内藤哲也がMSGを前に制御不能を取り戻そうとしている
2018年のイッテンヨン「レッスルキングダム13」でオカダ・カズチカ選手に破れた。「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」の人気が加速しすぎた。
「俺の夢は新日本プロレスの主役になること」。この夢を追い続けてきた内藤哲也選手は徐々に毒を失ってきたような印象を受ける。
考えてみればそれはそうだ。
ベビーでもヒールでもない「ロス・インゴベルナブレス」に加入したのが2015年の春。あれから4年の月日が経ったのだ。
「一人ロス・インゴ」を貫いている時の内藤哲也選手は今とは全くまとっている雰囲気が違う。とにかく楽しそうに、めちゃくちゃにデタラメに。自分自身がメキシコで感じた新しい価値観を日本国内でも再現したいという気概がひしひしと感じられた。
それから月日が流れ、内藤哲也選手から“制御不能”という雰囲気は影を潜めつつあった。自分の居場所である“パレハ”の仲間たち。自分を支持するファンの声、生まれたムーブメント。その全てが内藤哲也選手からギラギラとしたオーラを消していった。
今では、余裕のあるプロレス巧者で「ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」のリーダーというイメージの方がピッタリな印象すら受ける。
ただ、これでよかったのか。内藤哲也選手がスターダムに上り詰めて更に見たかったのは、この光景だったのだろうか。
「IWGPインターコンチネンタル王者」として、MSG「G1 Super Card」のリングに立つ。対角線に立つのは、同級生であり宿敵の飯伏幸太選手だ。
ここで負ければ世界的に自分の勢いがストップしたことを証明することになり、飯伏幸太選手がジャンプアップしてしまうのだ。
であれば、最高の状態でリングに上がる必要がある。そのための調整を行うため、内藤哲也選手は日本をいち早く離れた。
鯉煩いの彼がペナントレースが始まったにも関わらず、メキシコ・コスタリカで闘いを求めた理由について考えてみたい。
そう、内藤哲也選手はMSGを前に制御不能を取り戻そうとしている。
失意のメキシコ遠征
内藤哲也選手は2015年のメキシコ遠征で「ここでなにかを持ち帰らなかったら浮上の目はない」と考え、ルーシュ選手やラ・ソンブラ選手らの「ロス・インゴブレナブレス」へと加入した。
この時点の彼に最もふさわしい言葉は背水の陣だった。
満を持して掴んだ「G1クライマックス」の覇者。だが、東京ドームメインイベントの座はファン投票により棚橋弘至選手と中邑真輔選手にかすめ取られた。
対戦相手である「IWGPヘビー級王者」オカダ・カズチカ選手は「全て自分の責任」だとキッパリ。2014年最後の後楽園ホールでは彼のファンから「お前のせいでメインイベントから外れた」とまで罵声を浴びせられた。
当時の内藤哲也選手は言い返すことができなかったという。新日本プロレスの頂点にあるベルトを自分の力不足でメインイベントから引き離してしまったのだ。
更にその試合でもオカダ・カズチカ選手に敗れてしまった。その一年後にはAJスタイルズ選手に挑むも惨敗。今では考えられないが、内藤哲也選手の試合順は前座まで押し下げられていた。
だが、前述した通り内藤哲也選手はメキシコ遠征を経てかけがえのないものを掴んだ。現在の活躍はいまさら僕が語るまでもない。
新日本プロレスのエースに対して、新日本プロレスの主役となった内藤哲也選手はファンからの圧倒的な支持を掴んだ。
だが、徐々に毒が薄れ本来の気性であるヒーローになりたいというベビーフェイス願望が前に出るようになってきたのだ。
最近、内藤哲也選手は自ら仕掛けるよりも相手から仕掛けられる方が増えていたのではないか。鈴木みのる選手やタイチ選手、クリス・ジェリコ選手そして、飯伏幸太選手。全てが相手側から仕掛けられている気がしている。
制御不能な自分から過去の自分に戻りつつある。これでは良くないと考え、今回の短期遠征が決まったのではないだろうか。僕がこの考えに至ったのはKUSHIDA選手のインタビューを読んだためだ。
心の気圧を上げる
海外のリングからオファーが届く。プロレスラーとしては光栄なことに違いない。KUSHIDA選手は自身に届いた海外からのオファーを快諾し、海の向こうへと渡っていた。だが、子どもが生まれた後、一度だけオファーを断ったことがあるという。
改めて考えれば当たり前のようだが、彼らが専属契約を締結している新日本プロレス宛にオファーが届いたとしてもその時点で試合が確定するわけではない。あくまで大切なのは、本人の意思なのだ。
であればMSGでの「IWGPインターコンチネンタル選手権試合」を控え、愛する広島カープの公式戦が始まった今、国内で調整するのがスタンダードだろう。
結果的に内藤哲也選手は今回の海外遠征を許諾した。そして、メキシコで魅せた笑顔は新日本プロレスでは全く見せないような表情だった。
とことん自由に、今自分がやりたいことをやっている。楽しすぎる。早くプロレスがしたい。そんな気持ちを「トランキーロ」という言葉で彼自身の中に溜め込み、心の気圧を上げていく。限界値まで届いたら爆発させるのが内藤哲也選手がメキシコで掴んだものだったように思う。
であれば、今回の遠征で掴んでいるものは何なのか。
求められる自分からの脱却
新日本プロレス公式スマホサイトのインタビューで明らかになったのは、内藤哲也選手が相当ハードなスケジュールでメキシコ、コスタリカでの試合を行うこと。
特にコスタリカでは普段とは全く違う環境(キャパなど)で試合をすることになるという。
また、完全なる一人旅。通訳もいない。長時間にわたる移動や会話する相手の不在はストレスを生むだろう。
そのせいなのか普段よりもTwitterでの配信が増えているのは僕の気の所為だろうか。
内藤哲也選手はこの遠征で何か新しい自分を見つけるため、強行スケジュールで旅に出た。
MSG「G1 Super Card」で今の新日本プロレスを見せる。今の新日本プロレスとは既存のものではない。常に進化を続けるのが内藤哲也選手が持つプロフェッショナルとしての思想だ。
MSGで新しい内藤哲也選手が現れる。そんな気がしてならない。