新日本プロレスにおけるIWGP USヘビー級王座の存在価値とは

新日本プロレスにおけるIWGP USヘビー級ベルトの存在価値とMSG興行について考えてみたい。

「IWGPユナイテッド・ステーツ・ヘビー級王座」。

新日本プロレスの海外戦略の一翼を担うベルトとして、2017年の「G1 Special in USA」の開催を期に新設されたものである。

発表時から内藤哲也選手が存在価値について疑問を発信し、さまざまな物議を醸し出していたという過去がある。

この背景には、2011年に開催された新日本プロレスのアメリカ興行で「IWGPインターコンチネンタル王座」が誕生していたという事実があるためだ。

ベルト新設の発表を受け、当時の王者である内藤哲也選手が激昂しベルトを破壊するという暴挙にまで出た。

「新日本プロレスよ!あのベルトとこのベルトは何が違うんだ」。

そして、昨日発表された2019年4月に開催される「G1 SUPERCARD」の対戦カードを見て僕自身度肝を抜かれた。

アメリカMSG大会にも関わらず、「IWGP USヘビー級選手権試合」の名前が無かったのだ。

ダブルメインイベントの前には、内藤哲也選手VP飯伏幸太選手の「IWGPインターコンチネンタル選手権試合」の文字が踊る。

また、「NEVER無差別級選手権試合」が第一試合に組まれたため、新日本プロレスのシングルベルトで唯一タイトルマッチがないベルトとなってしまったのである。

新日本プロレスの決断。現王者であるジュース・ロビンソン選手の落胆。これから赤のベルトはどうなってしまうのだろうか。

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ベルトの歴史

初代王座はトーナメントを制したケニー・オメガ選手。2代目王者は2018年1月28日、 北海きたえーるで勝利を掴んだジェイ・ホワイト選手。今思えば、この時が最初の“スウィッチブレイドショック”だったのかもしれない。

その後は、ジュース・ロビンソン選手、Cody選手を経て、現王者ジュース・ロビンソン選手の手元に戻った。

現在までのタイトルマッチは12回。過去の戴冠者の半数がAEWを立ち上げた「ジ・エリート」のメンバーとなっている。

僕はCody選手の新日本プロレスにアジャストしたアメプロが「IWGP USヘビー級王座」には最もピッタリだと感じていた。

そして、赤いベルトは甘いマスクにもよく似合っていた。

だが、彼らの離脱によりベルトの運命は大きく変わってしまったのもしれない。

世界進出ひいてはアメリカでの大会にも関わらずMSGでタイトルマッチが組まれないのはベルトの尊厳、存在する意味も無視したという見方もある。

この一件で誰よりも悔しい思いをしているのは、ジュース・ロビンソン選手に違いない。

 

鍵は棚橋弘至選手にあった

今回のMSG興行は第0試合を含めると全11試合が行われる。

「ニュージャパンカップ2019」のベスト8に名を残したメンバーですら第1試合以降に出場することが叶わなかった。

石井智宏選手、YOSHI-HASHI選手、コルト・カバナ選手。

それぞれな大きな見せ場を作っただけに、残念な気持ちもある。ただし、それだけ層が厚いという証明でもあるのだ。

そして、今回一番のサプライズだったのがザック・セイバーJr.選手の持つ、「ブリティッシュ・ヘビー級ベルト」を懸けて棚橋弘至選手がチャレンジャーに選ばれたことである。

「ニュージャパンカップ2019」の敗北に怒りが収まらないザック・セイバーJr.選手。顔には無精髭が目立つようになるなど、明らかにやさぐれた雰囲気を醸し出していた。

そんな彼と棚橋弘至選手との対立がMSGでのタイトルマッチにつながった。

ザック・セイバーJr.選手は石井智宏選手とのイッテンヨンを経て、MSGでは棚橋弘至選手と激突する。

「IWGP USヘビー級選手権試合」がないMSG。その第7試合が「ブリティッシュベビー級選手権試合」だ。

 

中邑真輔選手という存在

中邑真輔選手がWWEで「WWE US王座」輝いた後、棚橋弘至選手は自身のPodcastにて、「中邑がUSなら棚橋もUS行くか(笑)」と語っていたことがある。

「IWGPヘビー」、「IWGPインターコンチネンタル」を戴冠した経験のある棚橋弘至選手。

「USヘビー級ベルト」については日本人の王者が生まれたことすらないだけに、新しいもの好きな新日本プロレスのエースが狙いにいってもよかったのではないだろうか。

クラシカルな技を使用し、“ガイジン”レスラーとタイトルマッチを行う。赤いベルトの個性を作っていくためにも、棚橋弘至選手の新境地が重要になってくる気がしている。

挑戦表明と物語

時折、ベルトの価値という言葉が出る。

EVIL選手が「『IWGPタッグベルト』の価値を爆発的に高めてやったぜ」と語るように、ベルトはチャンピオンにより個性が生まれていくのだ。

ここで僕のベルトに対する見解を書いておこう。

極論を言えば、「IWGPヘビー級ベルト」とそれ以外という見方だ。

勿論、上下の話ではない、価値が高い低いという話でもない。

「IWGPヘビー級ベルト」は唯一、ベルト自体に唯一無二の話題性と存在価値があると言えるだろう。

今の新日本プロレスの象徴を決める闘いだけに、タイトルマッチが組まれただけで話題性は抜群だ。

一方でその他のベルトは、王者それぞれが色を出し新しい価値を創造し続ける必要があると思っている。

例えば「IWGPインターコンチネンタルベルト」。大関という立ち位置にも関わらず、中邑真輔選手の遊び道具として爆発的な進化を遂げた。

また、白のベルトは「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」内藤哲也選手の印象も強い。会場人気NO.1の選手が戴冠することが多いベルトという見方もあるため、「IWGPヘビー級ベルト」と大差がないところまで上り詰めた印象がある。

「NEVER無差別級ベルト」については、ここ数年で複数回イメージが変わっている。

石井智宏選手、柴田勝頼選手、後藤洋央紀選手によるバチバチのぶつかり合いというイメージ。

鈴木みのる選手による、何でもありの特殊ルールが行われるイメージ。

タイチ選手、飯伏幸太選手、ウィル・オスプレイ選手についてはイメージがまだ確立していないが、ジュニア選手を含めた無差別級路線へと進む印象を受けている。

では、「IWGP USヘビー級ベルト」はどうか。物語性とイメージが他のシングルベルトと比較してあまりに薄い。

そもそも歴史が浅いため致し方ないことではあるものの、ジュース・ロビンソン選手はこの課題と向き合い、結果を残さなければならなかった。

僕はジュース・ロビンソン選手がMSGに立つためのチャンスは、チェーズ・オーエンズ選手との試合が終わった後だったように思う。

ジュース・ロビンソン選手はリングの上で次期挑戦者を指名することでしか、MSGでのタイトルマッチを掴むことができなかったのだ。

あの瞬間「タナハシサン!!」と叫ぶことができていれば、何かが変わったかもしれない。

きっと、棚橋弘至選手も「MSGでUSベルトを懸けて戦う棚橋。面白いじゃないですか」と乗り気になっただろう。

だが、現実は大きく違う道へと進んだ。

バットラック・ファレ選手の強襲。バックステージで「次の相手は誰だ?」と語り、試合があるかは分からないが、ニューヨークには行くと宣言することになってしまった。

失意のチャンピオンはここからどこに向かっていくのだろう。

 

物語が生まれた日

「IWGP USヘビー級ベルト」は新日本プロレスの海外戦略の一翼を担う存在として期待されたが、MSGでのタイトルマッチが組まれることはなかった。

2018年のイッテンヨン「レッスルキングダム13」では、ダブルメインイベントの一角に名を刻んでいただけに、大きすぎるほどのギャップがある。

本来であればROH所属の選手とタイトルマッチが行われても不思議ではないのである。

これは非常に難しい問題だ。

正直、このままではベルトが封印される可能性もゼロではない。

そのためにもまずは、ジュース・ロビンソン選手にライバルが必要だと僕は思っている。

今回のチェーズ・オーエンズ選手やバットラック・ファレ選手、マイケル・エルガン選手、KESによるシングル戦線参入など、可能性はある。

ただし、“ガイジン”レスラーでだけでタイトルマッチマッチを行うのも限度がある(過去、YOSHI-HASHI選手が挑戦している)。

棚橋弘至選手や石井智宏選手などがベルト戦線に入ることで、更なる盛り上がりにつながるだろう。

歴史の浅い赤のベルトは、MSGでその役割を果たすリングに上がることすら叶わなかった。

ある意味でこの挫折、逆境がベルトそして、ジュース・ロビンソン選手に新たな息吹をもたらしたと言っても過言ではない。

ベルトへの愛着、誇り、こだわりは十分。これからのジュース・ロビンソン選手、そして「IWGP USヘビー級ベルト」に期待したい。

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