中西学の引退とプロレスラーたちの『Polaris』

中西学引退試合。この漢字7文字に込められた意味を考えるだけで、複雑な気持ちにさせられた。

お天道様もそんな気分なのか、雨なのか曇りなのかはたまた晴れなのか複雑な天気で当日の朝を迎えていたように思う。

僕は飯塚高史さんや獣神サンダー・ライガー選手の引退試合と同じかそれ以上の緊張感を覚えた。

話は高校生の時なので約20年前まで遡る。当時のスターは闘魂三銃士(武藤敬司選手、蝶野正洋さん、橋本真也さん)だった。

彼らと共に行動したり、対角線に立っていたのが第3世代の4人。天山広吉選手、小島聡選手、中西学選手、永田裕志選手である。

学生時代の印象が強いからだろう。彼らがほぼ50代になっていることに大きく驚いたのは。

いつまでも若々しく、華があって、パワフルなファイトを魅せる4人。まだまだ4人の試合がたくさん見れると勝手に思っていた。

いよいよ、メインイベントの時間がやってくる。新日本本隊とCHAOSの連合チームは、言ってしまえば新日本プロレスのベビーフェイスのトップ4だ。

ただでさえ死角のないFour Topsだが、昨日、“ゴールデン☆エース”が「IWGPタッグ王座」を戴冠しただけに勢いと流れもある。

ただし、絶対に負けられないのは第3世代チームの方だ。

中西学選手に「人生バラ色だった!」とリング上で言ってもらうためにも負けられないのだ。

後藤洋央紀選手、飯伏幸太選手、棚橋弘至選手、オカダ・カズチカ選手がそれぞれの入場曲で後楽園ホールへ姿を現す。そして、この日の主役も続々とリングに上がる。

中西学の引退とプロレスラーたちの『Polaris』。夢の時間がはじまった。

 

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ファイナル後楽園ホール

前提、プロレスとは予備知識なしに楽しめるものだと僕は思っている。鍛え上げられた肉体を持ったレスラーがリングの上でぶつかり合い、強者を決める。

特に現在の新日本プロレスは華やかな選手が多く、一度でも会場で観戦してしまえば、心を奪われることは決して珍しいことではないはずだ。

ただし、プロレスは歴史を知れば知るほど、点と点が線になりその魅力は指数関数的に増加する。レスラーたちが生み出している星座を見る。

星は一つでも美しいが、星座となることで意味合いも変わってくる。

「あっ、この星とこの星がつながっていたんだ!」、「へぇ〜!意外な設定があるものなんだな」。

分かりやすく、つながりが見える星もあれば有識者から説明されて知る星座もある。

中西学選手は新日本プロレス一筋27年。彼が一番輝いて見えたのは“第3世代”という星座だった。

対角線に立つ相手よりも誰と一緒に戦っているか。ここにテーマを設けた引退ロードだったように思う。

 

まだ誰も知らない中西学

第3世代いや、黄金世代がプラチナ世代と対峙した。改めて考えれば、全員が「IWGPヘビー級ベルト」を戴冠している豪華絢爛な4人なのだ。

「まだまだ衰えていない!」は永田裕志選手の言葉だが、衰えるどころか魅力を増しているようにすら感じる。

動きのスピードやキレが落ちたとしても、磨き上げられた技と立ち居振る舞いだけでカバーできている。

プロレスは選手寿命が比較的長いスポーツだが、改めてその理由を実感させられた。

例えば、試合開始直後。オカダ・カズチカ選手が先陣を切って中西学選手を指名したシーンだ。

新日本プロレスの象徴が中西学選手を全く押せない。力比べという領域では引退試合を迎えたベテランの方が上なのだと証明される結果を示した。

プロレスは勝った、負けた。力が強い、弱いを競っているスポーツではない。本質はあくまでも別のところにあるのは重々承知の上で書くが、やはりパワー強いというのは圧倒的な個性であり魅力だった。

この8人タッグマッチが面白い試合になることは、この時点で確定したように思う。

 

覚醒した中西学

こうしてプロレスのコラムを書き始めて1年半が過ぎようとしているが、中西学選手についてキチンと書いたのは引退発表後だったことに気付かされる。

この日の試合を見てみたら、なんと僕の目は節穴だったのかと気付かされる。それほどまでにプラチナ世代のベビーフェイストップ4を中西学選手は圧倒していた。

誤爆した永田裕志選手をアルゼンチンバックブリーカーで担ぎ上げると飯伏幸太選手、棚橋弘至選手へ投げつけた。

永田裕志選手のが驚愕というよりも「行け!行け!」という表情を浮かべていたことから、予想していた荒ぶる野人が出たことに喜んでいたのだと思う。

永田「(※中西の背中を叩きながら)確かに今日は、中西学自らの手で勝った! ただ、27年間ずーっと俺はこの男のそばにいて、本物の中西学をまだ出してない! 明日は俺が完璧に覚醒させて、さらにとてつもない中西学を、世間に披露しますよ。まだまだ、中西学はこんなもんじゃない! 本っ当に怒れる野人、荒ぶる野人というものを、明日は俺がこの手で披露します! まだまだこんなもんじゃない、中西学の底力は!」

出典:新日本プロレス公式サイト

“野人”の覚醒とは何か。SNS上でもにわかに話題となっていたが、このこと!と思わず声を上げてしまった。

色々と自分のキャラクター性に迷った中西学選手がたどり着いたのは、気は優しくて力持ち、不器用だけど温かいレスラーだった。

最後の時間を本当に楽しそうに過ごす33年来の付き合いとなる中西学選手と永田裕志選手。自分を武器にされたにも関わらずハイタッチを交わす2人はこんなにも美しいのかと笑いながら涙がこぼれてしまった。

 

俺が介錯するのだという気持ち

この日、“新日本最強チーム”は全員が中西学選手を狙っていた。俺が“野人”を介錯するのだという気持ちがビンビンに伝わってくる。

最終的には『G.T.R』、『カミゴェ』、『レインメーカー』、『ハイフライ・フロー』のコンボ。中西学選手は肩を上げることができなかった。

いや、一発でも立ち上がれない技を4連発で受けたのだ。意識だって吹っ飛んで当たり前だ。なぜ、4人は一人に対して“やり過ぎ”とも取れることをしたのだろうか。

まず、レスラーとしての勘。そこまでしなければ中西学選手はカウント2で起き上がってくると直感したのではないか?

次に、自分の最大の技を“野人”にぶつけたかったという寂しさだったのかもしれない。

棚橋弘至選手以外は中西学選手との対戦機会に恵まれなかなった。

もっと彼とプロレスがしたい。そんな気持ちを4つの技に込めた。引退間際の人間へ溢れそうな気持ちをぶつける新世代の最強チーム。

勝ちたいとも超えたいとも違う何か別の感情があのリングには漂っていたようにも思う。

だからこそ、試合が終わって勝ち名乗りを受けるシーンで8人全員が手を繋ぎ両手を掲げたのだ。

棚橋「本当に中西選手には、いろんな節目節目でね、闘ってきて。2009年の後楽園ホール。2009年、大阪府立体育館。不祥事からの復帰戦っていうね。嫌な、嫌だったと思うけど引き受けてくれて……。そん中でも入門して1年目、1999年『G1 CLIMAX』直前、僕と中西さんがね、道場で練習していた時にアクシデントでふくらはぎを肉離れしてしまって……酷くて。それでも中西さんは1999年の『G1 CLIMAX』を勝ち上がって行って、セコンドですみませんすみませんと思いながら、優勝した時は本当に嬉しくて……。本当に長い間、お疲れさまでした。新日本プロレス、頑張っていきます。中西さん見ていって下さい

出典:新日本プロレス公式サイト

カシンが来ない、はさておき

中西学選手の引退セレモニーには坂口征二さんや長州力さん、馳浩先生、藤波辰爾選手など多くのレジェンドたちが駆けつけた。

大先輩を見て大きな大きな身体を小さくしてしまう中西学選手。そんな光景が微笑ましく感じる。

犬猿の仲とされるケンドー・カシン選手は会場にも姿を見せず、ビデオメッセージもし。それはそういうことなのだろう。

では、なぜ獣神サンダー・ライガーさんやタイガー服部さんへビデオメッセージを残していた現役“YouTuber”アントニオ猪木さんからのコメントがなかったのか。

このコラムを書きながらその理由を考えていていたのだが、伝説とも言える猪木問答に集約されていった。

猪木「オメエも怒ってるか!?」中西「怒ってますよ!!」猪木「誰にだ!?」中西「全日に行った武藤です!!」猪木「そうか・・お前はそれでいいや」

中西学選手の引退に対しても「そうか・・お前はそれでいいや」と思ったのではないか。愛がないわけじゃない。自分が自ら言うべきことはない、中西学選手にはもっと別の人からの言葉が一番相応しい。そうやって身を引いたのではないだろうか。

 

第3世代の3人これから

第3世代の絆にフォーカスされた後楽園4連戦だったが、改めてこの“4人”の凄さを全身で知る機会になったように思う。

例えば、小島聡選手はEVIL選手から直接3カウントを奪ったし、永田裕志選手は打撃、テクニックで相手レスラーを圧倒し、天山広吉選手は一つ技を出すだけで会場を大きく沸かせた。

中西学選手の引退が改めて4人に目を向けるキッカケにもつながっていたように思うのだ。

今回、中西学選手が『Polaris(北極星)』となり、第3世代の3人の道標となった。

「俺はもう無理やけど、あなたたちはまだまだ、もっともっとできます!だから、彼らをもっと見てやって下さい!」

そんな裏テーマを持ちながら中西学選手はリングに上がっていたようにも思うのだ。

3人で「NEVER無差別6人タッグ」へ名乗りを上げて欲しいし(EVIL選手を破っているので挑戦権利はあるはずだ)、“テンコジ”として“ゴールデン☆エース”に挑戦するのも見たい。

また、永田裕志選手が新日本プロレスの壁として「NEVER二冠王」鷹木信悟選手へお灸を据える展開も楽しみだ。まだまだ3人の現役生活は続く。もっと、もっと天山広吉選手、小島聡選手、永田裕志選手の試合が見たくなった。これも中西学選手が作り出した星座のお陰だろう。

死ぬまでプロレスラー

10カウントゴングを聞いた後、現役生活引退後は、実家のお茶を手伝いつつプロレス関係の仕事を続けていくことをバックステージで語った中西学さん。仲間たちから『中西ランド』の復活を強く望まれるなど、これからも“野人”の姿を見る機会がありそうで、安心した。

「現役は終わりなんですけど、1度プロレスラーをしたからには、死ぬまでプロレスラーやと思ってますんで」。

プロレスラーという職業はいつしか、“生き方”になった。生涯プロレスラー・中西学さんをこれからも応援していきたいと思う。

最後に。

中西学選手!現役生活お疲れさまでした!これからも応援しています。『中西ランド』の復活楽しみにまっています!

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