内藤哲也と鷹木信悟から勝利を掴みとれた理由
内藤哲也と鷹木信悟から勝利を掴みとれた理由について考えてみたい。
「G1クライマックス29」大阪大会2日目。メインイベントは「ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」の同門対決となった。
内藤哲也選手と鷹木信悟選手が出会ったのは2000年の頃になる。2人は共に高校3年生という夢を追う少年だった。
住む場所も性格も全然違う。ただ、一つ共通していたのは「プロレスラーになりたい」という夢だけだった。
内藤哲也選手と鷹木信悟選手は浅草にあるアニマル浜口道場で出会った。
あの日から19年。いよいよそんな2人がプロのリングで相対する瞬間がやってきたのだ。
激しく身体をぶつけ合い、しばき合う。
徹底的に鷹木信悟選手を技を受ける内藤哲也選手。相手の技を受けることにそこまでの意味があるのか。
以前、内藤哲也選手はプロレスの受けについて、プロフェッショナル仕事の流儀では「試合に関係ない無駄なこと」だと語っていた。
だが、決して無駄なものではない。
内藤哲也選手が鷹木信悟選手に追い詰められれば、追い詰められるほど、僕は制御不能なカリスマから目が離せなくなっていった。
龍の如く、そう登り龍のように
鷹木信悟選手は「ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」の中でも少々毛色が異なっているメンバーである。
日本NO.2の団体ドラゴンゲートのトップレスラーとしてリング内外で長年活躍し、地上波のテレビにも何度も出演を果たしていた。
また、体育会系の縦社会を好まない内藤哲也選手は以前冗談ではあるものの、「ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」の所属条件として、自分より年齢が下だと語っていた。
他団体のエース、圧倒的な実力者。
同級生。アニマル浜口道場のほぼ同期。
2つの歩んできた道が。更に上を目指すことを決めた龍の運命を変えることにつながっていく。
龍は新日本プロレスを次なる舞台だと見定めた。
だが、19年前を振り返ると、鷹木信悟選手にはある前提があったように思う。
「俺が内藤哲也に負けるはずがない」という圧倒的な自信だ。
それもそのはず、プロレスラーとしてデビューする以前、内藤哲也選手は鷹木信悟選手に勝てていなかったのだ。
自信は試合内容に直結する。新日本プロレスでシングルベル未戴冠の男が、現「IWGPインターコンチネンタル王者」をギリギリまで追い詰めたのだ。
そして、鷹木信悟選手はセルリアンブルーのリングに上がって以降一つの疑問があったという。
ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」のリーダーは人気先行ではないか?という点である。事実、2018年のイッテンヨン「レッスルキングダム」ではオカダ・カズチカ選手に破れたり、「IWGPインターコンチネンタル王者」としてはリス・ジェリコ選手、飯伏幸太選手を相手に辛酸を舐めさせられている。
人気は間違いなくNO.1。だが、その実力はどうなのか。その点についての答えが出たようだ。
今日の対戦が決まったとき、俺はうれしかったよ。だけど今日、試合して思った。それ以上に、今はうれしいぜ。まあ、言っちゃあなんだが内藤は、キャラクターや人気が先行してるから、“リング上はどうなんだ?”って俺も組みながら思ってたんだけどよ、あの野郎、やっぱスゲェじゃねぇか。間違いなくつえぇよ。さすが、内藤哲也。だがこれで、(※ゆっくり立ち上がりながら)今日が終着点じゃねぇな。浜口道場(アニマル浜口ジム)の頃から、切磋琢磨してたが、改めて、オイ言うぞ、内藤哲也、別にこれは宣戦布告じゃないが、確実に、俺とお前の、今日がスタートだ。やられたままじゃ、絶対に気が済まんからな、俺が。それから、俺の夏を今日で終わらせる? ふざけんな。俺は残り、横浜(8.8)と武道館(8.11)、2試合残ってんだ。ただの1試合すら、消化試合はねえ。全力で、鷹木信悟、ぶつかるだけだ
デスティーノを背負って生きる男
内藤哲也選手が鷹木信悟選手を相手に勝利できた理由は3つある。まずは、鷹木信悟選手に対して単純に負けられないという意地。次に、髙橋ヒロム選手の復帰を待つユニットのリーダーとして譲れないプライド。
最後に「IWGPインターコンチネンタルベルト」を巻いたまま「IWGPヘビー級ベルト」を同時戴冠するという夢のため。
全ての思いが複雑に絡み合った時、内藤哲也選手はこれまで超えられない壁だった。鷹木信悟選手を破ることができたのだ。
プロレスラーとして、一人の男としてそろそろ鷹木信悟選手には勝ちたい。そして、髙橋ヒロム選手が欠場したことがキッカケで呼び寄せた男に負けたとあっては、彼に何も言えなくなる。
そして、今の内藤哲也選手には夢がある。新日本プロレスの主役になる夢を叶えた次の夢がその胸にしっかりと詰まっている。
だから負けなかった。だから勝利を掴むことができたのだ。
試合の流れを変えたのは張り手。いやビンタ。その姿に棚橋弘至選手の面影があったような気がした。
今日の勝利でなんとか踏みとどまったかな。他力本願だけどね。なんとか踏みとどまったでしょう。鷹木と初めて出会ってから19年、最後に向き合ったのは二十歳ぐらいの時かな、だから、17年、16年前のことなんだけれどさ、今日、久々に向き合ってみて、アニマル浜口ジムで、切磋琢磨してた時代がフラッシュバックしてきたね。スゲェ懐かしかったな。ほとんど俺、鷹木に勝ったことなかったから、俺にとって彼は嫉妬の対象でしかなかったからね。こうしてプロのリングで闘い、そして彼に勝てたのは、ずーっと今まで心に溜め込んだものが発散されたかな。まあでもさ、これだけ鷹木のことを語っているけど、でもこの『G1 CLIMAX』、別に鷹木に勝ちたくて出たわけじゃないからね。こうやって懐かしの対戦を煽る為だけに『G1 CLIMAX』に出てるわけじゃないから、リング上でも言った通り俺は史上初の偉業を目指してやってる訳だしね。そこに俺はたどり着いてみせますよ。まあ、状況は厳しいけどね。この鷹木からの勝利を無駄にしたくないし、するわけにもいかないし。彼からの勝利がものすごく価値のある事だって知ってるからね。スゲェ価値のある勝利だ。これを無駄にしないためにも、あと2試合、俺は全力で闘いますよ、そして優勝を目指しますよ。なぜならその先を見据えているものがあるから。さあ次は浜松アリーナでお会いしましょう。アディオス
ライバルとは素晴らしい
オカダ・カズチカ選手とSANADA選手のライバル関係に深みが出る中で、内藤哲也選手と鷹木信悟選手の物語がいよいよはじまった。
同じユニットのメンバーとしてコーナーに並び立つ日が続くのか。それとも以前から期待されているユニット内抗争が勃発するのか。
飯伏幸太選手によるSANADA選手のスカウト話もいったん影を潜めているが、いつどこのタイミングで再び登場するか分からない。
2015年の結成以降、常に新日本プロレスを席巻してきた「ロス・インゴブレナブレス・デ・ハポン」に新しい展開が訪れようとしているかもしれない。
そう感じさせる内藤哲也選手と鷹木信悟選手の試合だった。