『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』をスタートアップ企業に例えてみる【#4 夢の分岐点】

『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』6人目のパレハ“THE DRAGON”鷹木信悟選手。ドラゴン・ゲートの顔として活躍していた鷹木信悟選手の新日本プロレス入りは多くの波紋を呼んだ。

内藤哲也選手、EVIL選手、BUSHI選手、SANADA選手、高橋ヒロム選手。5人の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は新日本マットを席巻し、グッズの売上もダントツのTOP。バランスのよさ、完成度の高さから唯一無二のユニットだと誰しもが思っていたためだ。

だが、髙橋ヒロム選手の長期離脱により問題が生じてしまった。半年以上4人の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』を継続するにはあまりにもリスクが大きい。

『BULLET CLUB』を中心にユニットの再編や分裂が続くなか、2016年以降の新日本プロレスを牽引してきた『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』はパワーダウンしたままなのだろうか。

内藤哲也選手が変化の起爆剤として選んだのが同級生であり、アニマル浜口ジムの同門である鷹木信悟選手だった。

僕はこの選択は言葉通り、勇気のある行動だと思う。ただし、今後の『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』について、大きな分岐点になる瞬間だったように思う。

本連載、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』をスタートアップ企業に例えてみるの#4は“夢の分岐点”と題し、今後の鷹木信悟選手の未来ついて考えてみたい。

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スティーブ・ジョブズとジョン・スカリー

スティーブ・ジョブズ氏が当時ペプシのCEOを務めていたジョン・スカリー氏をAppleに招き入れるために用いた言葉をご存知だろうか。

「残りの一生を砂糖水を売って過ごしたいですか、それとも世界を変えるチャンスを手にしたいですか」

ジョン・スカリー氏はこの言葉を受けて、AppleのCEOに就任した。

では、鷹木信悟選手に置き換えてみるとどうだろう。ドラゴン・ゲートの退団を決意し、フリーのプロレスラーとして広い世界で活躍することを公言していた鷹木信悟選手。内藤哲也選手からのスカウトを受け、『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』に加入した背景にはこの言葉の影響が大きいように思う。

www.youtube.com

そう、「一歩踏み出す勇気」だ。

鷹木信悟選手はドラゴン・ゲート時代からテレビにも出演するなど、プロレスラーとしてマルチにPRできる力を持っていることを証明し続けてきた。また、フリー転身を発表したときには週刊プロレスの表紙も飾っている。きっと様々な選択肢があったに違いない。

週刊プロレス 2018年 9/26 号 [雑誌]

週刊プロレス 2018年 9/26 号 [雑誌]

 

ただ、ドラゴン・ゲートを卒業してまで目指す世界は、日本の各団体や一部海外リングにも上がるということに留まるわけがないのだ。

鷹木信悟選手が当時を振り返り、「一人勝ち」とまで語った新日本プロレス。あるいは「WWE」この2つが最も視野に入る団体だと思う。

広い世界で戦う。このメッセージを鵜呑みにすると「WWE」に行く道もありだ。だが、名前やキャラクターを一変させられる可能性が高い団体で「我道驀進」を追求できるのか。

新日本プロレスのトップ選手であり、海外での試合で獣神・サンダーライガー選手の声援を超えた中邑真輔選手がようやく本名のままリングに上がることが許される世界だ。それでも試合などを見ると新日本プロレス時代と比較して変わっている点も多い。

ドラゴン・ゲートで学んだこと、身につけたこと。鷹木信悟選手のプロレス。その全てを発揮し、ハイリスク・ハイリターンを得ることができるのは、新日本プロレスしかなかったと僕は思う。

だが、スティーブ・ジョブズ氏がジョン・スカリー氏をAppleに招き入れた後、何が起こったのか。ご存知の方も多いと思う。

制御不能が変化する日

これまでの『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』は内藤哲也選手よりも年下が加入するという掟があった。本人が体育会系の序列を嫌うが故の選択だったと語っている。

だが、今回加入した鷹木信悟選手は内藤哲也選手と同じ年。また、2人が結成している昭和57年会では鷹木信悟選手が会長を務めている。これまでの2人の人間関係は予想の範疇を超えているが、鷹木信悟選手の人となりを見るに、グイグイと周囲を引っ張る男気の溢れるタイプだったのではないだろうか。

そんな2人が同じユニットになり、意見が衝突した時に何が起きるのか。一つの答えが導き出される。

CEO・内藤哲也がスカウトしたCOO・鷹木信悟

鷹木信悟選手が新日本プロレスに本格参戦した『スーパージュニア・タッグリーグ2018』。初戦で昨年の『スーパージュニア・タッグトーナメント』の覇者『ロッポンギ3K』を下した試合で僕は2つの衝撃を受けた。

1つ目は試合内容。2つ目はマイクパフォーマンスだ。

まず、試合内容について。これは以前のブログにも記載したので割愛したい。端的にまとめるのであれば、新日本プロレスジュニアの若手選手たちに対して、壁になれるほどの存在だということだ。

njpwfun.hatenablog.com

そして、 試合内容の素晴らしさ以上に衝撃を覚えたのがこのマイクだ。

鷹木「よ~し、『SUPER Jr. TAG LEAGUE』開幕戦! なんとか、なんとか、昨年度覇者の(ROPPONGI)3Kに勝つことができたぞ、オイ!(※大歓声&大拍手&『信悟』コール) 俺は、内藤を始めロス・インゴのメンバーのおかげで、俺自身が一歩踏み出す勇気をいただいた(※大拍手)。俺がやるべきことはただひとつ。ここのリングで結果を残すことだ(※大歓声&大拍手)。俺は決して、高橋ヒロムの代わりではない(※驚きの声)。まあまあ、高橋ヒロムの代わりなんて、俺なんかにはできねぇよ(※場内笑)。だけどよ、彼が嫉妬して、ジェラシー抱いて、早くリングに帰って来る状況を作るのが俺たちの使命だと思ってる(※大歓声&大拍手)。なあ、BUSHI? 最後までトコトン突き進むぞ、オイ!」

 出典:新日本プロレス

「まあまあ、高橋ヒロムの代わりなんて、俺なんかにはできねぇよ(※場内笑)」ここだ。

俺なんか。俺“なんか”と言っている。

2017年のNumberのプロレス総選挙で51位に輝いているにも関わらず、だ。51位と聞いて低いと感じる人もいるかしれない。では、50位と52位の名前を聞いても同じことが言えるだろうか。

50位 BUSHI選手。51位 鷹木信悟選手 52位SANADA選手。

number.bunshun.jp

 余談だが、2017年のケニー・オメガ選手インタビューは東京スポーツ・岡本祐介記者が描き下ろしており、必見の内容になっている。

新日本プロレスという世界2位のプロレス団体で、最も勢いのあるユニットに加入している2人とほぼ同じ投票数なのである。

更にランキングを見てみると、石井智宏選手、小島聡選手、矢野通選手、YOSHI-HASHI選手、本間朋晃選手、永田裕志選手よりも上位にランクインしていることが分かる。

また、2018年の投票結果でも55位をマークしている。ここまでファンから支持されている選手が、俺“なんか”と言ったわけだ。この言葉に僕は衝撃を通り越して怖さすら覚えた。

 

優秀な人材は皆、謙虚である

あなたが勤務している会社で考えて欲しい。社長の直接スカウトにより、競合他社のエース級人材が転職してきた。どう見ても只者ではない実績とオーラを纏っている人材が、「私なんかができることは大したことではないので、皆さんよろしくお願いします」と言ったらどう感じるだろう。

仕事ができて謙虚でいい人。そう思うのではないだろうか。

ただ、僕はこうも思う。優秀な人材は皆、野心家である。謙虚に振る舞う姿勢はプラスに作用することはあっても、マイナスに作用することはない。社内で信頼関係を構築した後、何かが起きる、と。

鷹木信悟選手はそれを簡単にやってのけた。(※場内笑)と記載されているように、ユーモアを持って自身の立ち位置を証明した。圧倒的な力を持っている選手が、圧倒的なユーモアを持って「我道驀進」を図ろうというのだ。

5人で完成されたと思われていた『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』のメンバーとして受け入れられるのはそう簡単なことではない。だからこそ、試合では最高のパフォーマンスを見せ、マイクは謙虚に自分の意向を表明した。

笑っている場合ではない。彼は大変な策略家なのだ。

スティーブ・ジョブズはAppleを追放された

「残りの一生を砂糖水を売って過ごしたいですか、それとも世界を変えるチャンスを手にしたいですか」この言葉を受け、Appleに転職を果たしたジョン・スカリー氏は1985年に衝撃的なエピソードを残す。そう、スティーブ・ジョブズ氏の退任劇である。

では、鷹木信悟選手は今後どう動くのだろうか。内藤哲也選手は『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の拡大を予見している。その時に加入する選手たちが鷹木信悟選手経由での口利きだった場合ある仮説にたどり着く。

『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』VS『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』あるいは『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』の乗っ取りだ。

『BULLET CLUB』を見ても分かるように、ユニット内の抗争が発生する可能性はゼロではない。また、内藤哲也選手が絶対的支持を得ている状況だとしても、水面下で様々な動きがあるのがプロレスである。

鷹木信悟選手の「一歩踏み出す勇気」はムーブメントを巻き起こした内藤哲也選手を利用しつつ、自分の地位を盤石なものにすることではないだろうか。

ワールド・タッグリーグへの道

これから鷹木信悟選手は間違いなく注目を浴びることになる。起こり得る事実をここで予想しておこう。それは、『ワールド・タッグリーグ2018』へのエントリーだ。今回、ベルトを所有していない内藤哲也選手は念願が叶い2年ぶりに『ワールド・タッグリーグ』への参加を果たす。それはベルトを所有していないことからも明らかだ。

では、パートナーは誰か。EVIL選手&SANADA選手は2017年の覇者であり、IWGPヘビータッグベルトを戴冠した好タッグである。2016年にパートナーとして参戦したルーシュ選手を招集するという手もあるが、全日本プロレスでヘビー級を相手に好勝負を繰り広げた鷹木信悟選手を目の前にして、その選択肢を選ぶとは考えにくい。

つまり、鷹木信悟選手は『スーパージュニア・タッグリーグ』に続き、『ワールド・タッグリーグ』にも参戦するという二刀流を果たす可能性が非常に高いということだ。

事実、「髙橋ヒロムの代わりではない」という言葉から、ヘビー級にも早速名乗りを上げることに違和感はない。また、髙橋ヒロム選手はIWGPジュニアヘビーのベルトを巻いてIWGPヘビー級のベルトに挑戦することを以前から表明していた。その試合をゴールデンタイムでTV放送したい、とも。

ジュニアとヘビーの二刀流。この道を鷹木信悟選手が示すことで、更に髙橋ヒロム選手はジェラシーを感じる。もっと、もっと、もっと!早く復帰したい!と。

 

競争心。夢の分岐点

内藤哲也選手は『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』のメンバーについて「満足しているメンバーは追放する」と語っている。

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それほどに、メンバー内での競争や切磋琢磨を重んじていることが分かる。鷹木信悟選手の野心や「我道驀進」についても理解した上で6人目のパレハとしてスカウトしたのだろう。ここまで書いた反乱の可能性についてや様々な問題も加味し、理解した上で彼を『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』に欲しいと思っていることが分かる。

これから“制御不能の6人組”はどう進化を続けるのだろうか。急成長、安定の後にあるのは波乱である。

これまでのメンバーとは異なる個性を持った鷹木信悟選手がどう『ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン』として新しい景色を見せてくれるのか。その「我道驀進」が内藤哲也選手が掲げる「5大ドームツアー」という夢にどう影響を及ぼすのか。夢の分岐点は、はじまったばかりだ。

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