高橋裕二郎の怪我。弱点がそのレスラーを輝かせる
高橋裕二郎の怪我。弱点があるからこそ、そのレスラーが輝くのだ。
今回も“神試合”で4度目の防衛を飾った「NEVER無差別6人タッグ王者」後藤洋央紀選手、石井智宏選手、YOSHI-HASHI選手。
個々の実力では、肉薄していてもタッグになると話は別。試合の途中には棒ちゃんが介入し、痛恨の一撃を放つなど乱戦となったが、最後はキッチリと荒武者が石森太二選手を討ち取った。
これで真壁刀義選手、矢野通選手、田口隆祐選手が持つ最多戴冠記録に並びトップタイ。後4ヶ月で最長防衛記録も見えてくる。
現時点でライバルとなるチームは既に無し。圧倒な実力と連携力でベルトの価値を爆発的に高め続けている。
さて、そろそろ本題へ入ろう。“俺たち”の高橋裕二郎選手についてだ。
今回のタイトルマッチは、“新日本最もエモーショナルな3人”に対して、“ガイジンユニット”の日本人メンバー3人が対角線に立った。
世界を目指し、日本の団体を飛び出した2人と新日本プロレスにいながら“ガイジンユニット”を選んだ1人。
さらにKENTA選手と高橋裕二郎選手は負傷の影響でかつてのパフォーマンスを出すことができなくなりながも、リングに立ち続けている。
パワー、キレ。20代の頃のようなプロレスはもうできない。ただし、プロレスとはどちらか強いかと同じくらいにどちらが凄いかを競う競技だと僕は思っている。
まずはタイトルマッチの前日から。スペシャルシングルマッチの3連戦で衝撃の事実が飛び出した。
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— njpwworld (@njpwworld) 2021年4月20日
Road to レスリングどんたく 2021(4/20)を公開‼️
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メインはNEVER無差別級6人タッグ選手権試合‼️
YOSHI-HASHIとKENTAが棒を奪い合う💥
棒をめぐる闘いの行方は⁉️
🆚 CHAOS💥 × BULLET CLUB💀
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俺たちの高橋裕二郎
棚橋弘至選手は石井智宏選手の言葉に対して「本気半分、期待半分」と語った。
まさしくその通り。長州力さんと天龍源一郎さんの薫陶を受けた石井智宏選手だけに、言葉の大切さタイミングの重要さを心得ている。
そして、一番言われたくない角度で痛烈な言葉を出してくる。
「お前じゃダメだ。東郷を出せ」
普段は飄々としてニタニタとした表情を浮かべる高橋裕二郎選手だが、その本質には気高き獅子の血が流れている。
以前、棚橋弘至選手が「地方のジムに行ったらいつも先に裕二郎がいる」と語ったほどに練習の虫。
そんな高橋裕二郎選手がどこかを怪我したことについては度々語れていた。
ただ具体的に何をいつどんな怪我を負ったのかは不明だったのだが、逸材の口から語られたことで、その全容が少しだけ明らかになった。
試合中ではなく練習での怪我。自分をより高みに追い上げる準備が裏目に出た時、高橋裕二郎選手は一体どんな気持ちだったのだろうか。
僕ならきっと堪えられない。何で自分なのだと世界を呪う。こんなにプロレスが好きなのに。こんなに。
スープレックスの名手として名を馳せた男を襲った悲劇は、その後の歴史に大きく影響した。
恐らくは“バレットクラブ”移籍後と見て間違いない。「G1クライマックス」にはエントリーされなくなり、年間に数試合しかシングルマッチが組まれなくなった。
また、タッグでもタイトルからは大きく遠ざかつている。
かつて内藤哲也選手と“ノーリミット”として暴れ回り、「IWGPタッグ」と「IWGPジュニアタッグ」を戴冠した実績からすると、非常に寂しい状況である。
ただ、分かりやすい王冠がなくとも、ファンに伝わるものもある。
高橋裕二郎選手は見えないところ。カメラが抜いてなかったり、微妙に映っているところで細かい仕事をしている。
それが、今の俺の生きる道なのだ、と。
可愛いお姉ちゃんもかつてのパワーも。色んなものに制約をつけられる中で、高橋裕二郎選手は生き抜いてきた。
そして、2020年以降、スポットライトが当たることも増えてきた。
30代以上に響く
新日本プロレスで好きなレスラーは?と訊かれたら、矢野通選手、YOH選手など“CHAOS”のメンバーを答えがち。だが、このコラムを読んでいる方はご存知の通り、僕は大の裕二郎狂である。
先日の石井智宏選手戦でスープレックスを連発し、裏ピンプジュースを魅せた時、思わず叫んだ!
「行ける!勝てる!」
マイアミ・シャインが決まり、いよいよここだ!
「東京ピンプス!!!」
が、高橋裕二郎選手はピンプジュースの体制へ。石井智宏選手はラリアットから一気に試合を終わらせた。
俺たちの高橋裕二郎が“また”負けた。
本来であれば、“CHAOS”と共闘する機会も多い棚橋弘至選手だけに、石井智宏選手贔屓の解説となるはずだが、高橋裕二郎選手側に立った解説を魅せていた。
“熱い裕二郎”が見たい。分かる。
バーに座ってテキーラを片手にニヤニヤとしている高橋裕二郎選手もカッコいいが、全てを引き出され、己の限界に向き合っている時の表情は非常に色気がある。
ただ、今の俺はこれだから、と。自分が新しく手に入れたファイトスタイルを貫く姿で勝つところも見てみたい。
己に向き合い、己が今できることを探し、手持ちのカードで勝負する。
この日もレッドシューズ海野レフリーをコーナーに押し付ける“汚れ役”を率先して行っていた。
地味で目立たない。決して主役ではない。ただ、その役割を誰かが担わなければならない。それが大人の戦い方だ。
手持ちのカード
少し、僕の話になってすまない。
30代中盤から徹夜が全くできなくなった。20代中盤から後半にかけてあれだけ徹夜して仕事をこなしていたにも関わらず、全くできない。
少しでも遅くまで起きようものなら、翌日全く頭が働かず、仕事にならない。
また、1日の中で長く働くこともキツくなってきた。散々当時の先輩から若いうちに無理すると、後々来るぞ?と言われていたにも関わらず、飛んでくる仕事の量がそうさせてくれなかった。
メンタルが折れた。会社を休んだ。
そこからは選択のミスも続き、数年間のキャリアを棒に振った。ほぼ何も学びがない数年だった。
新しい場所に流れ着いた時には無理が効かない身体になっていた。
ただ、そんな状況でも戦わなくてはならない。
遅く起きてられないのであれば、朝の時間をグッと早くした。5時前には起きて、自宅でコラムを書き、少し仕事をして走りに行っている。
今の僕はこの戦い方しかできない。てっぺんまで遊んで、そこから仕事に戻るなんて絶対に無理だ。
成果を出さなくてはならない。あの頃のように力技でどうにかできずとも違ったアプローチで戦うのだ。
話が逸れた。
高橋裕二郎選手はそんな生き方を見せてくれている。だから、僕も“勝つ”までいや、“勝っても”応援し続ける。
傷や人に言えない影を作りながら僕たちは日々を生きている。暗くてどんよりしているところがあるから、人は輝くことができるのだ。
高橋裕二郎選手の試合を見ていると、いつもそんなことを考えてしまう。ぽん引きの背中には哀愁と彼だけの魅力がたっぷりと詰まっているのだ。
僕が思う新日本プロレスで最もエモーショナルなレスラー・高橋裕二郎をこれからも応援し続けたい。
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