エル・デスペラードの「プロレス“だけ”で伝わる情報量」について考える

エル・デスペラードの「プロレス“だけ”で伝わる情報量」について考える

上から目線ではなく、完全に上。高橋ヒロム選手が台頭し、KUSHIDA選手が去った後、BUSHI選手はあまり主張をしないタイプのレスラーとなっていた。

“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”が3人だったあの頃。怪我から復帰するタイミングで新日本本隊を抜けたBUSHI選手は輝いていた。

ライバルの存在も大きかった。

同時期に新日本プロレスへと移籍してきたKUSHIDA選手はIWGPジュニア戦線で大活躍。タッグでもシングルでもベルトを戴冠し続け、新日本プロレスジュニアを象徴する存在へと飛躍した。

一方でBUSHI選手は本隊時代は無冠。大き過ぎるほど溝は覆面の下に大きな嫉妬を生んでいった。

内藤哲也選手からのスカウトではなく、BUSHI選手からの直談判で“ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン”入りが決定。

その後はジェラシーの対象であるKUSHIDA選手から“IWGPジュニアヘビー級ベルト”を奪い、初戴冠を実現した(一度も防衛できずKUSHIDA選手に奪還されてしまう)。

2016年に幸か不幸か彼の隣には新世代の新日本プロレスジュニアを象徴する存在が現れる。

KUSHIDA対BUSHIの構図からKUSHIDA対高橋ヒロムの構図へ。

2019年には新日本プロレスジュニアに現れた“新しい龍”のパートナーとして“IWGPジュニアタッグベルト”も初戴冠するも、どこか鷹木信悟選手のパートナーという印象となってしまっていた。

圧倒的なカリスマを持つ高橋ヒロム選手の台頭。

ライバルだと思っていたKUSHIDA選手の退団。

強すぎる主張をせずとも人気ユニットの一角を担っているのは事実。むしろ個性が強いメンバーたちのバランスを取る役割だってある。

水を運ぶ役割。円滑油。

そこに「それで満足してんのか?」と主張してきたのがエル・デスペラード選手だった。

 

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油断なし

2021年12月5日、「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア28」ツインメッセ静岡大会のメインイベントはエル・デスペラード選手VS BUSHI選手の一戦となった。

試合前、現王者はこのようにBUSHI選手のことを考えていた。

KUSHIDA選手が抜けた今でもギラギラとした牙を失ったわけではない。

兜の尾を締め、襟を正す。

チャンピオンとして「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア28」を盛り上げるための動きも欠かさない。

リング上でもリング外でも雄弁に独特のリズムで“言葉”を残す。

これがエル・デスペラード選手のスタイルだ。

 

横綱プロレス

実際に試合がスタートしてみると、終始エル・デスペラード選手のベースでことが進んだ印象を受けた。

BUSHI選手はベビーフェイス的な戦い方がハマると見越してなのか普段よりもヒール色の強いファイトを魅せる。

技と言葉で繰り返し、繰り返しBUSHI選手を挑発する。

受けるというよりもやられまくる。

感情のボルテージが高まるほどにBUSHI選手へ注目が集まっていく。

あの日の「調子こいてんじゃねーぞコラ!(KUSHIDA選手に毒霧を見舞ったあのシーン)」を思い出すよう。

徹底的に痛めつた結果、現れたBUSHI選手の本性はファンの心を刺激した。

漆黒のデスマスクは「嫉妬に狂うベビーフェイス」と化した時が一番輝く。

それを見越していたかのように横綱プロレスで彼の本性を引き出し、その上で勝利を掴んだ。

デスペラード「(※崩れ落ちるようにフロアに大の字になり)あぁ、何がチャンピオンだ、バカヤロー……。あぁ、クソーッ……。(※上半身を起こして)ちゃんと強ぇじゃん。ああ、クソーッ……」

デスペラード「まあまあまあまあ、でもな、それぞれの考えがある。しょうがねぇか……。まぁしゃべるヤツが一番面白ぇなんてことは微塵も思わねぇけどよ、どんなにすごい能力があったって、どんなに身体能力があったって、どれだけプロレスが面白くあったって、プロレス“だけ”で伝わる情報量ってそんなに多くないんじゃないか?」

デスペラード「もちろん、プロレスがすごくなければ、そのあとの言葉だって何の意味もなさないんだけどさ。そういう意味じゃBUSHI、(※立ち上がりながら)お前はもっとしゃべるべきだと思うぜ。痛ぇーーーーーーーー。まぁ、でも、た~のしぃ~……(※と言いながら、ふらふらした足取りで控室へ向かう)」

出典:新日本プロレス

 

プロレスと言葉と

プロレス“だけ”で伝わる情報量はそんなに多くないのではないか。

決して少ないと言いたいわけではないと思う。

何かとんでもない試合を見た時、自然と声が出て、涙だって出る。すごすぎて笑ってしまう時もある。

ただ、喋らなければメッセージを発さなければ伝わらないことは間違いなくある。

昭和、平成初期の時代は活字プロレスと呼ばれる文化があり、この試合にはどんな意図や意味、因縁があったのかを活字で伝えていた。

SNSがない時代。その内容が正しいかどうかはさておき、ストーリーを作っていたのはそうした紙媒体である。

SNSが発達し、紙のプロレス文化が以前ほどの勢いをなくすと各個人の発信力が試される時代となった。タイムリーに更新される公式サイトや動画もその拡散に貢献している。

そうした状況化で、語るレスラーと語らないレスラーで信じられないほどに情報力が違うのは明らかだ。

ジェイ・ホワイト選手やザック・セイバーJr.選手、エル・ファンタズモ選手、ロビー・イーグルス選手など“ガイジン”はメチャクチャ喋る。主張する。

KENTA選手も信じられないくらいにバックステージで喋り、SNSも巧みに使いこなす。

言葉が通じないハンデをひっくり返すには、翻訳されるタイミングで己の主張を発信し続ける。海を超えて戦うにはそれくらいのハングリーさが必要なのだ。

試合で魅せて、言葉で酔わす。試合が素晴らしくなければ言葉の持つ意味は弱くなり、試合が素晴らしいのであれば、言葉が少ないことが勿体なくなる。

せっかく試合が面白いのであれば、もっと喋った方がいいのではないか。エル・デスペラード選手はBUSHI選手へこうアドバイスした。

上から目線ではなく、チャンピオンから見た景色のアドバイスは非常に価値があるものだと思う。

★2021年12月8日 新着記事★

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