新日本プロレスの興行はハッピーエンドで締めなければならないのか?
新日本プロレスの興行はハッピーエンドで締めなければならないのか?
2019年6月9日に開催された「DOMINION 6.9」大阪城ホール大会。この日のメインイベント後に事件は起こった。
「IWGPヘビー級選手権試合」をエビ固めで勝利したオカダ・カズチカ選手だったが、その直後クリス・ジェリコ選手に蹂躙され、好き放題、暴言吐き放題された結果、バッドエンドを迎える結果を招いてしまった。
10日行われた一夜明け会見でも真っ先にチャンピオンとして謝罪するなど、絶対王者レインメーカーとしての役割を果たせなかったことについて、責任を感じているように見えた。
ただ、マイクがないバッド・エンドを迎えた大阪城ホールを振り返って、色々な考えが浮かんできたことは事実としてある。
まずは、新日本プロレスの代名詞とも言える締めのマイクについてだ。
新日本プロレスの締めのマイクと言えば、大きく3つが浮かぶ。まずは棚橋弘至選手の「愛してます」。
次にオカダ・カズチカ選手の「金の雨が降るぞ!」。
そして、内藤哲也選手による大合唱「ロス・アンナベルナァァァブレス・デ・ハポン!」だ。
この3つはとにかく盛り上がる。その大会に来てよかったなぁと思わせるマイクパフォーマンスである。
現在の新日本プロレスは他にも数多くの締めが存在する。
SANADA選手の「See You Next Time!」やEVIL選手の「全ては........EVILだ!」、髙橋ヒロム選手の「もっと!もっと!もっと!もっと!もっと!楽しもうぜ!」。は「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」の広がりを魅せた。
また、「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア26」で数多く見ることができた田口隆祐選手の「大好きで〜す」も大好物である。
少し前であれば、中邑真輔選手の「答えはこうだ!イヤァオ!」もそうだろう。
つまり、平成の新日本プロレスは締めのマイクとセットだというイメージが定着した時期である。
その昔は「1.2.3.ダー!」が主だったところから大きな変化である。
ここからはその背景について考えていきたい。
その場の満足度を生む
今では想像もできないが、新日本プロレスはお客様が会場に入っていない時期があった。
先を見据えるよりも、今目の前にいるお客様を満足させなければならない。
言葉を選ばずに言えば次を考えたり、予想させたりする余裕がないのだ。
ベビーフェイスが中心に立ち、「愛してま〜す!」を合言葉に色々な敵を打ち破っていく。
棚橋弘至選手が生み出したのが、現在の新日本プロレスの原型になっているように思う。
マイクがないのが不満なのではない
石井智宏選手は試合で全力を尽くし、マイクパフォーマンスは行わないという哲学を持っている。
この点に関して不満を挙げる声は一切無かった。石井智宏選手らしい締めはマイクよりも花道を真っ直ぐに帰ることであるためだ。
つまり、マイクの有無で混乱は起こるのではない。
脳内での補完が追いつかない時に不満が爆発するのだ。
僕自身、飯塚高史選手の引退試合があのエンディングを迎えた時は思わず声を挙げてしまったが、よくよく考えるとあの締めが良かったことに気付く。
プロレスとは人生の縮図である。
この言葉を忘れてしまっていたのではないだろうか。常に人生ハッピーエンドが続く訳がないのである。
ファン同士の関係性
Twitterで見たことだが、今回の締めに対して「金返せ!」と心無い声を挙げた方が数名いたという。
昭和プロレスから応援しているファンの方からすれば、モノが飛ばなければ、暴動は起こらないと、プロレスは平和になったと思うことだろう。
数十年前の新日本プロレスは確かにそうだった。だが、現在は令和時代である。
もはやファン層が2回転以上しているのだ。同じ団体でも客層が全く違うのだ。
僕はこう思う。こういった展開になった時にファン歴が長い方が短い方をどうサポートしてあげるのか?という点が大切だと。
こんなコメントが僕のTwitterアカウントに届いた。クリス・ジェリコ選手が暴れまわった後、「テンションが下がって、これで終わり?」となったと。
ここでどう答えるのかが、プロレスファンの腕の見せ所なのだ。
「オチのマイクが決まるともっと楽しいよ!次また会場で応援しよう」
物語性の再構築
オカダ・カズチカ選手が「IWGPヘビー級ベルト」を防衛したにも関わらずマイクがない試合には過去にもあった。
例えば、柴田勝頼選手を破った「レスリングどんたく」である。
激闘が終わった後に登場したバッドラック・ファレ選手に蹂躙され、この日もオカダ・カズチカ選手はノックアウトされマイクはなかった。
当然の如くバッドエンドである。この展開が大阪城で起こったのだ。
つまり、起承転結でいうところの「承」が今回の大阪城ホールだった。と言いたいところだが、プロレスの大会は複雑で難しい。
「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア26」の完結や内藤哲也選手と飯伏幸太選手による年内3度目の対決など、結に紐づく展開もあった。
だが、今回は全体を通して「G1クライマックス29」への「承」だったと言わざるおえない。
いや、「G1クライマックス」が「転」なのだ。新日本プロレスにおける全ての物語は一部を除き、全て「レッスルキングダム」へと向かっていくのである。
プロレスは先を楽しむもの
新日本プロレスは海外を意識した結果、起承転結の流れがよりダイナミックになった。
2018年の「G1クライマックス」はタイチ選手がエントリーしないという“世紀の誤審”もあり、参戦選手のサプライズはなかった。
だが、2019年はどうだろう。ジョン・モクスリー 選手や鷹木信悟選手、KENTA選手、ウィル・オスプレイ選手の参戦が決まれば、新鮮な対戦カードが目白押しなのである。
例えば、オカダ・カズチカ選手VSジョン・モクスリー選手や内藤哲也選手VS鷹木信悟選手。
ザック・セイバー Jr.VS KENTA選手、石井智宏選手VSウィル・オスプレイ選手など想像しただけでも涎が出そうなカードがてんこ盛りなのだ。
1つのバッドエンドに対して抵抗もあればストレスもあるだろう。
ただし、そこをグッと堪えて次の展開を予想するのもプロレスを楽しむ醍醐味なのだ。