なぜ、大仁田劇場は新日本プロレス史に残る存在となったのか

なぜ、大仁田劇場は新日本プロレス史に残る存在となったのか。平成が終わったタイミングで振り返ってみたいと思う。

「令和」初日。初のゴールデンウィーク。新元号がはじまったことに対して、多くの人々がなんだがそわそわしている中、僕も「令和」初のブログを書いている。

新日本プロレスは「レスリングどんたく」シリーズの真っ最中だ。後藤洋央紀選手とジェイ・ホワイト選手のスペシャルシングルマッチやオカダ・カズチカ選手とSANADA選手による「ニュージャパンカップ2019」決勝戦のリマッチ、石井智宏選手とEVIL選手の抗争の終着駅など、紡いできた物語がクライマックスへと向かっていく。

正直、後藤洋央紀選手が敗れたことに、まだ心の整理が付いていないが、彼にも自分にも失望するわけにはいない。

こんな時には心から元気が出るあの映像作品を見るしかない。

そう、「大仁田劇場」だ。

新日本プロレスを舞台に涙のカリスマが魅せた1人抗争。約1年以上カメラが追い続けた歴史的な名作である。

「大仁田劇場」は非常にハイコンテキストなエンターテイメントである。

ドキュメンタリーとノンフィクションの間。そんなドラマがリアルタイムで放送され続けるのである。

どこに着地するのかすら分からない。何が起きるのかも分からない。

そんな「大仁田劇場」について書いてみたい。まずは、本エピソードの主役である大仁田厚選手と真鍋由アナウンサーについてだ。

f:id:yukikawano5963:20190430134816p:plain

カリスマとアナウンサー

大仁田厚選手が新日本プロレスを舞台に暴れまわった軌跡を追ったのが「大仁田劇場」だ。

フィクションの中にファクトを含ませるファクションとも異なる独特の物語手法は、プロレスファンのみならず、多くの人々を魅了した。

なぜ、「大仁田劇場」に人々は惹かれていったのだろうか。

その理由に大仁田厚という1人の男が作り上げた“邪道の生き様”があると僕は思っている。

“邪道”。つまり、真っ当な道から外れ、己の道を歩むということ。

“邪”とは正しくない。よこしまという意味がある。

大仁田厚さんは全日本プロレスで将来を約束されるほどの才能を持っていたにも関わらず、怪我により引退を余儀なくされた。

タイガーマスクVS大仁田厚を望む声が出る。そこまでの才能を持ったレスラーだったのだ。

怪我とは残酷だ。

NWAインターナショナル・ジュニアヘビー級王座に輝き、ジャンボ鶴田さん、天龍源一郎さんに次ぐ、全日本プロレス第四の男として注目された男の正道を奪った。

左膝蓋骨粉砕骨折。医師には再起不能だと言われたという。

結果、全日本プロレスを退団。そこから自身でFMWを旗揚げし、インディーの帝王として、時代を席巻した。

そんな彼がFMWを追放され、新天地を求めたのが「大仁田劇場」の物語だ。

漫画から飛び出してきたかのような大仁田厚選手の前に対峙するのは、真鍋由アナウンサー。こちらも絵に書いたような生真面目な青年である。

おそらく学生時代から全く友人にも居なかったタイプだろう(邪道のような人間が2人いるとも思えないが)。

質問をすれば殴る蹴る。コミュニュケーションが取れているのかいないのか。それすら見ていて不安になる。

そんな2人の関係性が徐々に変化していく。

大仁田厚選手は自分について来る男に愛情を。

真鍋由アナウンサーは誰にも真似できない生き方をしている男への尊敬を。

そんな2人の心が寄り添っていく様が「大仁田劇場」にはある。

 

地盤沈下する業界への怒り

稀代のエンターテインメントの幕開けは「怒り」からはじまった。

大仁田厚選手にインタビュアーを務める真鍋由さんをいきなり打つ。

「大仁田劇場」はSNSでの反応を気にして気軽に頭を叩くことすらできなくなってきた現代とは異なり、理不尽なアクションが目立つ。

ただし、絵面としてのインパクトは凄まじい。

真鍋由アナウンサーが座っている椅子を蹴り、ビンタを浴びせる。

このアクション一つで、2つ心が動く。

まずは大仁田厚選手の怒りが凄まじいこと。総合格闘技の勢いに対してプロレス界は何をやっているのか。

4マスが総合格闘技やK-1を取り上げれば取り上げるほど、プロレス界が地盤沈下していく。

この勢いに対して、新日本プロレス、全日本プロレスというメジャー2団体は何をしているのか。

そんな行き場のない感情が彼を動かしていることが分かる。

次になぜ、真鍋由アナウンサーがやられなければいけないのか?という理不尽さだ。

痛そう、可愛そう。

そんな心の動きもあるのだが、繰り返し見ている僕としては何度見てもこの出だしのシーンで口元が緩んでしまう。

何度見ても、何で八つ当たりする対象が真鍋由アナウンサーでなければいけないのか?という理由が見えないのだ。

つまり、目の前にいたからビンタしたのである。

また、ここでのポイントととして、2人の間に絆が存在していないことがある。

生き様を語る大仁田厚選手に対してのリアクションがどう考えても薄い。

仕事だからやっているという感じが画面からひしひしと伝わって来るのだ。

 

平成という時代へ

「大仁田劇場」は長州力選手を追うストーリーが展開されていく。

長州力選手が大仁田厚選手と試合をするのか。ここが作品のメインテーマなのだ。

その過程で佐々木健介さん、蝶野正洋さん、グレート・ムタ選手との戦いが描かれていく。

「邪道プロレス」という言葉がある。この言葉を象徴する非常に興味深いワードが以下だ。

「邪道プロレスにおいて、敗北は勝利と同意義である」。

字面だけ見ると意味が分からない。全く伝わらない。

だが、こう考えれば理解できるはずだ。

勝負をした時点で結果は関係ない。つまり、勝った、負けた。そんな小さい話でプロレスを人生を見ていないということなのである。

最近、どんどん失敗していいという言葉をよく目にする。少し首を傾げてしまう。

失敗していいのではなく、挑戦、チャレンジしを繰り返すように伝えるのがいいのではないか。

何か目標に向かって一つのことを成し遂げる。自分だけのゴールを設定する。

それは他人には全く関係ないのだ。大仁田厚選手は新日本プロレスのリングで「電流爆破がやりたかった」、「長州力とやりたかった」これがゴールなのだ。

それ以外の要素は関係ない。邪道の生き様は王道ではないが、シンプルで美しい。 

 

繰り返し名前を呼ぶ意義

なぜ大仁田厚選手と真鍋由アナウンサーが心を通わせることができたのかについて考えみたい。

2人のコミュニケーションを見ていると、乱暴だし、一見するともう会いたくないと思っても不思議ではないのだ。

だが、2人の距離はどんどん近づいていく。

この背景にあるのが、今、目の前にいる相手と真剣に向き合っていることがあると思う。

「お前を新日本プロレスの代表として聞く」

「俺はお前に会いたかったぞ!」

「真鍋!真鍋!俺の死に水はお前が取れ」

目の前にいる真鍋由アナウンサーに自分の全てをさらけ出す大仁田厚選手。

強気で暴れ回る大仁田厚選手だが、時折本音をつぶやく。

「いつも嫌だ、いつも怖い」と。

試合前のナーバスな姿すら隠さない。意を決し、半笑いで本音を伝える。

そんなギャップを見ていると、人間らしいなと思うわけだ。

大仁田厚選手の素顔を目の当たりにする真鍋由アナウンサー。あの日、あの瞬間、2人に絆は存在したと思う。

ワールドプロレスリング 実況アナウンサー2大受難史 ~飯塚vs野上 大仁田vs真鍋~ [DVD]

ワールドプロレスリング 実況アナウンサー2大受難史 ~飯塚vs野上 大仁田vs真鍋~ [DVD]

 

名セリフ

いかがだっただろうか。この他にもグレート・ニタの登場シーンや別れ、スイカ爆発、背広のプレゼントなど多数のエピソードがある。

「ニタは本当に生きてるんですか?」

「水を吹いてみぃ!!!」

「安かけどなぁ!安かけどなぁ!約束した背広じゃ!」

「大仁田劇場」は一度ではなく、2度3度見るべき名作である。もしも、興味が湧いた方は是非、手に取ってほしい。

また、伝説の「またぐなよ?」もここから始まっているのだ。

平成が終わり、令和がはじまった。昭和に旗揚げされた新日本プロレスも新時代へと向かっている。

動画が盛んになった今、改めてを「大仁田劇場」のオマージュを製作してみるのはどうだろう。

きっと今の新日本プロレスファンからは高い支持を得るはずだ。

最後に、「大仁田劇場」の名セリフで本稿を締めくくりたい。

「真鍋...。ありがっ...」

ワールドプロレスリング 実況アナウンサー2大受難史 ~飯塚vs野上 大仁田vs真鍋~ [DVD]

ワールドプロレスリング 実況アナウンサー2大受難史 ~飯塚vs野上 大仁田vs真鍋~ [DVD]

 

→人気プロレスブログはここからチェック!

→NJPW FUNのTwitterフォローはこちら