なぜ、新日本プロレスの第1試合は魅力的なのか

なぜ、新日本プロレスの第1試合は魅力的なのか。この理由について考えてみたいと思う。

第1試合。つまりは前座試合。

興行の試合順は重要である。

棚橋弘至選手やオカダ・カズチカ選手、内藤哲也選手、ケニー・オメガ選手などのメインイベンターへと徐々に興行を盛り上げていく。

その興行の良し悪しを決めるのが第1試合と言っても過言ではないのである。

2019年のイッテンヨン『レッスルキングダム13』の第1試合は『NEVER無差別級選手権試合』飯伏幸太選手VSウィル・オスプレイ選手だった。

“びっくり人間コンテスト”という言葉がピッタリな2人が繰り広げた激闘。

飯伏幸太選手が担架で運ばれるという衝撃的な結末を迎えたが、それを除けばプロレスファンではない方が見たとしても度肝を抜かれる試合だったように思う。

ただし、新日本プロレスの第1試合かと言われれば、少々毛色が少し異なる。

あれは“NEW JAPAN”の第1試合だったのだ。本当の第1試合は第0試合にあった。

その答えを2017年2月17日に配信されていた『KUSHIDAのナイショ話』で真壁刀義選手が語っていた。

 

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ハートの戦い

新日本プロレスの第1試合について真壁刀義選手はこう語っている。

「技の綺麗さ、勝ち負けなんてどうでもいい、ハートを見せる場」と。

当然、リングに上がっているレスラーは目の前のライバルに勝ちたいと思っている。

だが、結果よりも大切なのが、勝ちたいという気持ちを燃やすこと。

更にその気持ちを観客に伝えることが新日本プロレスの第1試合に最も大切なことなのである。

ちなみに海外の試合では第1試合から完成度の高いレスリングを披露するという。

では、なぜ新日本プロレスは第1試合を特別視し、気持ちを伝えることにこだわっているのか。

ストロング・スタイル

新日本プロレスの創設者であるアントニオ猪木さんが提唱した「ストロング・スタイル」。

“強さ”と“怒り”のハイブリッドは道場で鍛えた身体だけでもなく、相手に負けないという気持ちだけでもない。

新日本プロレスのプロレスとは何かを突き詰めると、やはり本質にあるのはこの言葉であるように思う。

ヤングライオンたちは、この思想を徹底的に叩き込まれてきた。

プロレスラーとしての個性はそれぞれにある。ただ、現在のメインイベンターを含め人気を博している全選手たちは、ストロング・スタイル+αという境地に至っているのだ。

オカダ・カズチカ選手、棚橋弘至選手であれば「華」。内藤哲也選手であれば「言葉」。髙橋ヒロム選手、ジェイ・ホワイト選手であれば「狂気」。

矢野通選手、田口隆祐選手であれば「ギャップ」。

新日本プロレスの道場で培ったものから守破離を果たしたレスラーのみが大歓声を浴びることができるのである。

 

怒りを育てるのが難しい時代

戦後、高度経済成長期の日本には“強い日本”を作るという気概があったように思う。

では、現代の日本社会と比較してみるとどうだろう。平均寿命が延び、社会保障の充実性から食うに困るケースは少ない。

「勝ちたい」という先人たちの気持ちが生み出した現代日本は豊かで平和で住みやすい国となった。

これは非常に価値のあることである。ただ、新しい日本で生まれ育った彼らに当時と同じ“怒り”を表現することは可能なのだろうか。

歴史と伝統、そして道場

僕の見解からいくと可能だと思っている。例えば、海野翔太選手。彼のプロレスからは目の前の相手に絶対負けたくない気持ちとファイティングスピリッツが伝わってくる。

ただ、叫べばいいわけじゃない。パフォーマンスは分かりやすい手法だがそんな簡単なものではないのだ。

海野翔太選手が生み出す空気。目付きや一挙手一投足。その全てが新日本プロレスの根幹にあるものを体現しているように思う。

ここで野毛道場での練習が大切になってくるのだ。

先輩レスラーからの指導。同期や先輩、後輩とのスパーリング。共同生活によって生まれる絆とライバル心(ジェラシー)。

そういった生活の全てを通じて新日本プロレスのプロレスを学んでいるのではないだろうか。

チョップ、エルボー、ボディスラム、ドロップキック、逆エビ固め。

気持ちを伝える、表現することを主軸におくのであれば多彩な技など必要ないのである。

逆に言えば無いことで伝わるものがある。

そう、新日本プロレスの第1試合とは、ストロング・スタイルを味付けなしで丸かじりするようなものなのである。

だが、感情を剥き出しにするだけでは芸がない。

そこからプロレスラーとして一流の芸を身につけるためにヤングライオンは海外遠征へと旅立つのだ。

 

外からやってくるレスラーの意義

少し話を脱線しよう。

ライオンの血という言葉がある。ヤングライオン出身者たちのみに許された、誇り高き血統は、揺るぎない自信につながる。

そのため、「新日本プロレスの生え抜きではない」という否定的なコメントが飛び出すことも度々ある。

新日本プロレスはプロレス界の大手企業だ。ヤングライオンは新卒で入社したエリートになる。

外からやってきたKUSHIDA選手、SANADA選手、BUSHI選手などは中途社員にあたる。

改めて思ったがこの3人はローマ字であり漢字のフルネームがリングネームになっていない。

ひょっとするとここにも何かあるのではないか?と勘ぐってしまう。

他団体のリングには上がらない本間朋晃選手がいる時点でこの考察自体に意味がないので止めておこう。

中途社員のハングリー精神は新しい風を生む。

その新しい風と生え抜きが戦うことで新しいうねりが生まれるのだ。

獅子の血が流れていないことがアイデンティティになる。ダイバーシティな世界だからこそ、最高の試合が生まれるのだ。

現在の第1試合

現在、新日本プロレスの第1試合を主に務めているのは、辻陽太選手、上村優也選手である。

ここに成田蓮選手や海野翔太選手、金光輝明選手が加わる。

これから新日本プロレスのファンはまだまだ増える。新しくファンになった方はぜひ、第1試合から注視して見てほしい。

メインイベンターのような派手さはない。最高の芸を磨いたトップレスラーと比較すればまだまだこれからの果実である。

だが、新日本プロレスという最高の土地で育っている極上の果実でもある。

彼らが育っていく景色をじっくりと楽しむ。

これが、新日本プロレスの第1試合が魅力的な理由なのだ。

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