偉業を成し遂げたEVILに襲い掛かっているもの

偉業を成し遂げたEVILに襲い掛かっているものについて書きたい。

21年ぶりの神宮野球場大会まで約2週間。主要な対戦カードも「KOPW2020」以外は出揃い、ここからは前哨戦で盛り上がりを作るフェーズに突入した。

これは僕の解釈だが、本来最も議論を呼び熱を帯びるはずである“二冠戦”の注目度が低い気がしている。

2020年の頭にあったKENTA選手による“令和のテロリスト襲撃事件”時にはいい意味で悪い意味でもKENTA選手が話題を独占した。

本来であればネチネチと口撃が得意な内藤哲也選手をTwitter上で完封勝利。

またバックステージでも一歩踏み出す勇気についてグウの音が出ないほどの正論をぶつけられるなど、チャレンジャー側が徹底的に仕掛けた前哨戦だった。

現在の王者は“キング・オブ・ダークネス”EVIL選手。“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”を離反してまで手に入れた栄光と栄冠は、彼の長所と短所を浮き彫りにしてしまう。

リングとリング外。

今思えば「二冠王」に輝いた翌日に開催された一夜明け会見時からその課題は浮き彫りになってきていた。辛辣な言い方をするとEVIL選手は既に“待ち”の姿勢になってしまっているのだ。

何がなんでも勝った先にあったのは虚空。今、EVIL選手が戦っているのは内藤哲也選手、“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”ではなく、己自身なのかもしれない。

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完璧過ぎるリング上の立ち居振る舞い

何がなんでも勝つを心情に「ニュージャパンカップ2020」を制覇。“バレットクラブ”へ電撃加入すると「IWGPヘビー級&インターコンチネンタル」のWチャンピオンに輝いたEVIL選手。

改めて彼について考える必要が出てきた。

まずEVIL選手は“バレットクラブ”に移籍した後でもフィニッシャーを含めて技が変わっていない。新技も出ていないのである。

金的攻撃の頻度やディック東郷選手による介入などを除けばEVIL選手のファイトスタイルはさほど変化していなかったりする。凱旋帰国当初と見比べてみると、特に今と近いのである。

今のEVIL選手は“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”がベビーフェイス化しなかった時のifの姿。そう捉えると、合点がいく。彼が変わったのではなく、変わったのは内藤哲也選手。

「あいつら全員クソヤローだ」

この言葉の裏を読めと言われればできなくも無いのだが、ハイコンテキストよりも現代プロレスはわかり易さも重要なのである。

 

王者としての経験の薄さが表面化した

EVIL選手は今回の二冠王に輝くまで明らかに王者としての経験が乏しかったりする。新日本プロレスでシングルのベルトを巻いたのは凱旋帰国当初の一度きり。それも一度も防衛できていない。

また、共にシングルプレイヤーであることを前提に組まれたSANADA選手とのタッグチームに関しても『ワールドタッグリーグ』連覇という実績はあるが、ベルトの防衛記録は2回までと長期政権の王者として君臨した経験がないのだ。

NEVER無差別6人タッグに関しては“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”から離反したことからアッサリと手放してしまったことからも、王者としての意識は薄かったように思う。

EVIL選手には今、大きすぎるギャップがある。圧倒的すぎるほどにリング上で放っているオーラと力強さと圧倒的なまでの説得力。これに対して、あまりにも言葉で語れていないのだ。

公の場で“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”を離れた理由を話していない(週間プロレスのロングインタビューで語っていたとしても、それはノーカウントだ。そういった重要なテーマは自身のSNSを使ってでも発信しなければならない)ことがまず大きいと思う。

イマイチ裏切った理由が曖昧なままだから、彼の心に完璧により添えなくなってきた。

そうだ。今のEVIL選手は強い。ただ、プロレスにおいて大切な相手との関係性を表現できていないのである。

内藤哲也選手に関してもそう。2017年の言葉が完全にブーメランとなっているため、ちょっと乗っかりにくい。以前、棚橋弘至選手のリマッチについてあれだけボロクソに言ったにも関わらず、今回の件がアッサリと通ってしまったことが問題だったりするのだ。

 

メインイベントのテーマについて

プロレスは長く楽しむものであり、その年月がノスタルジーを生むことでさらにリング上が面白く見えるのは間違いない。ただ、悪い意味で作用するケースもあるのだと学習している。

本来、内藤哲也選手側について共感し、盛り上がらなければいけないのだがイマイチ乗り切れないのは、過去の内藤哲也選手の言葉を知りすぎているためだ。これはよくない。もう一度フラットな気持ちになって内藤哲也選手の言葉を研究しなければならないと学んだ。

一方で、メインイベント以外の試合が徐々にその熱を帯び始めている。強火で熱した結果、あっという間に煮えてきたのが鷹木信悟選手と鈴木みのる選手の「NEVER無差別級」だろう。

また、「KOPW2020」や「IWGPタッグ」、「IWGPジュニアヘビー」も徐々に沸騰へと近づいてきている。

高橋ヒロム選手は肩の負傷中にも石森太二選手へYouTubeを通じたコメントを出し、いきなりフルスロットルで盛り上がりを作っている。

また、石森太二選手は試合で魅せるタイプではあるが、不器用ながらもメッセージは常に発信し続けるタイプだ(ヒールっぽくないが、石森太二というレスラーの個性が十分に発揮されているため、最高だと思う)。

21年ぶり。神宮野球場でのメインイベントだ。ヒューマニズムの詰まった“邪道”によるデスマッチがあの日のメインイベントであるならば、今年のメインイベントのテーマはどんなものが相応しいのだろう。

現在、33歳。ロス・インゴを立ち上げた内藤哲也と同じ年齢である

僕はEVIL選手が敢えて弱さを吐露することが、「二冠戦」にとって大きなカギになると思っている。

EVIL選手にずっとボールがあるのに、「返り討ちにしてやる!」だけでは応援もブーイングもできないのだ。※そういった発言ができない理由も分かるので後述する

“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”を裏切った理由を語らないのも一つの道だし、強さではある。

ただ、ここで何かしら動かなければならない。そうでなければ、内藤哲也選手に勝っても負けてもEVIL選手が通るのは茨の道になってしまう。

勝った場合、チャレンジャー頼りの状況が続いてしまうし、敗れた場合、全てを失ってしまう。今、EVIL選手が綱渡りでも成功しているのはリングで結果を残しているためだ。

その結果(ベルト)が失われるとまた、ただの何がなんでも勝つマンになってしまう。それじゃあまりにも勿体ないと僕は思うのだ。

現在、EVIL選手は33歳。内藤哲也選手が自分を最初のパレハとして認め、スカウトした時の年齢になった。

ヤングライオンだった男はたった5年で新日本プロレスのレスラーが何度夢見ても届かないベルトを巻いているのである。

現在、新日本プロレス公式サイトに掲載されているレスラーの数は77人(縁起がよかった)。その中で「IWGPヘビー級」を戴冠しているのは10人。現役レスラーでカウントすれば9人。さらに2012年の“レインメーカーショック”以降に厳選するのであれば、オカダ・カズチカ選手、内藤哲也選手、ジェイ・ホワイト選手、EVIL選手に限定される。

決して全員の手が届くベルトじゃない。加えて「IWGPインターコンチネンタル」まで持っているダブルチャンピオンなのだ。

彼の仕事は一つ。何がなんでもこの前哨戦を爆発的に盛り上げて、神宮野球場で深淵の闇に包まれたメインイベントを生み出すことなのである。

 

“The Spoiler”が招集された意味

そのために必要なのは、内藤哲也選手に対する本当の感情を爆発させること。あるいは以前のオカダ・カズチカ選手のようにディッグ東郷選手をフル活用することなのである。

“The Spoiler”とは台無しにする人、甘やかす人という意味がある。EVIL選手が現状の空気をどう一変するのか。全ての鍵は彼に掛かっているのだ。

例えば、EVIL選手がこう語ったとする。

「あの日の内藤哲也と同じ年齢になったのに、俺は何をしているのかと本気で考えた。そして、動くしか無いと決めた。俺は、二冠王としてではなく、1人目のパレハとして試合に臨む」

共感を生むと思うが、今のブランドが崩れてしまう。そうであれば、口は開かない方がいい。そういった見方もできるのだ。

僕はここから改めてディッグ東郷選手に注目したいと思う。そして、もしもEVIL選手が本当の意味で口を開いた時はその理由を全力で追いたいと思う次第だ。

最後に。EVIL選手があんなものはいらないと捨てた『NEVER無差別6人タッグ』のベルトはYOSHI-HASHI選手へと流れ着き、爆発的に価値を上げた。本当に物事が変わるのは一瞬だった。次のタイトルマッチが気になって仕方がない。まさかここまで景色が変わるとは思いもよらなかった。

チャンピオン次第でベルトの色は大きく変わる。僕はEVIL選手だけが持つ魅力で、『IWGPヘビー級ベルト』がさらに輝くことを願っている。

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