なぜ、エル・デスペラードは新日本プロレスの外で刺激を求めるのか
なぜ、エル・デスペラードは新日本プロレスの外で刺激を求めるのか。
令和初のゴールデンウィークが開けた2019年5月7日火曜日、後楽園ホールで開催された「タカタイチマニア2」。
新日本プロレスのレスラーも参戦し、「超満員とはいかないまでもほぼ満員」という記録。また、第一試合からラストまで目が離せない試合内容が並んだこの日の興行は大成功と言っても過言ではない出来だったように思う。
全ての試合にドラマがあった。そう、僕が普段から見ている新日本プロレスのレスラー以外の輝きも目立った。黒潮イケメン二郎選手とDOUKI選手のライバルストーリー誕生や「ずっと勝ちたいと思っていた」相手である外道選手と激突したTAKAみちのく選手。
そして、お互いがあの頃のコスチュームで対峙したタイチ選手と田口隆祐選手。
新日本プロレス育ちと全日本プロレス育ちという出自の違いも色濃く出た好勝負になった。
その他の試合もそれぞれ語りたいところは十二分にある。
ただ、僕の目を一際引いたのはエル・デスペラード選手だった。
世界最凶のデスマッチファイター葛西純選手にやられた弟分DOUKI選手のことを想い、ハーフマスクで登場。その手にはギターと有刺鉄線を巻いたテーブルの板があった。
そして、何よりも服装がスーツだった。なぜ、ここまでエル・デスペラード選手は新しい世界に進もうとするのか。
僕には彼の中で何かを変えたいという気持ちが伝わってきた。
そう、真壁刀義選手がデスマッチの世界で己を磨き、才能を弾けさせたように、エル・デスペラード選手も何かを見出そうとしているように思うのだ。
「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア」直前に一皮剥けようとしている彼の胸中には、いったいどんな炎が燃えているのだろう。
Twitterをやめた理由
エル・デスペラード選手はプロレスリング・ノアへの参戦以降、急速に力をつけていった。今では信じられないが、「鈴木軍」をクビになりかけたこともあったのだ。
だが、現在のエル・デスペラード選手は人気レスラーの一角に位置している。
華麗なテクニックの中にある泥臭さ。マスクを剥がれたとしても動じない度胸。圧倒的にカッコいいマイク。
その全てが新日本プロレスのファンを釘付けにした。最近では「ペ女子」という言葉もよく目にしている。
だが、その状況をエル・デスペラード選手は望んでいたのだろうか。彼は理想と現実のギャップに人知れず悩んでいたのではないだろうか。
その証拠に、突如Twitterアカウントを削除した。最後に呟いたのは「飽きた」というシンプルなもの。
これは僕の予想だが、彼はファンに愛想を尽かしたのでも、プロレスと離れたくなったわけでもない。
今の“エル・デスペラード”に飽きたのではないだろうか。
今のエル・デスペラード選手の概要だけを見ると、「IWGPジュニアタッグ選手権試合」で敗れ、未だ「IWGPヘビー級ベルト」には手が届いていない。にも関わらず、以前と比べると明らかに人気のみが先行している。
自分よりも後に新日本プロレスへ参戦したレスラーが話題を集め、功績を作っている。ここに危機感を抱いたのではないだろうか。
髙橋ヒロム不在の新日本プロレス
新日本プロレスにおいて、エル・デスペラード選手の待望論は日に日に大きくなってきている。
現「IWGPジュニアヘビー級王者」であるドラゴン・リー選手も次の挑戦者候補として、エル・デスペラード選手の名前を出している。
少し話は逸れるが、その理由は簡単だったりもする。
昨年の「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア」でドラゴン・リー選手が敗北し、新日本プロレスに継続参戦しているのはエル・デスペラード選手のみなのだ。
また、髙橋ヒロム選手がBブロックのリーグ戦で敗れたのは、ドラゴン・リー選手とエル・デスペラード選手のみ。
つまり、次の挑戦者に最も相応しいのはエル・デスペラード選手だったりするのだ。
話を戻そう。
会社からもファンからもエル・デスペラード選手は求められている。自分の時代がこれから訪れる潮目も当然感じている筈だ。
俺の方がヒロムよりも強かった
エル・デスペラード選手は髙橋ヒロム選手とぶつかり合うことで、ミックスアップが発生し、人気もその魅力も爆発的な進化を遂げていった。だが、もう一つ足りていないのである。
獣神サンダー・ライガー選手が生み出した引力によって、次々とスター選手が引き寄せられる新日本プロレスジュニアの世界。もう一つ何かが必要なのだ。
今の新日本プロレスにはない個性。エル・デスペラード選手が持っている伸び代。
それが凶気であり狂気なのだ。
葛西純選手の「飯塚高史なき後、俺に刺激を与えてくれるのはお前しかいない」という言葉は最大の賛辞だろう。
事実、マスクの下の表情は読み取れないが、笑みを浮かべているように見えた。
誰か(レスラー)に刺激を与えられる存在ではなく、自分が刺激を与える側に回る。
そのためにはもっと、もっと、もっと、もっと刺激が必要なのだ。
そこで、エル・デスペラード選手は器用にプロレスをしたり、ルチャ・リブレではない世界を求めた。
デスマッチを通じて生きることの実感を得る。「デスマッチで生き延びる」という言葉を否定したのは誰だっただろうか。その方は「生きるためにリングに上がる」と語っていた。
これから新日本プロレスで大きな功績を残すために必要な経験をエル・デスペラード選手は積んでいる。
なぜ、エル・デスペラードは刺激を求めるのか。なぜ、デスマッチのリングに上がるのか。その答えは生きるためであり、新しい自分を手に入れるためである。