後藤洋央紀が棚橋弘至に『G1』初勝利を飾れたワケ
後藤洋央紀が棚橋弘至に『G1クライマックス』初勝利できたワケについて考えてみたい。
以前、棚橋弘至選手が新日本プロレスが再び息を吹き返すことになったキッカケの試合について語っていたことがある。
2007年11月11日 両国国技館 第9試合 IWGPヘビー級選手権試合 棚橋弘至 VS 後藤洋央紀
今か約13年前の試合。オカダ・カズチカ選手がレインメーカーとして登場する5年も前の話である。
この試合の歓声が今でも忘れられないと棚橋弘至選手は考え深い表情を浮かべていた。
メキシコ遠征後、身体をデカくし髪を伸ばした後藤洋央紀選手は“ストロングスタイルの化身”と呼ばれていた。
茶髪でロン毛のチャ男チャンピオンにアレルギーを持っていた当時の新日本プロレスファンは後藤洋央紀選手を支持。
中邑真輔選手と同世代から出てきた新しいスターに新日本プロレスの未来を見ていた。
未だ届かぬ「IWGPヘビー級ベルト」。この日の後藤洋央紀選手からは諦めない素晴らしさを学ぶことができた。
.@510njpw "Avalanche USHIGOROSHI"
— njpwworld (@njpwworld) 2020年10月11日
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勝負を分けた一撃
棚橋弘至選手と後藤洋央紀選手の試合は棚橋弘至選手が足攻めを繰り返す形で進んでいった。
ドラゴンスクリューからロープ越しのドラゴンスクリューへ。更にはストンピングを連発。
右腕、右肩にダメージのある後藤洋央紀選手に対して、敢えて弱点ではない箇所を攻める。
一見するとセオリーから外れた戦法ではあるものの、その攻め方にも意図があることに気付く。
後藤洋央紀選手はまだEVlL選手との試合を残していた。ここで右腕を攻め続け勝ったとしても、後藤洋央紀選手がEVlL選手に勝たなければ、自分の優勝決定戦進出の可能性が危ぶまれる。
「ちょっくら優勝してきます」
先々まで見据えた試合運び。足を攻めることにより、牛殺しやGTWも出しにくくなる。
これが新日本プロレスのエースたる所以である。
ただし、試合中盤で予想外の変化があった。
後藤洋央紀選手が吹っ切れたかのように、棚橋弘至選手へと気持ちの入ったエルボーを繰り出したのだ。
「G1クライマックス」で後藤洋央紀選手は棚橋弘至選手に勝ったことがない。
現在のコンディションを見ると棚橋弘至選手が有利なのは明らかだ。
後藤洋央紀選手の粘り。崖っぷちに立った荒武者だからこそ見せることができる強さが、この一勝を掴み取ったのだ。
2007年11月11日のバックステージで後藤洋央紀選手はこう語っている。
後藤「やっぱりチャンピオンというのは簡単になれるものじゃないなと思いました。時代は棚橋弘至を選んだという事でしょう。でも、俺の闘いというのはここで終わったわけじゃないから。また1から出直す覚悟ですよ。俺の夢はまだ叶えてないから。(『ここで勝ったという場面が何度もあったと思いますが、それを返された時の心境は?』)まさかというかね。でも、あれがチャンピオンなんでしょう。あの粘りというか。勝ったと思った場面は、何回もありましたけど、そこからの粘り、あれはチャンピオンの強さ。今回負けた事によって、認めざるを得ないですね。ただ、まだ俺の闘いは終わらないから。まだまだ噛み付いていくし。諦めない。俺は絶対に諦めませんから」
粘りと諦めない心。13年越しに魅せた棚橋超えの瞬間だった。
言葉よりも大切なもの
おそらく右腕、右肩の負傷により着地でダメージを負う可能性のある村正や相手を持ち上げる必要のある昇天・改は使用不可。
限られた技をここぞというタイミングで繰り出す。まさに居合抜きのような試合が後藤洋央紀選手には求められている。
そこで飛び出したのが雪崩式牛殺しだ。
自分にもダメージがあることなど十も承知。それでも繰り出したのだ。
そこには一つの悟りがあったのではないか。この日のバックステージで後藤洋央紀選手は大切なことを語っていた。
後藤「(※足を引きずりながら引き揚げてくる)今まで散々、『奇跡を信じる』って言ってきたけどさ、今日のこの勝利は、奇跡でもなんでもない。実力だ。今日も俺は、生き残った。こうなりゃあと2戦、最高のフィナーレを見せてやるよ」
――土壇場、崖っぷちで踏みとどまって、栄冠を手にするというのは(後藤選手の)真骨頂なんじゃないですか?
後藤「まあ、真骨頂っていうか、今まで散々ね、崖っぷちを生き残ってきてるんだよ。生きてさえいれば、何とでもなる。何とでもなるってことを、今回証明してやるよ。勝とうが負けようが、俺の生きざまを、俺のすべてを、リングで見せればいいんですよ」
生きざまを、俺のすべてを
後藤洋央紀選手は生きてさえいれば何とでもなると語った。2020年。悲しい別れが多すぎる。
成功したり、失敗したり、虚しさに包まれたり。色んなことが起きる中で、2020年は喜びの瞬間が乏しい気がしている。
美味しいものを食べたり、旅行をしたり。新しい人と出会ったり。そういったことに対して、腰が引けてしまうと、本当に心に穴が空いたような感覚になるのだと思い知った。
後藤洋央紀選手は勝とうが負けようがどちらでもいい。前に進む生きざまをリングの上で表現した。
棚橋弘至選手の喉元へ連続でエルボーを見舞った時の表情。あれこそが、この日の試合で最も印象に残った画だった。
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