矢野通がジョン・モクスリーに勝てたワケ
矢野通がジョン・モクスリーに勝てた理由について、しっかりと書き残しておかねばならない。
以前からこのコラムを見ている方には露見していることだと思うが、新日本プロレスをとことん楽しむことを標榜し、忖度、批判・批評なしがこNJPW FUNのテーマである。
新日本プロレスのリングで戦っているレスラーを中心に平等に心に響いたものを書いているつもりだが、やはり僕も人間だ。
特に目を奪われるレスラーが数人いる。
ハッキリ言えば矢野通選手はその1人である。
僕は唯一無二のオリジナリティを貫くことで、誰とも比べることができない場所に自分を位置付けられることを彼から学んだ。
一つのスキルだけではなく、複合的に個性を重ねつつ、穴場を狙う。面白いと思ったり、ビジネスチャンスがあると思えばとことんやり抜く。
この姿勢にはビジネスパーソンとして単純に刺激を受ける。そう、矢野通選手から学ぶべきことは余りにも多すぎるのである。
誰にでも勝てる存在価値
矢野通選手は2018年、2019年の「G1クライマックス」で以下のメンバーからシングルで勝利を掴んでいる。
飯伏幸太選手、ケニー・オメガ選手、内藤哲也選手、ジェイ・ホワイト選手、ジョン・モクスリー選手。
全員がシングルベルトホルダー。矢野通選手は優勝候補を相手に白星を飾り続けてきた。
ある意味で一勝の重みが違うのである。今年だけ見ても、「IWGPインターコンチネンタル王者」と「IWGP USヘビー級王者」相手に勝利を収めた。
もしも石井智宏選手相手に勝利を掴むことになれば、同グループに振り分けられたチャンピオン相手に全勝ということになる。
“敏腕プロデューサー”はどのベルトに照準を合わせるのか。それとも動かないのか。
ガツガツしないよう見えつつ、流れを見て、何かのアクションを起こす。そんな楽しみ方も出来るのが矢野通選手の魅力なのでなる。
なかったコトにして
ジョン・モクスリー選手が海野翔太選手と共に634を受け、悶絶している中、毎年お馴染みのテーピングが飛び出した。
634の威力は絶大である。自分の足が何かされていることに気付いていたとしても、悶絶するレベルの痛みが走っていれば抵抗などできるはずもない。
2人の足を結びつけそそくさとリングへ戻る矢野通選手。
カウント20が鳴り響き、ジョン・モクスリー選手の新日本プロレス無敗記録が止まった。
自分が負けたことを飲み込めていない。全勝でリーグ戦を制し、優勝決定戦にも勝利し、新日本プロレスの頂点に駆け上がるつもりだった。
その野望に初めて土が付いたのだ。
しかも、相手の術中にハマり抜け出すことすらできなかった。
スパーリングパートナーであり絆ができつつある海野翔太選手がこういった形で使われるとは想像もしていなかった。
試合後、リングの上に戻り悲痛な表情を浮かべるジョン・モクスリー選手。
オフィスで見ている時には「この敗戦を引きずって欲しくないな」と素直に応援する気持ちが浮かんだ。
だが、一晩明けて見直した際、僕の脳裏には19年前の楽曲が浮かんだ。
「なかったコトにして」
ゴメンなかったことにして 神様やり直し
今のなかったことにして
それでいいじゃない お願い もう一度やりましょう
郷ひろみさんの名曲である。
ジョン・モクスリー選手は必ずこう思ったに違いない。
「ゴメン ナカッタコトニシテ」と。
試合時間は5分8秒。スタミナもまだまだあるし、もう一度やれば同じ轍は踏まない。自分は新日本プロレスを矢野通を楽しもうとし過ぎた、と。
自分はトオル・ヤノを相手にしても最高の試合ができるし、勝利も掴めるのだ、と。
甘かった。出し抜かれた。上を行かれた。
であれば、付き合うこなくダーティーファイトに徹すればよかった。
戦い方を変えれば、ただ単に勝てるというというものではないが、ジョン・モクスリー選手はこの一敗に対して、「なかったコトにして」と思ったのは間違いない。
チクショー! ヤノ、この俺から得点を盗んだってことを忘れるんじゃないぞ。ここでお前だけに構ってるわけにはいかない。ヤノよ、ほかのヤツを叩きのめしたら、お前にお返しだ。(※海野の胸ぐらをつかんで)叩き潰してやる! (※ここでおとなしい口調になって)こんなところでヤノにやられたからって、イライラしていてはダメだ。俺が行くべき道を踏み外さないこと。だけどそのうち、お前を叩きのめしてやるからな。今夜はよくやったとだけ言っておくよ。お前の奇妙な闘い方に付き合ってしまったのがいけなかった。ああいう闘い方に関しては、お前の方が上手だったよ。(※左肩を回しながら)まあ、壊されてはいないようだな。まだまだ俺の左腕は使える。(※海野に向かって)オイ、行くぞ
G1クライマックス後半戦
矢野通選手は今回の勝利で優勝決定戦進出の可能性を残す形となった。勝った相手が軒並み上位に食い込んできそうな選手なだけに、決勝進出の可能性は十分にあるのだ。
と、書きつつもやっぱりないだろうとも思う。
いや、令和の時代は何が起きるか分からないので、十分に可能性はあるとも思う。
ただ、一つ言えるのは内藤哲也選手が「G1クライマックス」開催前のインタビューで語っていたように「なぜエントリーされるのか?」についての話題が巻き起こることはもうないだろう。
各ユニットのリーダーやスーパースターに黒星を付けた唯一の男はきっとこれからも「G1クライマックス」にエントリーし、番狂わせを起こし続けるに違いない。
僕は矢野通選手の「G1クライマックス」優勝を願っている。