プロレスにおける“ダークヒーロー”という立ち位置について

プロレスにおける“ダークヒーロー”という立ち位置について書いてみたい。

ベビーフェイスとヒールという役割が主だったプロレスというジャンルな新しい役割が生まれてきた。

以前、僕はなぜ、ベビーフェイスとヒールの役割が曖昧になったのか?というコラムを書いたが、今回はそのスピンオフだと思っていただきたい。

今回のテーマはダークヒーローだ。まずはその特徴について。

  • ベビーフェイス以上にファンから支持されている
  • 見た目はヒールだが、さほど反則行為を行わない(全く行わない場合もある)
  • 明確な主義と主張がある

今回、僕はダークヒーローについて一つの仮説を立ててみた。

何かを理由に闇堕ちしたベビーフェイスによるクラスチェンジ。あるいは光に目覚めたヒール。それがダークヒーローなのではないだろうか、と。ただし、ダークヒーローにはある特徴もあると言える。

期間限定。ずっとダークヒーローでい続けることはできない(※完全に独自のポジションを築いたレスラーを除く)。

いつか時が来たタイミングで、ベビーフェイスかヒールか選ばなくてはならないと言える。

ビジュアルはヒールのベビーフェイスになるか。ヒールの道を貫くか。あるいは完全にベビーフェイスになるか...。

近年のダークヒーローを2人をピックアップしつつ、その軌跡を追ってみたい。

 

 

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ダークヒーローの特徴

ダークヒーローはその特性からそのままの姿でヒーローにはなれない。チャンピオンになってしまうと魅力が薄れるという特徴がある。

いや、正確にはダークヒーローはサクセスストーリーを魅せる立場にあるため、ファンにゴールを感じさせてはならないのだ。

常に新しい主義、主張を貫き通す。その全てが刺激的であり続けなければならない。

世界や景色を変えること以上に「変えようとしていること」にファンは酔いしれるのだ。分かりやすい例で言えば、“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”の内藤哲也選手だろう。

彼は2016年に念願の『IWGPヘビー級ベルト』を手にした時にリングの上で放り投げた。

大のプロレスファンである内藤哲也選手は分かっていた。あの時、ベルトを腰に巻いてしまうとダークヒーローとしての躍進が終わってしまうことを。

彼はベルトを投げたのではなく、投げなくてはいけなかったのだ。

あの時、バックステージではこう語っている。

内藤「言ったでしょ?今、新日本プロレスで1番オイシイのは、インターコンチでも、NEVERに絡むことでもない。そして、IWGPに絡むことでもない。1番オイシイのは、俺と絡むことだ。いつの間にかさ、俺はIWGPを目指してたんだけど、逆にIWGPから俺を追いかけてくるようになった。そんな状況に、いつの間にかなっちまった。(※スタッフがコメントブースにベルトを置く)ほら、リングに捨ててきたのに、IWGPのベルトから、俺に歩み寄ってきた。今、新日本プロレスで1番オイシイのは、どのベルトよりもロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン、内藤だよ。

出典:新日本プロレス

 

自分自身がダークヒーローの完成形であることを自覚している内藤哲也選手は、ベルトよりも自分と絡むことがオイシイと語っている。

ただし、この主張について僕は半分正しく、半分間違っていたと解釈している。

ダークヒーローの弱点

メインイベントに立てるという意味ではオイシイ。ただし、全て内藤哲也選手に持っていかれるという意味では美味しくないのである。

ダークヒーローもう一つの特徴は相手を格上げすることができない点にある。期間限定で終わってしまうもう一つの理由がここにあると僕は思っている。

ダークヒーロー時の内藤哲也選手と対決した新日本プロレスのエース・棚橋弘至選手や後藤洋央紀選手、石井智宏選手、オカダ・カズチカ選手、ジュース・ロビンソン選手は試合を通じて格が上がらなかった。

むしろ俺たちの内藤哲也の敵ということでブーイングまで浴びることになってしまう。

今では想像もできないが、2017年上半期の棚橋弘至選手にはずっとヤジが飛んでいた。これは東京ドームで内藤哲也選手の持つ「IWGPインターコンチネンタル」に挑戦したことから起因している(挑戦方法や負けた後のエピソードなど)。

内藤哲也選手は「一歩踏み出す勇気」という言葉と共に、ダークヒーロー期間を終えて、ベビーフェイスになった。あそこまでが、ダークヒーロー(としての)内藤哲也選手の物語だったのだ。

ダークヒーローが歩むサクセスストーリーは美しい。そして、新しいカリスマが生まれている過程は見るものの心を奪う。対角線の相手が霞んでしまう。それほど輝いて見えるのがダークヒーローの特徴なのである。

では、もう1人のダークヒーローの話に入っていこう。プロレスリング・ノアの中嶋勝彦選手である。

まずはこの2つの動画の再生数から(2020年10月13日7時21分時点)。

youtu.be

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中嶋勝彦選手が2倍以上の再生数を誇っている。完全に団体としてプッシュしているのは清宮海斗選手だが、これだけ再生数で開いてしまう。それだけの魅力がダークヒーロー・中嶋勝彦選手にはあるのだ。

 

ノアにおける中嶋勝彦

プロレスリング・ノアの中嶋勝彦選手は明確にヒールではなく“ダークヒーロー”という紹介を受けていた。

凶器を持たず狂気だけを纏う。

圧倒的な破壊力を持つミドルキックを連発。ワイルドな攻撃。凶器攻撃は一切なし。蹴りだけで試合を作ることができる。

実際に「N-1 VICTORY 2020」の優勝決定戦を見た僕の率直な感想は、中嶋勝彦選手の圧勝に終わったという感じだった。試合内容で完璧に抑え込んでいた。

正直にいうと、清宮海斗選手は印象が薄い。それほどまでに中嶋勝彦選手のインパクトが強すぎた。

AXIZの相棒だった潮崎豪選手を裏切っての「金剛」加入。多くの人々からなぜ、自分でユニットを作らなかったのかという指摘もある。

ダークヒーローとして彼がまだまだ活躍すると感じるのは、伏線を残しているからだ。

潮崎豪選手との直接対決だけではなく、新ユニットとしての独立する可能生が十分にある。

前述した通り、ファンから指示を得ることができる主義・主張がある限りダークヒーローの物語は続いていく。

プロレスリング・ノアが今、面白いと感じるのは1人のダークヒーローが誕生し、サクセスストーリーを歩んでいる様をリアルタイムで楽しめることが大きいのだ。

 

煽りVTR

最後に。

先日、プロレスリング・ノアの「N-1 VICTORY 2020」優勝決定戦当日にこのVTRが投稿された。

どっからどう見ても2010年代の新日本プロレスを彷彿とさせる雰囲気に脱帽だった。どうやらこのクリエイティブに僕は弱いらしい。

ダークヒーローは簡単に生まれない。ファンが深層心理的に思っていることを鋭く突く感性。そして、リングで魅せる試合内容。この2つが重なった時、はじめてダークヒーローになることができるのだ。

ベビーフェイスとヒールの垣根を超えた存在。そうそう見られるものではないだけに、これからも中嶋勝彦選手をチェックしていきたいと思う。

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