鈴木みのるとライガー。座礼と「ありがとうな」は世界一美しかった
鈴木みのるとライガー。座礼と「ありがとうな」は世界一美しかった。2019年10月14日の「保険見直し本舗 Presents KING OFPRO-WRESTLING」第四試合は新日本プロレス史に残る決闘だった。
「鈴木みのるは漢の中の漢である」
誰が何と言おうとも一ミリの否定もできないだろう、!新日本プロレスが生んだ“プロレス王”は、決して誰もできないほどの感動を生んだのだから。
「ボスがあんな姿を見せるだなんて」そんな衝撃も確かにあったはずだ。なぜなら散々、表向きは獣神サンダー・ライガー選手を煽り続けてきたから。獣神サンダー・ライガー選手は腹いっぱいになる前にプロレスを止めると言っていた。
だからこそ、リングに上がるという意味でのプロレスをしっかりと卒業できるよう、これ以上ない介錯を行ったのではないだろうか。
新日本プロレスの道場で出会った先輩と後輩。夢を叶え、その場所で生き続けた獣の神と己の理想郷を探し求めた“プロレス王”。
その終着駅は2019年10月14日の両国国技館だったのかもしれない。
ただ、ひとつだけ気になることがある。獣神サンダー・ライガー選手はバトルライガーとして姿を現したが、鈴木みのる選手はいつもの出で立ちで姿を現した点である。
特別な時にしか纏わない白。最後に着用したのはデビュー30周年を記念した大海賊祭だった。
獣神サンダー・ライガー選手の花向けとして、選んだ黒。俺はまだ続けるという意味での黒。プロレス王はまだまだ歩みをやめないのだ。
さぁ、本題に入ってみよう。これは新日本プロレスファンが胸をいっばいにし、目頭を熱くした魂の記録だ。
昭和、平成を生き抜き、令和までたどり着いた最高の漢たちは入場から我々の度肝を抜いた。
風になれと怒りの獣神
歴代の名レスラーたちは「入場だけでお金を取れること」の価値を訴えてきた。人を魅了することこそがプロレスの真骨頂だ。
この日の鈴木みのる選手と獣神サンダー・ライガー選手の試合も入場時のコスチュームが話題を集めていた。
鈴木みのる選手は特別な試合でしか着用しない白を持ってくるのか。獣神サンダー・ライガー選手は17年前にパンクラスに上がった時の出で立ちであるバトルライガー仕様で登場するのか。
まず、この2つに注目が集まった。結果から言えば“これからもプロレスのリングに上がる”鈴木みのる選手はいつも通りの黒。2020年の東京ドームで引退を表明している獣神サンダー・ライガー選手は特別なコスチュームで姿を現したのだった。
「燃やせ 燃やせ 怒りを燃やせ」
怒りを燃やして新日本プロレスを牽引した漢。
「輝きの中で 風になれ」
美しき風として土地土地のプロレスに豊かさを与えてきた漢。
前哨戦は終わった。後はリングの上で決着を付けるのみである。
試合内容について
この試合について気になった方は「新日本プロレスワールド」に加入して欲しい。
胸がいっぱい過ぎて、試合内容を書くのは野暮なことなのかもしれない。
ただ、これだけは言える。今の時代にはないプロレスがそこにはあった。昭和、平成を生き抜いてきた者たちだけが魅せるプロレス。
みんなが心から愛したプロレスが広がっていた。
自ら寝転んでグラウンドに誘う。場外乱闘。意地の張り合い。一本足頭突き。あびせ蹴り。掌底。垂直落下式ブレーンバスター。そして、ゴッチ式パイルドライバー。
僕たちが見たいものが全て詰まっていた。
心からの祝福
試合後、鈴木みのる選手は解説席から椅子を持ち込み、獣神サンダー・ライガー選手を手当てしていた辻陽太選手、上村優也選手を強襲した。
「俺たち2人の世界に入ってくるな」
両国国技館の9.573人。新日本プロレスワールドを見ている大勢の新日本プロレスファン。そして、新日本プロレスのレスラー、スタッフ。全ての関連人物たちが固唾を飲んで見守る中、鈴木みのる選手はパイプ椅子を放り投げて、セルリアンブルーのリングに両膝を付いた。
そして、深く、深く頭を下げた。
「ありがとうございました」、と。
新日本プロレスの道場や第一試合前。決めっこが終わった後には相手に礼をする。
UWFは道場のスパーリングを観客に見せていたと揶揄されていたが、この日の鈴木みのる選手は道場では当たり前の光景だった「座礼」をお客様の前で行ったのだ。
大きく、大きく見えた
中卒で新日本プロレスを目指し断れた。高校でレスリング部に入部し頭角を現し、入門を許された。
メキシコで山本小鉄さんに見出され、身長制限を乗り越えプロレスラーとなった。
強くなりたい心は同じ。ただ、歩んできた道が違う。生き方が違う。だが、2人にしか分からない景色は確かに存在していたのだ。
鈴木みのる選手関連の書籍を読むと「身体が小さいから期待されていなかった」と記述があった。
だが、あの日の両国国技館を振り返ってみてどうだろう。誰よりも大きく、気高く美しかったのは、鈴木みのる選手だったのかもしれない。
“先輩”が本気でぶつかり合うプロレスに未練がないよう何度も何度も胸を突き出した。
「来い!打ってこい!」と。獣神サンダー・ライガー選手は気力が尽きるまで張った。掌底、掌打も繰り返し見舞った。
最高の試合やライブを観ていると、時折この瞬間がずっと続けばいいと思う時がある。
「この時がずっと続けばいい」
鈴木みのる選手と獣神サンダー・ライガー選手の試合に永遠があった。
獣神サンダー・ライガーよ……。おまえが俺に勝てるわけねえじゃんかよ。もう限界ですって言って辞めていくヤツ。先頭走ってるヤツに。おまえが何をもってしたって勝てるわけないじゃないか。俺は……俺とアイツの17年、いやいやいや、32年、32年の、男のケジメよ
パンクラスで戦ったあの日ではない。新日本プロレスに鈴木みのる選手が入門した日から続いていた漢のケジメ。
リヴァプールの風となった山田恵一さんも獣神サンダー・ライガー選手も纏めて俺が介錯する。
これが鈴木みのる選手の矜持だったのだ。
棚橋弘至選手が泣いた。山崎一夫さんが泣いた。ミラノ・コレクションA.T.さんが泣いた。
そして、多くの人々が涙した。
プロレスラーの生き方
試合後のバックステージで獣神サンダー・ライガー選手はこう語っている。
……負けた人間なんだ、何の質問もねぇだろう。俺が言いたいのはそれだけ。これでおわりにしたくない。引退までの通過点にしたくない。レスラーってのは負けたら根に持つんだ。絶対仕返ししてやる! シングルまた組め、シングルで。新日本プロレス! 俺と鈴木のシングル組め! どこでもいつでもいいから。何回も言うが、とりあえず今日は『ありがとう』。以上!」
プロレスラーとは根に持つ生き物。出し切ってカラカラになった先がある存在なのだ。
これからも2人の試合が見られるのか。あの試合で完結したのか。それはまた少し先の話。
プロレスを好きになってよかった。僕は確かにそう思った。
“プロレス王”鈴木みのる選手に心からの「ありがとうございました」を込めて。この日の筆を置きたいと思う。
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