なぜ、グレート-O-カーンは矢野通に敗れたのか?

なぜ、グレート-O-カーンは矢野通に敗れたのか?

とんでもない試合を見てしまった。そして、新しい名勝負数歌が生まれた気がした。

2021年3月11日、新日本プロレスは愛媛権大会を開催した。

メインイベントは“キング・オブ・ダークネス”EVIL選手とジェフ・コブ選手の初対決。

セミファイナルが矢野通選手VSグレート-O-カーン選手。こちらも初対決となる。

もしも、グレート-O-カーン選手の正体があの岡倫之選手だったのだとするのであれば、日大レスリング部のOB対決であり、現在の新日本プロレスにおいてアマチュアレスリングの実績で抜きん出ている2人の対決となる。

運命のゴングが鳴るや否や矢野通選手は「怖い!怖い!怖い!」とグレート-O-カーン選手から距離を取る。

リング中央で両手を後ろに組んだ姿勢のまま「何が怖いんだ!?おい」と一喝。「お前がこ怖いんだよ!」と返されると「施しをくれてやる」と支配者たる器のデカさを見せつけた。

だが、この時に高橋裕二郎選手が発した一言がこの試合の結果を暗示していたようにも思う。

「道場生の頃はさ。矢野が一番怖かったよ」

新日本プロレスへと進軍を続ける“ドミネーター”。その対角線に立っていたのは、新日本プロレスで最も恐ろしい男だったのだ。

日大2人(上記した通り正体が岡倫之選手であれば)の試合を見つめる日本体育大学出身の高橋裕二郎選手。

なんとも凄まじい世界観が出来上がりつつあった。

 

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規格外とはまさに彼のためにある言葉

グレート-O-カーン選手が矢野通選手に敗れた明確な理由は“支配者”であったことが遠因にあると僕は思っている。

「それ(テーピング)で余の手を結べ!」

会場や新日本プロレスワールドでこの試合を見ていたファン全員が「!?」となったのがこのシーンである。

鈴木みのる選手やケニー・オメガ選手、ジョン・モクスリー選手、SANADAなど何人ものレスラーが矢野通選手のテーピングの餌食になってきた。

矢野マジックの術中にハマらなければ...と何人ものレスラーが辛酸を舐めされられてきたテーピングに対して、自ら飛び込んだのだ。

ただ、両手が縛られた(自ら縛った)相手を目の前にして「まだ怖い!」と叫ぶ矢野通選手。

“フット・イン・ザ・ドア”という行動心理学の言葉がある。本題に入る前にクッションを置くことで、相手に要求を承諾してもらえる確率を高めるというものだ。

矢野通選手は更に勝利の確度を上げるために、もう一つ何か施しが欲しいと叫んだ。

王の器を持つグレート-O-カーン選手だけにそう言われると、答えない訳にはいかない。

「よかろう!コーナーパッドを外せ!」

「ヤッター!OK!」

外したコーナーパッドを抱える矢野通選手。ただ、手を縛られて尚「覇気」を放つグレート-O-カーン選手の威圧感が半端じゃない。

「怖い!」と叫んだ矢野通選手に対して「余を打て!」と叫び返す。

コーナーパッドで襲いかかる矢野通選手を颯爽とかわし、テーピングを自力で引きちぎる。

過去、矢野通選手のテーピングをこんなにもアッサリと外したレスラーは存在しない。 

矢野通選手が領域展開(矢野通ワールド)するのであれば、それ以前に自らの(跡部)キングダムを創り上げる。

これが今回の一戦でグレート-O-カーン選手が狙っていた展開だったように思う。

リング中央で横になったシーンでは、すぐさま膝十字で捕獲。内藤哲也選手を破った技でもあったため、ここで試合を決めたいと考えていたのではないだろうか。

ただ、明らかに矢野通選手のペースになりつつあった。

リング中央で椅子に腰掛けたグレート-O-カーン選手に対して、花道にパイプ椅子を設置し、場外カウントの桜吹雪を浴びながらドヤ顔で腰を下ろす矢野通選手。

どう考えても矢野通選手が不利な状況にも関わらず、「おい!貴様!真似をするな!」と叫んでしまった。さらには、しびれを切らして「KOPW」のトロフィー(ベイビーちゃん)を捕虜に。

ただ、ここで王の器が出てしまった。「KOPW」のトロフィーをレッドシューズ海野レフリーに手渡したのだ。捕虜を開放してしまったことで矢野通選手はここから自由に暴れまわることが可能になってしまったのだ。

この時点で5分。一体、誰がこんな試合になると予想していただろうか。

 

弁髪を自ら断髪

今では肩書き王とも言うべき“敏腕プロデューサー”矢野通選手だが、かつては新日本プロレスの切り裂きジャックとして暗躍していた時期がある。

高橋ヒロム選手の髪を切り(バリカンも使っていた)、棚橋弘至選手自慢のヘアスタイルにも穴を開けた(ハサミで普通にトップを切った)。

矢野通選手にハサミを持たせるな。これは新日本プロレスのレスラーにとって暗黙のルールだったに違いない。

試合終盤、グレート-O-カーン選手は自慢の弁髪を鉄柵にぐるぐる巻きにされ固定されてしまった。

進む場外カウント。髪を解くことが無理だと判断し、やるしかないとハサミを手に取る。

2021年の東京ドーム大会のメインイベントで最後に登場した内藤哲也選手に勝ってこの舞台にいるのだ。

背に腹は変えられない。いや、髪に勝利は変えられないと自慢の髪に自らハサミを入れた。

カウント14。自分の行動に改めてショックを受けつつも、リングに戻ると。その右手にはハサミが握られたままだった。

これまで、多くのレスラーが矢野通選手に髪を切られてきた。ただ、グレート-O-カーン選手は自らハサミを入れて、最後まで勝利を狙っていた。まさに規格外な試合である。

 

決まり手はNU

この試合、実は要所要所でアマチュアレスリングの技が飛び出していた。

飛行機投げからのフロントスープレックス。以前、SHO選手はポッドキャストで「完璧すぎるお手本」だと語っていたことがある。

技という技を殆ど出さない矢野通選手だが、ひとたび引き出しを開けると、とんでもないモノしか出てこない辺りが凄まじい。

最後は日大タックル(背後から)からのNU(Nihon University)でフィニッシュ。

グレート-O-カーン選手のアオハルが終わった。

矢野通選手に敗れたことは決して恥じることではない。コミカルに見せつつ、詰将棋のようなスタンスで13手先(試合時間13分2秒)まで読んでいた矢野通選手が凄すぎただけ。

敢えて言えば、王の器にあったスキ(慢心王とまではいかないが)を突かれたことだろう。

「G1クライマックス」や「ニュージャパンカップ」で矢野通選手を倒す秘訣は、短期決戦で一気に畳み掛けることが有効だ(逆に瞬殺されるリスクもあるので考えものなのだが)。

撃っていいのは撃たれる覚悟があるやつだけ。矢野通選手の土俵だけではなく、自らのキングダムに引きずり込もうと堂々と戦いきったグレート-O-カーン選手に敬意を表しつつ、今回の筆を置きたい。

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