アーロン・ヘナーレ2年前の地獄は内藤哲也との日曜日か?
アーロン・ヘナーレ2年前の地獄は内藤哲也との日曜日か?
“ユナイテッドエンパイア”第4の男は本名であるアーロン・ヘナーレへとリングネームを変えたトーア・ヘナーレ選手だった。
両国国技館大会の第3試合。枡席から試合を見ていた僕の目に飛び込んで来たのは、マフィアのような男だった。
「マジで誰だ!?」
佇まいには雰囲気があり、鍛え上げられた肉体は厚みがヤバい。
グラサンに髭。ロングガウン。完全にヤバい“ガイジン”を招集したとマジで思った。
尾崎リングアナウンサーが「アルティメット・ウェポン!アーロン・ヘナーレ!!!」とコールした瞬間に2度驚いた。
一つ目はトーア・ヘナーレ選手だということに気付かなかったこと。次にリングネームを変えてきたこと。
今でもジェフ・コブ選手が新日本本隊から離脱し、“ガチムチのウォーズマン”となった理由は分からない。
ただ、アーロン・ヘナーレ選手が本隊を抜けた理由は何となく伝わってきた。
そして、バックステージコメントを見る限り、彼は悪に染まった訳ではない。本当の自分を曝け出しただけなのだ。
4月4日(日)新日本プロレス『 SAKURA GENESIS 2021』両国国技館大会
— njpwworld (@njpwworld) 2021年4月5日
第3試合で、UNITED EMPIREの新たな同盟者“X”が初登場!
その正体は…
“アルティメット・ウェポン”
アーロン・ヘナーレ!@HenareNZ @RealJeffCobb @Great_O_Khan
#njSG #njpwworld pic.twitter.com/Bd21HsgUZM
本当の自分を曝け出す
2016年に新日本プロレスで再デビューを飾ったアーロン・ヘナーレ選手。
ジュース・ロビンソン選手やデビッド・フィンレー選手と共に本隊の“ガイジン”レスラーとしてキャリアを重ねてきた。
真壁刀義選手と「ワールドタッグリーグ」にエントリーしたり棚橋弘至選手のタッグパートナーもして“ヘナーレース”を結成したりと、先輩レスラーとの関係自体は良好だったように思う。
ただ、結果が出なかった。
「ワールドタッグリーグ」にエントリーしても勝てず、「ニュージャパンカップ」も一回戦負け。
勿論、「G1クライマックス」エントリーも見えてこなかった。
※棚橋弘至選手との“ヘナーレース”は勝率がかなり悪く、「棚橋さんはシングルの調子がいい時ほど、タッグで勝てない」と言われるほど。
ジェイ・ホワイト選手に負け、試合で組んでいたジュース・ロビンソン選手から無視された2021年の春。
とうとうアーロン・ヘナーレ選手は決意した。
自分を解き放つしかない。今の自分のままだと最悪クビになる。
だったら...自分のやりたいように生きるしかない、と。
ヘナーレ「5年間、ホンタイでやってきたが、きっとファンのお前たちには俺が日々どれだけの努力を重ねて来たのか想像もできないだろう。タナハシもマカベも誰も責めるつもりはないが……いや、もしかしたらあいつらの後ろに隠れていなければ……いいや、責めるべきは自分自身だ。ずっと自分で自分を抑えつけていた。本当の自分の姿を見せられずにいた。
(本隊として)求められるイメージに合わせないといけないとばかり思っていた。でもそれが間違っていたんだ。自分を偽ってまで他人が望む自分を演じる必要はない。今日拍手が聞こえたけど、2週間前の俺はファンから拍手なんてもらえなかった。それぐらいみんなに注目されてなかった。興味を持たれるのは(マオリ族の民族舞踊の)”ハカ”だけ。でもこれからはもう自分を偽らない。
俺の人生で戦いより大事なものはない。本当の俺はこんなもんじゃない。俺はもっと危険だ。(カメラに向かって)何だ、また俺のコメントをカットしようってか? やっと自分の進むべき道がわかった。その道は、血と金と栄光で覆われている。それがUNITED EMPIREだ!」
たった1日で化けた
アーロン・ヘナーレ選手は“ユナイテッドエンパイア”に加入した1試合目で“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”SANADA選手から3カウントを取った。
敢えて書くが新日本本隊の“トーア・ヘナーレ”でSANADA選手に勝つことは全く想像もつかなかった。
ワイルドな雰囲気。クリーンなファイト。ヤングライオンをそのまま発展させたようなスタイルは、アーロン・ヘナーレ選手のポテンシャルの高さを感じさせることはあっても、ジャイアントキリングが起きるイメージは正直言うとあまり湧かなかった。
“ファンジュース”の2人がタッグとしてさらにシングルとしても躍動する中で、“トーア・ヘナーレ”は置き去りにされた。
新日本プロレスの本隊として求められる熱くて、爽やかで明るいイメージを体現しようとしても、何か足りない。
ポテンシャルも伸び代もあるのに、何かが足りない。今だから言える。華が足りなかった。
“ファンジュース”は陽気で明るく、リング上で映える華を持っている。
ジェイ・ホワイト選手は悪に染まったことで、ナイーブな雰囲気の内側にあったプロレス脳が完全に爆発。新日本プロレスのトップ“ガイジン”レスラーとしての地位を揺るぎないものとした。
では、“トーア・ヘナーレ”は?
ヤングライオン以上、トップレスラー未満。本隊のままでイメージチェンジもしたが、それでも足りなかった。
周りからは見放され(追い詰められた人間の主観を体現していた)、ファンからの期待も薄い。
自分を大きく変えるしかなかった。激動のスタートアップに身を置くことで、己の中の何かを解放するのだ。
そうして姿を現したアーロン・ヘナーレ選手。リングネームは本名へ。
ロングタイツに黒のグローブ。伸ばしていた長髪も切り、試合中以外はサングラスを着用するようになった。
変わったのはビジュアルだけではない。打撃技が増え、ストライカーのようなスタイルにチェンジした。
入場曲、コスチューム、試合のスタイル。全てを変えて、アーロン・ヘナーレ選手は勝負に打って出た。
運命を変えろ
改めて、グレート-O-カーン選手が提示していたヒントについて答え合わせをしてみよう。
まずは「兵器」。これは2つ名が“アルティメットウェポン”だった点に由来している。
「復讐心は帝国同盟者随一」。これは、過去のコメントを見るに5年の努力を重ねてきたが...という見方もできるが、少し盛っている表現だとも言える(前述のバックステージコメントを見る限り)。
「同盟者の中で一番強くなる」。元々、ポテンシャルの高さは評価されていたため、可能性は十分にある。
問題は「おそらく2年前の地獄を見てきた者」だ。これが多くのミスリードを誘う言葉だったように思う。
過去のコラムも漁っていたが、正直分かりやすい地獄を連想させるエピソードは見当たらなかった。
※ヤングライオン・岡倫之選手との試合中にアキレス腱を負傷したのは2017年。“トーア・ヘナーレ”となったのが2018年。“ヘナーレース”は2019年だが、コメントから察するに地獄とは考えにくい。
ただ、唯一「これか?」と思わせるエピソードを挙げるのだとしたら、内藤哲也選手とのやり取りがあった。
2019年1月18日。「NJPW PRESENTS CMLL FANTASTICAMANIA 2019」でトーア・ヘナーレ選手は小島聡選手、風神・雷神と共に“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”とブラック・キャット メモリアルマッチで激突していた。
内藤「ヘナーレが、今シリーズ、目標立てて、目の色変えて頑張ってるのは分かるよ。それはちゃんと俺にも伝わってるよ。でも彼は、ヤングライオンなの? ヤングライオンから一歩抜け出したの? 俺の中では、彼はもうヤングライオンではなく、ヤングライオンからほんの一歩抜け出した選手なのかなってイメージなんだよね。頑張ればいいのは、ヤングライオンまでだよ。頑張るだけで応援されるのはヤングライオンだよ。彼はそこから一歩出たわけだからね。頑張ってるだけじゃ、何も変わらないよ。プラス・アルファがないと、その上には行けないんじゃないの? 月曜日の最終戦で、何か結果を出したところで、もう俺、次のシリーズのカードは決まってるからね。次のタイトルマッチの相手も決まってるから。ということは、彼に残されたチャンスは、日曜日しかないんじゃないの? 日曜日に何か結果を出さないと、『あの目標は一体何だったの?』ってなっちゃうからね。せっかく俺がかまってあげてるんだよ!? こんなチャンスないからね! 目の色変えて、日曜日、後楽園ホールに来いよ。かまってやるぜ、カブロン!」
そして、続く日曜日。
内藤哲也選手はヘナーレにとって、レスラー人生最大のビッグチャンスだったと指摘。ただ、残念ながらこのラストチャンスを生かせなかったと語った。
このシリーズの初戦で「インターコンチネンタル王者、ナイトーから勝利をもぎ取る」とトーア・ヘナーレ選手が宣言し、内藤哲也選手はその姿勢に興味を持っていた。
だが、届かなかった。この翌日、タイチ選手が乱入し内藤哲也選手を強襲。
トーア・ヘナーレ選手は大きなチャンスを逃していた。
これが2年前の地獄。ここから歯車が狂ったと考えればなんとなく腑に落ちる。
この先、“ユナイテッドエンパイア”は“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”との全面戦争に入る。
その中で、この時のエピソードが語られる日は来るのか。それとも単なるミスリード誘う言葉だったのか。
やっぱり僕の読み違いか。アーロン・ヘナーレ選手の活躍に期待しつつ、今日は筆を置きたい。
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