石井智宏とEVILの抗争には激闘という言葉こそ相応しい
宿敵という言葉だけでは物足りないほどの関係となったEVIL選手とザック・セイバーJr.選手。
柔と剛。新日本プロレスで新しく生まれたライバル関係だ。
2018年に丸め込みで敗れた瞬間からEVIL選手は新日本プロレスが誇るセルリアンブルーのリングで動けなくなった。
あまりのショックに闇の王が呆然。失意のEVIL選手に心配する声はどれほど上がったのかもはや数えきれない。
その結果、サブミッションホールド、丸め込みの前に何度も苦汁の飲まされる日々が続いているEVIL選手ではあるが、未だシングルマッチでは勝ち星に恵まれていない。
想像を超える鬱憤。闇落ちした更に深い所にある崖の下。
「ニュージャパンカップ2019」の一回戦で敗れた後には、もう言葉にできないほどの世界へと堕ちていったに違いない。
そんな谷底に光、いや真っ赤な炎が指した。
石井智宏選手である。
無骨に見えて器用。まず、相手のプロレスに乗っかった後に自分の世界観へ引きずり込む。
そんな侍の姿に闇落ちした王は何かを求めだろう。
内藤哲也選手と飯伏幸太選手の「IWGPインターコンチネンタルベルト」を懸けたテーマの中で事件は起こった。
タッグマッチ中に対戦チームのレスラーを分断する。よく見る光景だった。
だが、この日は少し、いや大きく状況が違った。
闇の王と天才
お互いがシングルプレイヤー。タッグを組んでいるが、ここはブレることはない。
EVIL選手とSANADA選手は緊張感を持ちつつ、シングルマッチが盛り上がる傾向にある新日本プロレスで新しい価値を生み出そうとしていた。
2017年、2018年の「ワールドタッグリーグ」を制覇。連覇という記録は非常に素晴らしく、長期政権も期待されていた。
ただ、少し記憶を数ヶ月前に戻してみてほしい。
EVIL・SANADAがSANADA・EVILに変化していたのはいつからだろうか。
それまではEVIL選手のEVILやマジックキラーで終わっていた試合が、いつからかラウンディング・ボディプレスで終わるようになった。
無口なSANADA選手だけに締めのマイクはEVIL選手であるが徐々にEVIL選手が食われている印象を受けていた。
決勝の舞台へ
SANADA選手は新日本プロレス参戦後、喋らなくなった。
「コールドスカル」という名に相応しいクールなファイトと天才としての閃き、身体能力を武器に階段を上っていった。
今思えば、それぞれの「IWGPヘビー級選手権試合」が潮目だったようにも思う。
メインイベント、初の「IWGPヘビー級ベルト」を前に普段のファイトまで時間がかかったEVIL選手と柴田勝頼選手に並ぶレベルでオカダ・カズチカ選手を追い詰めたSANADA選手。
シングルプレイヤーとしての序列はこの瞬間に入れ替わったような気がする。
また、VSザック・セイバーJr.選手については、完膚なきまでに圧倒したSANADA選手に対し、惨敗が続くEVIL選手。
じわじわと2人の差が生まれていった。
名勝負製造機
隣で同じように走っていたライバルに先を越される形となったEVIL選手。
MSGと春の覇者を目指した「ニュージャパンカップ2019」でもザック・セイバーJr.選手の前に屈した。
会場を自分の魔力が詰まったアイテムで染めても満足できない。
壊れそうな心をぶつけられる相手が欲しい。ずっとそう思っていたのかもしれない。
願えば叶う。チャンスは訪れる。
新日本プロレスで最も激しく、心をさらけ出すことができるレスラーが目の前に現れた。
“名勝負製造機”石井智宏選手である。
春のトーナメントではオカダ・カズチカ選手に敗れるもベストバウトを連発。
タイチ選手との闘争については、マイクスタンドを投げ捨てされるまでに、プロレスラーとしての反応を引きずり出した。
そんな相手が自分の目の前に出てきたのだ。チャンスとばかりに啖呵を切らない訳がない。
闇の炎
石井智宏選手とEVIL選手は打ち合い時に激しく叫び声を出していた。
バックステージでもその勢いは止まることなく「こらこら問答」ならぬ「この野郎問答」を繰り広げた。
熱くならないわけがない。熱くなれないはずもない。
今、自分が一番求めていたことができる相手が眼前にいる。
EVIL選手は、目の前に相手がムカつくという以上に全身をフルに使ってプロレスをエンジョイしたいと思っているに違いない。
孤高の存在
石井智宏選手は孤高の存在だ。後藤洋央紀選手を中心に「CHAOS」全員が愛するざんまいポーズにも参加しない。
「CHAOS」と新日本プロレス本隊の距離が近づいたとして、馴れ合うことはない。
田口隆祐選手のグータッチも真顔で無視する。
俺は俺の道を行く。徹底した漢気に惚れ込むファンも少なくないだろう。当然、僕もその1人だ。
現在、石井智宏選手は特定のベルトに挑戦を表明していない。
ベルトとは別のベクトルで自身の価値を高め続けているように思う。
だからこそ思う訳だ。次に新日本プロレスのベルトへ興味を持った時が怖いなと。
実力は折り紙つき。結果、内容、インパクトにとことんこだわるスタンス。
彼の生き様をこれからも見続けていきたい。そして、石井智宏選手とEVIL選手のシングルマッチが楽しみで仕方ない。