため、くじ運も春を制するためには重要なファクターである。
ファンのイマジネーションを独占し、SANADA選手は決勝へと駒を進めることができるのか。
ベスト8へ進出した新日本プロレスの天才が次に狙うのは、パラダイスロックへの新しい生贄だ。