新日本プロレスが静岡で見せたCHAOS劇場
新日本プロレスが静岡で見せたCHAOS劇場。2019年3月20日の興行を見終わった瞬間浮かんだのはこの言葉だった。
この日開催された「ニュージャパンカップ2019」は「CHAOS」の同門対決2連戦。
メインイベントはオカダ・カズチカ選手VSウィル・オスプレイ選手。セミファイナルは石井智宏選手VS YOSHI-HASHI選手だ。
解説席には中邑真輔選手と共に「CHAOS」を旗揚げした矢野通選手が座り、ヘッドセットを付けた。
新日本プロレス本隊との共闘が日常的な光景となった今、「CHAOS」の価値とは何なのか。ユニットとしての立ち位置はどこにあるのか。
そんなファンの憶測を吹き飛ばすほどの好勝負が連続で繰り広げられた。
まずは結論から書こう。「CHAOS」とは混沌を意味する。このユニットにおける混沌とは、それぞれの個性が混じりあいながらも際立った輝きを魅せることだ。
一見すると全く違う個性を持ったプロレスラーが集まるユニット。その本質にあるのは、高いレベルでの調和と本気でぶつかり合える信頼関係だったように思う。
さぁ本題だ。まずはメインイベントのオカダ・カズチカ選手VSウィル・オスプレイ選手だ。
泣いたNEVER王者
今回、ウィル・オスプレイ選手には2つのテーマがあったように思う。
まずは、2018年の旗揚げ記念日で「IWGPジュニアヘビー級王座」として挑み、敗れてしまったことへのリベンジ。
次に「NEVER無差別級王者」として、「ニュージャパンカップ2019」の頂に上り詰め、MSGでジェイ・ホワイト選手から「IWGPヘビー級ベルト」を奪取することである。
一回戦、二回戦と新日本プロレスが誇るスーパーヘビー級のレスラー2人から勝利を掴んだウィル・オスプレイ選手だけに、勢いも準備も十二分にできている。
満を辞して、自身を新日本プロレスへと導いた恩人でもあるオカダ・カズチカ選手に結果といつ形で恩返しをする日が来たのだ。
強すぎる無冠の帝王
試合開始のゴングが鳴り響くと、歓声は半々といったところ。
序盤はグラウンドの攻防。ジワジワと試合が進んでいく中で、オカダ・カズチカ選手のペースで試合が進んでいく。
ミラノ・コレクションA.Tさんは王者の間というフレーズを出し、矢野通選手はオカダ・カズチカ選手について「体力を回復しつつ、攻める間の取り方が非常に上手い」と語った。
V12を実現した裏側にはオカダ・カズチカ選手は独特の間があったのだ。
試合中にはロープを挟み、心理戦も仕掛けた。
セミファイナルで石井智宏選手がYOSHI-HASHI選手を引き出したとすれば、オカダ・カズチカ選手がウィル・オスプレイ選手を導こうとしている。
ジュニアヘビー。ヘビー。どちらの領域でも結果を残すことができる空王へ向けるレインメーカーの眼差しは真剣だ。
レインメーカーへの反逆
試合中盤、レインメーカーポーズを取ったオカダ・カズチカ選手に対し、ハイキックが一閃。
ここから、ウィル・オスプレイ選手が攻める展開となった。
だが、切り札ストーム・ブレイカーをメキシコ式の巻き投げで切り返され、ショットガンドロップキックで一気に流れを引き戻す。
メキシコ、日本、アメリカ。様々な場所で得たプロレスの歴史を全て表現できる。
コレがオカダ・カズチカ選手の強さの秘訣だ。
最後はツームストンパイルドライバーを2発。レインメーカーでウィル・オスプレイ選手を沈めた。
ウィル・オスプレイ選手が新日本プロレスマットに現れた当初、オカダ・カズチカ選手をオマージュしたコスチュームを身にまとっていた。
心から尊敬する先輩との再戦や防衛戦。ウィル・オスプレイ選手のネクストステージは始まったばかりだ。
名勝負製造機
石井智宏選手VS YOSHI-HASHI選手。この一戦はYOSHI-HASHI選手にとってキャリアハイとなった一戦になったように思う。
幾度もくりかえされるエルボー、逆水平合戦。石井智宏選手に唾を吐きかけ、左肩のテーピングを自ら剥ぎ取った。
こんなYOSHI-HASHI選手の表情は見たことがない。全てを曝け出して全力で石井智宏選手に向かっていく。
物事が変わるのは一瞬
アントニオ猪木さんはプロレスについて、芸術性のあるスポーツだと説いた。
二人の試合を見ていると、その真髄を見たような気持ちにさせられた。
「YOSHI-HASHIお前もっとやれんだろ!?もっと来いや」
「やれますよ!俺やれますよ!いや、うるせーよ石井!!!てめーぶっ倒してやる!」
試合を通じて、繰り返し繰り返し行われる2人の対話。これこそが新日本プロレスの試合であり、石井智宏選手が引き出したYOSHI-HASHI選手に眠っていた才能だったように思う。
負けたらその場で終わりのトーナメント。YOSHI-HASHI選手は結果を残すことことができなかった。
勝った負けただけがプロレスではない。その一歩先にあるものを魅せてくれたように思う。
また、矢野通選手は試合中にこう発言した。
「気持ちで上回らなくてはならない」と。四度目の対決で石井智宏選手を上回ることはできるのか。次の試合が楽しみである。
ただし、この試合の後に石井智宏選手はノーコメントだった。
内容、結果、インパクト。この3つを満足できる試合になったのか。
その答えは石井智宏選手の胸の中にある。