「勝つだけが全てじゃない。ただ、勝ってほしかった」ケニー・オメガ選手VS石井智宏選手のIWGPヘビー級選手権レポート
9月15日に開催された新日本プロレスの『DESTRUCTION in HIROSHIMA』。そのメインイベントはIWGPヘビー級選手権ケニー・オメガ選手VS石井智宏選手だった。
ゴングと同時の歓声は五分と五分。この試合の展開を暗示させるものだった。
序盤、お互い負けられない戦い
ケニー・オメガ選手のセコンドではなく、特別ゲストとして新日本プロレスワールドの実況席に現れた飯伏幸太選手は「(ケニー選手は)いつもよりも緊張している」と語った。
ケニー・オメガ選手とすれば、ここでベルトを落とすようなことがあれば東京ドームのメインイベントの座が遥かに遠のく。
確実に落とさない試合だけにその緊張感は、これまでの比ではないのだろう。
一方の石井智宏選手はノリに乗っている状態。序盤の攻防で手が痺れた印象もあったが、すぐに立て直し「来いよ!オラ!」と、ケニー・オメガ選手を挑発する。
魂が身体を突き動かす。プロレスラーは魂で動くものだと、雑用係からプロレスラー人生が始まった石井智宏選手が証明している。
派手な技、硬派な技
『ノータッチ・トペ・コン・ヒーロ』や『コタロークラッシャー』。派手な技を繰り出すケニー・オメガ選手に対し、石井智宏選手はエルボーや逆水平で対抗する。
天龍源一郎氏の薫陶を受けた石井智宏選手は相手の技をすかすことはない。全部受けきり、その上を行くスタイルを崩さない。その背景には、自身では語らないバックボーンがある。
真壁刀義選手はデビュー以降の待遇の悪さから、雑草と比喩されてきた。だが、石井智宏選手は新日本プロレスの雑草よりも遥かに劣悪な状態からのスタートだった。
派手さはない。ビジュアルも決して華があるタイプではない。だが、石井智宏選手は無骨に見えて器用なファイトスタイルとバチバチの好勝負でその地位をここまで高めた。
試合中盤、石井智宏選手は長州力のバックドロップを見せた。その直後に喉笛にチョップを見舞った。
天龍源一郎と長州力。己の歴史を全て出す。この試合に懸ける思いが痛いほどに伝わってくる。
ベストバウト・マシンと名勝負製造機
トップコーナーから石井智宏選手が、雪崩式のブランバスターを放つ直前。ケニー・オメガ選手の蹴りを受けながら、石井智宏選手の表情から僅かな笑みが溢れている印象を受けた。
最高の勝負ができている。
ケニー・オメガ選手なら全てを出し尽くすことができる。そんな満足感から来た笑みだったように思う。
だが、ここからケニー・オメガ選手のペース。石井智宏選手は『Vトリガー』を連続で見舞われ、掟破りの垂直落下式ブレンバスターを受けた。次々とケニー・オメガ選手の膝が襲いかかる。
だが、雪崩式『片翼の天使』を狙うケニーオメガ選手に対し、流れ式のフランケンシュタイナーで切り返す。
ここから石井智宏選手が掟破りの『Vトリガー』が炸裂。流れを作りたいところだか、ケニー・オメガ選手は流れを渡さない。
歓声は半々から石井コールへ
チャンピオンシップは途中から歓声が偏るケースが多い。だが、この試合は常に半々から歓声が動かない。
それほどまでにこの日のお客様はケニー・オメガ選手と石井智宏選手に酔っているのだ。
そして、ここから試合は『Vトリガー』と『ラリアット』へ。さらに秘密兵器である『ケニー・ドリラー』まで飛び出した。
次々と『膝』を受けてもカウント1で返す。垂直落下式タイガードライバーもカウント2で返す。
決着
石井智宏選手はどんな技も受けきった。
30分54秒。ケニー・オメガ選手の『片翼の天使』の前にとうとう石井智宏選手の肩は上がらなかった。
試合後、飯伏幸太選手は実況席を飛び出し、ケニー・オメガ選手の元に駆け寄った。
それほどに勝者であるケニー・オメガ選手も追い詰められていたのだ。
石井智宏選手にとった、2年4ヶ月ぶり、2度目のIWGPヘビー級ベルト挑戦。その結果は敗北という結果に終わった。
勝つことだけが全てではないのがプロレスだ。だが、石井智宏選手にはいつかIWGPヘビー級ベルトを戴冠して欲しい。そんな気持ちがより強くなった好勝負だった。
ベストバウト・マシンと名勝負製造機の名勝負数え歌はまだ始まったばかりだ。
試合前にこの記事を読んだために明らかに石井智宏選手に偏った内容になってしまった。ただ、それほどまでに金沢さんのブログには石井選手の魅力が詰まっていたと、最後にお伝えしたい。
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